「あなた」はたった8つの構成要素からできている

簡易版のビッグファイブ検査を紹介しましたが、それがなにを意味するかを説明していなかったので、私の理解をかんたんに書いておきます。

あなたの性格を「簡易ビッグファイブ検査」で判定する

性格(パーソナリティ)というのは、内面にあるというよりも、周囲のひとたちが与える評価です。

あなたは初対面のひとに会ったとき、どこに注目するでしょうか。それが性格の構成要素である「ビッグファイブ」です。

標準的なビッグファイブ(性格のパーツ)は次の5つです。

(1) 外向的Extraversion/内向的Iintroversion
(2) 神経症傾向(楽観的/悲観的)Neuroticism
(3) 協調性(同調性+共感力)Agreeableness
(4) 堅実性(自制力)Conscientiousness
(5) 経験への開放性(新奇性・想像力)Openness to experience

『スピリチュアルズ』では、それを8つの拡張しました。

(1) 明るいか、暗いか(外向的/内向的)
(2) 神経質か、精神的に安定しているか(楽観的/悲観的)
(3) みんなといっしょにやっていけるか、自分勝手か(同調性)
(4) 相手に共感できるか、冷淡か(共感力)
(5) 信頼できるか、あてにならないか(堅実性)
(6) 面白いか、つまらないか(経験への開放性)
(7) 賢いか、そうでないか(知能)
(8) 魅力的か、そうでないか(外見)

どうでしょう。初対面のひとに対して、これ以外に興味をもつことがあるでしょうか。

このたった8つの構成要素から、複雑で陰影に富む一人ひとりの性格(パーソナリティ)がつくられ、その相互作用(ネットワーク)によって社会が構成されます。

「自分さがし」というのは、突き詰めて考えるなら、自分のパーソナリティに合った物語を創造することです。あなたをつくっているのは、どんなパーツですか?

あなたの性格を「簡易ビッグファイブ検査」で判定する

新刊『スピリチュアルズ 「わたし」の謎』では、パーソナリティ心理学のビッグファイブを8つに拡張して、「わたしもあなたも、たった〝8つの要素〟でできている」と述べましたが、「そもそもビッグファイブ検査って何?」というひとのために、同書から簡易版の検査をアップします。

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自分のパーソナリティを確認したいひとのために、2007年に心理学者のベアトリス・ラムステッドとオリバー・ジョンがつくった「BFI-10」というビッグファイブの判定基準を紹介しておこう。たった10項目の質問に答えるだけのごく簡単なものだが、より詳しい性格判定基準との一致率は84%ででじゅうぶん実用に耐えるとされる (*)。

以下の性格を表わす文(1)から(10)に、1から5の点数をつけてください。

1点=強く反対する
2点=少し反対する
3点=賛成でも反対でもない
4点=少し賛成する
5点=強く賛成する

(1) 能動的な想像力をもちあわせている( )
(2) 芸術への関心はほとんどもちあわせていない(  )
(3) ていねいな仕事をする(  )
(4) なまけがちだ(  )
(5) 一般的に信頼できる(  )
(6) 他人の欠点を探しがちだ(  )
(7) ゆったりしていて、ストレスにうまく対処できる(  )
(8) すぐにくよくよする(  )
(9) 外に出かけるのが好きで、社交的だ(  )
(10) 遠慮がちだ(  )

(1)と(2)は経験への開放性、(3)と(4)は堅実性、(5)と(6)は協調性、(7)と(8)は情動の安定性、(9)と(10)は外向性にかかわる。

それぞれのペアごとに奇数番号のスコアから偶数番号のスコアを引き算し、ビッグファイブに対応するスコアを計算する。スコアは「マイナス4」(とても低い)から「プラス4」(とても高い)までの幅がある。

(1)と(2)の合計がプラス4なら「経験への開放性が高い」、マイナス4なら「経験への開放性が低い」となる(以下同)。あまりに簡単だと思うかもしれないが、他人はあなたに対してこの程度のことしか気にしていないのだ。

