作家・橘玲(たちばなあきら)の公式サイトです。はじめての方は、最初にこちらの「ABOUT THIS SITE」と橘玲からの「ご挨拶」をご覧ください。また、自己紹介を兼ねた「橘玲 6つのQ&A」はこちらをどうぞ。
バンコクの病院はグローバルスタンダード
ダイヤモンド社と共同で行なっていた「海外投資の歩き方」のサイトが終了し、過去記事が読めなくなったので、このブログで再掲載していくことにします。
今回は2013年5月公開の記事です。(一部改変)

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私たちは、病気になったらどの病院にかかるかを考える。書店に行くと、「よい病院」を調べたランキング本が並んでいる。日本では、病気は病院で治すものだ。
「なにを当たり前のことを」と思うかもしれないが、海外では、患者は病院ではなく医師を選ぶ。
私は医療の専門家ではなく、これまで外国の病院を見学したのはニューヨークの大病院のER(救急救命室)と、最先端の精神病院(1泊あたりのコストがウォルドルフ=アストリアホテルより高い)だけだ。
今回、バンコクのサミティヴェート病院を訪れる機会があって、ようやく欧米型の医療制度がどういうものか理解できた。
日本の病院は国際的ランキングで最下位にすら入れない「医療後進国」
先進国の観光客がアジアや中南米など物価の安い国で余暇を過ごすように、メディカルツーリズム(医療観光)は、安価な医療や(生体移植など)母国では不可能な治療を求めて患者が海外に渡ることをいう。最先端の高度な治療を受けられるのがアメリカであることは間違いないが、当然、医療費もおそろしく高くなるから、メディアルツーリズムというと、インドやシンガポール、メキシコなどが挙げられることが多い。
こうした国々の病院は、アメリカで医学を学び、手術・治療の経験を積んだ医師を揃えている。彼らが帰国したのは、アメリカで「その他大勢」の医師の1人となるよりも、母国で「特別な専門家」として遇された方がずっといいからだ。患者にとっては、アメリカと同じ水準の医療をずっと安く(ずっと快適に)受けられることになる。
国際的な大学ランキングでは東大ですら二流になってしまうのはよく知られているが、国際的な病院ランキングでは日本の有名病院の多くは最下位にすら入れない。そもそも評価される資格がないからだ。
米国のジョイント・コミッション・インターナショナル(JCI)は病院の質を保証する国際的な認証機関で、医療分野で世界で認められるためには「JCI認証」が最低条件になる。ところがこの認証を受けた病院は、2011年まで、日本では亀田総合病院(千葉県鴨川市)しかなかった(2012年以降、聖路加国際病院、NTT病院など6病院が取得)。
その一方、アジアのメディカルツーリズムの先頭を走るシンガポールでは、国立大学病院(2004年取得)をはじめとして22病院がJCI認証を受けている。医療ビジネスでシンガポールを追走するのがタイで、こちらは最大手のバンコク病院を筆頭に、現在、JCI認証施設が26病院ある。
何年か前に、中国などの富裕層を日本の病院に迎え入れるメディカルツーリズムが厚生労働省や経済産業省によって提案されたが、このとき日本にはJCI認証病院がほとんどなかった。ところが中国には、JCI認証を受けた病院が30施設ちかくあり、なかでも北京郊外の燕達国際健康城は50万平米の敷地に3000床を擁するメガ病院で、日本の駐在員や富裕層の患者のために日本語サービスも提供している。
日本の医療が内に引きこもっているあいだに、彼我の立場はすっかり逆転してしまった。“世界基準”の医療を提供するこれらの病院と比べれば、日本は明らかに「医療後進国」なのだ。
病院の滞在時間は極力短く、その代わり病室は全室個室のスイート