とはいえ、このようなテストをしなくても、これまでの説明で自分のパーソナリティがわかったのではないだろうか。自分がどのようなキャラで、まわりからどのように見られているかは、社会のなかで生きていくのにものすごく重要なので、誰もが自分のことをかなり正確に理解している。「ほんとうの自分が見つからない」とか、「自分のことがわからない」といいながらも、実際にはみんな自分のキャラを強く意識しているのだ。

将来的には、SNSのビッグデータをAIで解析することで個人ごとのパーソナリティを正確に評価できるようになるだろう。じつはこれはすでに行なわれていて、PART2で紹介したパーソナリティ判定システムはケンブリッジ大学が公開しており、「Apply Magic Sauce」のホームページに自分のSNSデータをアップロードすることで体験できる(https://applymagicsauce.com/demo)。

残念なことに日本語には対応しておらず、私が自分のツイートを読み込ませたところ「年齢24歳」になった。どこかの野心的なベンチャーがこの日本語版を開発したら、「自分さがし」をしている多くのひとへの朗報になるだろう。

ビッグファイブ検査についてより詳しく知りたいなら、村上宣寛、村上千恵子『主要5因子性格検査ハンドブック三訂版 性格測定の基礎から主要5因子の世界へ』(筑摩書房)を参照されたい。

(*)Beatrice Rammstedt and Oliver P.Johnb(2007)Measuring personality in one minute or less: A 10-item short version of the Big Five Inventory in English and German, Journal of Research in Personality

『スピリチュアルズ 「わたし」の謎』あとがき

出版社の許可を得て、新刊『スピリチュアルズ 「わたし」の謎』の「あとがき」を掲載します。本日発売です。

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私はもともと、心理学の「性格診断」などというものをまったく信用していなかった。その考えを改めざるを得なくなったのは、ドナルド・トランプが当選した2016年の米大統領選をきっかけに、「SNSのビッグデータをAIに読み込ませるだけで有権者のパーソナリティが分析できる」「10の『いいね!』を見るだけで同僚よりも相手のことがよくわかるようになり、70の『いいね!』で友人のレベルを超え、150の『いいね!』で両親、250の『いいね!』で配偶者のレベルに達する」という驚くべきファクトを突きつけられたからだ。

それから、なぜこのような不思議なことが起きるのかを調べはじめた。本書はそこから得た知見をまとめた最初の試みで、これから何冊か「心理学のパラダイム転換」についての本を書いてみたいと考えている。

私はこれまで1年のうち3カ月ほどを海外で過ごしてきたが、未知の感染症によって旅に出ることはできなくなった。本書は、自宅と仕事場をひたすら往復する日々のなかで書き進めたものだ。

その作業のなかで、自分のパーソナリティをよりはっきりと理解できるようになった。

まず、私の内向性パーソナリティは平均より高い。五感が他人より敏感ということはないが、賑やかなところは苦手で、パーティなどにもほとんど出席しない。とはいえ、知らないひとと話をするのが嫌いというわけではなく、編集者時代は、のちに日本国の総理大臣になる政治家からヤクザの親分まで、面白そうなひとには片っ端から会いに行った(オウム真理教のサティアンも取材で訪れた)。

内向性スコアが高いと依存症になりにくいというが、たしかになにかにこだわるということはない。ギャンブルにはまったく興味がないし、若いときに吸っていたタバコもさしたる苦労もなくやめられた(イランを旅したときは、アルコールのない環境にすぐに順応できた)。所有や収集への欲求もほとんどなく、別荘はもちろんマイホームやマイカーももっていない。

新型コロナでわかったもうひとつの内向性のメリットは、他者との接触を避ける「新常態」に向いていることだ。この1年、家族以外とはほとんど対面で会わなかった(Zoomでの打ち合わせやインタビューはあった)が、それをストレスに感じたことはない。

抑うつ的になったことはあまりないので、神経症傾向はさほど高いわけではないだろう。だが楽観的かというとそんなことはなく、最後はどこかで野垂れ死ぬだろうと思っているところはある。本書も含め、自分が書くものに「抑うつリアリズム」が強く反映していることもわかっている。

社会に反抗するようなことはないが、中学生の頃から組織のなかでうまくやっていけそうにないことは自覚していた。サラリーマン経験はあるものの10年ちょっとで、いまはもの書きという自営業をしているのだから、同調性は他人より低いだろう。

共感力は女性よりは明らかに低いが、男性の平均程度ではないかと思っている(そもそも共感力の高い男というのをあまり見たことがない)。Qの尻尾は左側に書くタイプだ。

堅実性は、もの書きになってから原稿の締め切りをいちども遅らせたことがないので、高い方ではないかと思う。ただし、意味がないと思うことでもこつこつやる、ということはまったくない。

知らない土地を旅して、自分とはちがうひとたちと出会うのが面白いと思っているので、経験への開放性は平均より高いのではないか。芸術的なセンスはないが、みんなが話題にしているものには関心がない、という傾向はある。

読者も、本書から同じように、自分のパーソナリティについてなんらかの気づきを得られたのではないだろうか。自分を知ることが大事なのは、けっきょく、自分がもっているものでなんとかやっていくしかないからだ。

近年の「コネクトする脳」仮説では、ヒトの脳は「つながる」ように設計されていると考える。徹底的に社会的な動物であるヒトは、ごく自然に他者と交流し、助け合い、競争する。そればかりか、わたしたちはイマジネーション(想像力)によって、祖先や歴史上の人物、アニメやマンガ、ゲームなどのヴァーチャルなキャラとも「つながる」ことができる。わたしもあなたも、客観的には、時空を超えた巨大なネットワーク(世界)のひとつのノード(結節点)に過ぎない。そのきわめて小さなノードの一つひとつが、主観的には〝神〟だと錯覚しているところに、人生のよろこびと絶望があるのだろう。

この本は、そんなスピリチュアルをテーマにした当初の構想の前半にあたる。私の理解では、心理学におけるもうひとつのパラダイム転換は、「無意識は自らの死すべき運命を拒絶しようとしている」という「死の回避(存在脅威管理)理論(*1)」で、後半はそれに基づいて宗教や神秘主義などスピリチュアリティを論じたいと思っていたのだが、そうなると分量が大幅に増えていつ完成するかわからないので、残念だが次の機会にしたい。本書は、『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』『(日本人)』(ともに幻冬舎文庫)に続く三部作として読んでいただければと思う。

私の他の著作と同様に、本書のベースにあるのは進化論だ。思想や感情が脳の産物である以上、それは長大な進化の過程で、生存や生殖を最適化するために「設計」されたプログラムと考えるほかはない。驚異的なテクノロジーの進歩を背景に、将来的には、人間や社会に関する学問分野はすべて進化論に収斂していくはずだし、事実、心理学、社会学から政治学や経済学(あるいは哲学、宗教学)に至るまで、人文科学系の学問は脳科学や遺伝学、進化生物学、進化心理学、ゲーム理論などの自然科学に侵食され吸収されつつある。日本の「文系知識人」の多くはいまだにこのことに気づいていないようなので、あえて指摘しておく(*2)。

わたしたちは誰もが、スピリチュアル=神として、自分だけの物語を生きている。これは、人類が数万年、あるいは数十万年前に自己(過去から未来へとつづく物語)を獲得したときに運命づけられたのだろう。それは祝福でもあり、呪いでもあった。

78億の物語は重なりあって共鳴し、ときに熱狂を生むとしても、本来は別々のものだ。わたしとあなたの物語が完全に重なりあうことはなく、孤独はつねに人生とともにある。

「自分さがし」というのは、突き詰めて考えるなら、自分のキャラ(パーソナリティ)とそれに合った物語を創造することだ。おそらくは、人生にそれ以外の意味はないのだろう。

*1
アーネスト・ベッカー『死の拒絶』平凡社、シェルドン・ソロモン、ジェフ・グリーンバーグ、トム・ピジンスキー『なぜ保守化し、感情的な選択をしてしまうのか 人間の心の芯に巣くう虫』インターシフト

*2
詳しくは拙著『「読まなくてもいい本」の読書案内 知の最前線を5日間で探検する』(ちくま文庫)を参照されたい。