タイ最大の病院グループはバンコク・ドゥシット・メディカル・サービシーズで、1969年の創業以来、バンコク病院を中心に富裕層向けに高度な医療を提供し、積極的なM&Aで業容を拡大してきた。1991年にはタイ証券取引所に株式を上場し、いまでは東南アジアを代表する企業のひとつになっている。今回訪れたサミティヴェート病院もその傘下で、バンコクでも日本人の多いスクンヴィット地区にあることから、駐在員やその家族など日本人の利用が多いことで知られている。
タイではまだ医療保険制度が整備されておらず、私立病院で治療を受けられるのは限られた富裕層と外国人だけだ。バンコクでは、バンコク病院、サミティヴェート病院、バムルンラード病院が3大病院とされているが、いずれも日本人専用の受付や日本語通訳を揃えている。サミティヴェート病院の場合、年間約60万人の患者のうち40%が外国人で、日本人はその半分(全体の20%)だ。
サミティヴェート病院の日本人部門を任されているMさんは、ずっとホテル業界で仕事をしていて、シャングリ・ラやヒルトンなどを経て前職はクアラルンプールのマンダリン・オリエンタルホテルのマネージャーだった。いきなりヘッドハンターから電話がかかってきて、「病院の仕事に興味はあるか?」と訊かれた時は、間違い電話だと思ったという。
だが病院を訪れてみると、なぜ自分に声がかかったのかすぐにわかった。サミティヴェート病院は富裕層の患者だけを顧客にしているから、そのサービスも5つ星ホテルに匹敵する最高級のものでなければならないのだ。
実際、サミティヴェート病院を訪れると日本の病院との違いに愕然とする。
タクシーを降りると、ドアマンがすかさず駆け寄って女性に日傘を差しかける。ドアを開ければホテルのロビーのようなゆったりとしたソファが並び、地階には洒落たコーヒーショップやベーカリーがある。
もっとも、患者がこうした共有スペースに長く留まることはない。診察は完全予約制なので、病院に着いたら担当の医師のところに行き、診察と精算が終わればさっさと帰ってしまう。
「日本では病院の待合室で何時間も待たされるのが当たり前ですが、こちらでは、病院というのはさまざまな感染症の危険のある場所だというのが常識です」と、Mさんはいう。「だから、完全予約制でできるだけ病院内での患者さんの滞在時間を短くする。それでもどうしても病院にいなければならない時は、できるだけ快適に過ごしてもらおうということです」
病室は当然、全室個室で、応接を併設したスイートもある。家族が付き添えるようベッドを入れることもできるし、最近は忙しいビジネスマンのために寝ながらパソコンを操作できるようにしているという。
「同じ理由で、手術後もできるだけ短期で退院していただくようにしています。理想は日帰りの手術ですが、それが無理な場合は、次善の策として、快適な個室を用意しています」
感染症のリスクを考えれば相部屋など考えられないというのが、高度医療の常識なのだ。
医師会の重鎮が自らの手術のために渡米する
日本の医療との違いはサービス面だけではない。
日本では、勤務医は病院に所属するサラリーマンだ。それに対してサミティヴェートでは、医師は自営業者(専門職)として病院と契約を結ぶ。
病院は医師に対して、手術室や病室などの治療インフラと、治療費の精算などの事務サービスを提供する。医師は自らの力量で患者を集め、ドクターフィー(診療報酬)を請求し、その一部を“家賃”として病院に支払うのだ。
医師は自分のドクターフィーを自由に決められるから、実力さえあれば青天井の収入が約束されており、裕福な患者に最高の設備とサービスを提供できる病院と契約しようと考える。
病院としても、自らの名声で患者を集められる医師をさまざまな便宜を図って確保しようとする一方で、「売上」が目標に達しない医師は翌年の契約を解除してしまう。タイの医師免許を外国人が取得するのは難しいから国際レベルでの自由競争が行なわれているわけではないが、それでも日本の医療制度とはまるで違う。
高級な私立病院には相応の実績のある医師が集まることになるが、ドクターフィーが能力の基準というわけでもない。
「高額の診療費を請求する医者もいれば、腕がいいのに良心的なドクターフィーしか請求しない医者もいます。なかには大学病院と掛け持ちで、“サミティヴェートだとお金がかかるから次からは大学に来なさい”とアドバイスする医者もいます。病院経営的にはドクターフィーは高ければ高いほどいいのですが、だからといって、カネがすべて、というわけでもありません」(Mさん)
もっとも、日本人の患者の多くが海外旅行保険を利用している。これなら自腹での支払いはほとんどないのだから、最高の治療を受け、最高級の個室で療養するのがいちばんだ。現状では、メディカルツーリズムは保険を前提に成立している。
保険が使えない患者は、高額なドクターフィーのほかに、1日8000バーツ(約2万8000円)~1万バーツ(約3万4000円)の個室料金も自己負担しなければならない。タイの平均的な所得ではとてもこんな金額は払えないから、外国人の患者(保険)で利益をあげて、それを一般のタイ人に還元しているともいえそうだ。
病院は厳密な評価に基づいて医師を選抜しているが、それでも患者の満足度は同じではない。スタッフは当然、医者の評判を知っているので、日本人相談窓口では専門に応じて医師選びのアドバイスをしてくれる。診察の際にも日本語の通訳がつくから、言葉の問題で困ることはない。
病院が“大家”になって自営業者の医師と契約する仕組みは、サミティヴェートだけでなく、タイの私立病院はどこも同じだ。もちろん大元はアメリカの医療制度で、これが“グローバルスタンダード”なのだから、いちど体験しておくとシンガポールやインドなど他の国の病院でも戸惑うことはないだろう。
サミティヴェートのMさんのところには、日本の医療関係者の見学が引きもきらない。
日本の医療は、「国民皆保険」の代償として、がんじがらめの規制で自由なビジネスができなくなっている。それに対して、自らの才覚で医療を事業化し、株式を上場させたうえで、高度な医療サービスとビジネスを両立させている現実を目の当たりにして、みんな大きなショックを受けるという。
日本からアメリカに渡って最先端の医療を身につけた医師は、自由診療がきびしく制限された日本の病院でサラリーマン生活をする気にはならず、ほとんど戻ってはこない。これは医師の既得権を守る仕組みでもあるが、その間に日本の医療は世界水準からすっかり遅れてしまった。医師会の重鎮が日本の医療を信用せず、自らの手術のために渡米するという笑えない話はいくらでもある。
バンコクの病院で“世界”に触れ、未来の夢をさんざん語り合った後、毎回のように、「やっぱり日本では無理ですよね」との自嘲でMさんとの会話は終わる。こうして、ガラパゴス化した日本の医療はいつまでも続くことになるのだ。
禁・無断転載
バリ島の喧騒のなかで、人口と人権の関係を考えてみた
ダイヤモンド社と共同で行なっていた「海外投資の歩き方」のサイトが終了し、過去記事が読めなくなったので、このブログで再掲載していくことにします。
今回は2013年5月公開の記事です。(一部改変)

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バリ島のデンパサール空港に飛行機が着陸すると、お揃いの青いシャツを着たタクシー運転手たちが一斉に到着ゲートに集まってたいへんな騒ぎになる。スーツケースを引きずりながらゲートから出てくる観光客に我先に声をかけ、あちこちで値段交渉が始まるのだ。
【註】この記事は2013年3月のバリ島旅行のときのもので、24年5月にバリを訪れたときは、デンパサール空港からウブドまで配車アプリのGrabを利用して移動した。
もっとも、個人旅行をする観光客よりもタクシー運転手の数が圧倒的に多いので、ほとんどが仕事にあぶれてしまう。そうするとまた所在なげに次の便を待つことになって、こうして一日が終わっていく。
空港で客待ちをする運転手たちの行動を観察していると、そこには部外者にはわからない微妙な棲み分けがあるらしい。
客をつかまえる確率は、もちろん到着ゲートに近いほど高くなる。しかしなかには、到着ゲートに近寄らず、かなり離れたところで必死に声をかけている運転手もいる。彼らは新入りで到着ゲートに近い一等地で客引きをする権利が認められていないのだろうが、これでは宝くじを当てるのと同じで、いくらなんでも効率が悪すぎる。
タクシー乗り場を整備して順番に客待ちをするか、せめて乗車窓口を統一して配車係が案内すればいいのに、なぜこんなに非効率なやり方しかできないのだろうか――。
ひとが多すぎる社会では、効率的なシステムをつくってはならない
バリというとクタやレギャン、ヌサドゥアといったビーチリゾートが有名だが、リピーターのなかには芸能と芸術の村ウブドに通い詰めるひとも多い。11~14世紀半ばにバリ島初期の王朝があった地域で、稲穂の揺れる田園風景のなかに古代の遺跡やヒンドゥー寺院が点在し、夜になれば村のあちらこちらで伝統舞踏が披露される。
ウブドは世界的な観光地だが、たどり着くにはデンパサール空港からタクシーに乗って、狭い二車線道路を北上するしかない。すいていれば1時間半ほどの距離だが、雨や事故で渋滞すれば抜け道がほとんどないのでたちまち悲惨なことになる。
空港を中心に北のウブドと南のビーチリゾートを結ぶ高速道路や鉄道をつくればアクセスは格段に向上し、もっとたくさんの観光客がやってくるようになるだろう。こんなことは都市計画の専門家でなくても、素人だってわかりそうなものだが、いつまで経っても交通インフラが整備される気配はなく、訪れるたびに渋滞はひどくなる一方だ。
ウブド周辺の美しい水田地帯には高級リゾートのアマンダリや王家のリゾート、ロイヤル・ピタ・マハなどがありハネムーナーに人気だが、ほとんどの観光施設はウブド王宮の周辺に集まっている。
ウブドにはタクシーはないから、周辺の宿泊施設に泊まると、ホテルの車でウブド王宮あたりまで送ってもらい、食事や買物、観光が終わるとホテルに電話して迎えに来てもらうことになる。これではあまりにも面倒だと思うだろうが、そこはよくしたもので、路上駐車している車の多くが白タクで、観光客が通るたびに声をかけてくる。行き先を告げて料金交渉するのだが、概して明朗会計で、片道500円も出せばたいていのところは行ける。
とはいえ、ウブドの街を訪れたひとなら、たちまちもっと効率的な方法があることに気づくだろう。ウブド王宮を長方形の一角として、南に向かうジャラン・モンキー・フォレストとジャラン・ハヌマンの2本の大通りがある。1時間も歩けば一周できるこの長方形の区画が観光の中心で、その周囲にホテルが点在しているのだから、ホテル地区から往復のバスを出し、中心部は小型のマイクロバスを循環させれば観光客の利便性は飛躍的に高まるだろう。おまけに白タクの路上駐車も減って交通渋滞が緩和され、コストもほとんどかからない。
なぜこんなかんたんなことができないのだろう?
政治・行政制度の混乱や政府資金の配分などさまざまな問題がありそうだが、そのいちばんの理由は効率が失業を生むからだろう。空港と観光地を結ぶモノレールとか、ウブドを循環する小型バスなどを導入すると、空港や路上で客引きをしていたタクシー(白タク)運転手のやることがなくなってしまうのだ。
もちろん現状でも、1日じゅう客がつかず1銭にもならなかった、ということは多々あるだろう。だがそれでも、仕事をしていることには変わりない。「働いたけれど稼げなかった」のと、「失業してやることがない」のでは、同じゼロ円でも心理的には大きなちがいがある。
ひとが多すぎる社会では、失業者を増やしたくなければ効率的なシステムをつくってはならないのだ。 続きを読む →
超高齢社会・日本の「令和8年夏の敗戦」(週刊プレイボーイ連載697)
今年の夏に公開された映画『開戦前夜』は、真珠湾攻撃の8カ月前、官・軍・民から選ばれた若手エリートが模擬内閣をつくり、日本がアメリカと戦争したらどうなるかを検討した実在の「総力戦研究所」が舞台です。
国家機密レベルの資料に基づく彼らのシミュレーションの結論は「日本必負」という衝撃的なものですが、その論理はきわめてシンプルです。
日本は石油をすべて輸入に頼る資源のない国で、アメリカは石油を自国で産出できます。そこで日本はインドネシアに進出し、そこに無尽蔵に眠る(とされた)資源を確保すれば、アメリカとも互角に戦えるとされてきました。
しかしこれは、輸送を考慮しない机上の空論です。東南アジアの石油資源を掌握できたとしても、それを日本まで運んでこなければ、軍艦も戦闘機もつくれないのです。
アメリカ本土を侵攻しないかぎり、日本にはアメリカの石油生産を止める手立てがありません。それに対してアメリカは、南洋から石油を積んで日本に向かう輸送船を潜水艦で沈めることで、大きなダメージを与えることができます。
当時の日本の造船能力では、消失する船を上回る輸送船をつくることができませんでした。こうして、たとえ初期の軍事作戦が成功したとしても、やがて日本は劣勢になり、3年程度で敗北するというきわめて精度の高い予想になったのです。――総力戦研究所の若手たちは、ドイツの敗北とソ連の日本への宣戦布告も想定しており、唯一、予想できなかったのは原爆投下だけとされます。
映画では、軍の幹部や政治家もこのことを知っていながら、戦争による状況打開を求める国内の「空気」に抗しきれず、「あらかじめ決められていた破滅」へと突き進んでいく姿が描かれます。しかし、それから85年後の日本に生きるわたしたちは、これを「バカだなあ」と笑えるでしょうか。
日本は少子高齢化によって、空前の人手不足に陥っています。厚労省の推計では、2025~40年の15年間で生産年齢人口は大都市で11.9%、地方都市で19.1%、過疎地域で28.4%減少し、看護人材の供給源となる18歳人口も3割減る見通しです。
一方、25年に団塊の世代は全員が75歳以上になり、40年に向けて85歳以上人口・死亡者数・独居高齢者が大きく増え、このままでは救急・手術・在宅医療・みとりのいずれも維持できなくなると専門家は予想しています。
人口動態は(ほぼ)確実に予想できる未来で、政治家ももちろんこのことはわかっているでしょうが、「責任ある積極財政」を掲げるひとたちは、「嫌移民」の保守層の反発を怖れ、最大の供給制約である人手不足を無視しています。ようやく重い腰を上げるのは、医療や看護・介護が破綻してひとびとが騒ぎ出してからでしょうが、そのときにはもう手遅れです。
もちろん、「超知能AIを搭載したロボットがほとんどの仕事を代替するようになるから、人手不足はなくなる」というテクノロジー・ユートピアの未来が訪れるかもしれません。でもこれは、どこか「南洋に進出すれば無限の資源が手に入る」という楽観論に似ています。
政府の無為無策が「令和8年夏の敗戦」にならないことを祈るばかりです。
参考:高橋泰国際医療福祉大学教授「2040年の地域医療構想(下)供給制約や行動変容考慮を」日本経済新聞2026年8月28日
【後註】日本経済新聞2026年9月6日「労働需給、国推計なぜ「均衡」」で、経済産業省、リクルートワークス研究所、野村総合研究所の3者が公表している2040年の労働人口の推計値に大きな差があると報じています。
野村総研のリポート「人的資本経営に求められる労働需給将来推計」では、2040年の労働需要7650万人に対して労働供給6536万人で1114万人の不足、リクルートワークス研究所の「未来予測2040」では各6867万人、5767万人で1100万人の不足ですが、経産省の「2040年の就業構造推計(改訂版)」では労働需要、労働供給ともに6303万人で均衡するとしています。
3者の推計は労働政策研究・研修機構(JILPT)の「労働力需給モデル」をベースにしていますが、このような大きなちがいが生じるのは、民間が「想定される現実的な(賃金上昇率の)水準を上限に(受給を)調整」しているのに対し、経産省は官民目標の国内投資200兆円を織り込み、AIやロボット、リスキリングなどで名目GDP成長率が3.1%、賃金上昇率が名目3.3%、労働生産性が名目3.7%に高まるという高成長シナリオによって、労働力の受給が一致するまで賃金上昇率を上げているためだとされます。
これについて専門家は「これまで国が描いた高成長ケースは実現してこなかったのではないか」と指摘しています。
『週刊プレイボーイ』2026年9月14日発売号 禁・無断転載