男はなぜいつも不倫で人生をだいなしにするのか? 週刊プレイボーイ連載(437)

新型コロナウイルスの緊急事態宣言が解除されたほっと一息ついたと思ったら、メディアは「トイレ不倫」一色です。事件の詳細は芸能誌に任せるとして、ここでは「男はなぜいつも不倫で人生をだいなしにするのか?」を考えてみましょう。

素敵な女性と結婚し、かわいい子どもが生まれ、経済的になんの不安もないとしたら、これ以上望むことなどないはずです。理性=意識で考えればたしかにそのとおりでしょうが、じつは無意識はそのようには思っていません。なぜなら、一人の女性が生める子どもの数にはきびしい制約があるから。

イギリスの進化生物学者リチャード・ドーキンスは、「利己的な遺伝子」の目的は自己の複製をできるだけ多く広めることで、そのためにヴィークルである生き物(ヒト)を「設計」したのだといいます。

一人の女性と生涯にわたって深く愛し合う男と、出会った女と片っ端からセックスする男がいたとしましょう。道徳的な男は、愛する妻と2人または3人の子どもをつくります。それに対して不道徳な男は数十人、もしかしたら数百人の子どもをもつかもしれません。男にとって精子をつくるコストはきわめて低く、思春期から半世紀以上も生殖能力は持続するので、なんの制約もなければ膨大な数の女と性交できるのです。

このように考えれば、進化の過程で道徳的な遺伝子が淘汰され、不道徳な遺伝子が生き残ったのは明らかです。私たちはみな、生涯に1000人以上の女性とベッドを共にしたとされるカサノバの末裔なのです。

魅力的な女性をうまく口説いて子どもができると、男の脳のなかで無意識が「任務完了」と囁きます。子育てはその女性に任せ、さっさと別の女を口説いた方が、利己的な遺伝子にとって費用対効果が高いのです。

「トイレ不倫」に対して、ワイドショーの女性コメンテーターが「これは性依存症ではないのか」と述べていましたが、「わかってないなあ」と思ったひとも多いでしょう。多目的トイレを使うかどうかは別として、男はみんな性依存症なのです(いわないだけで)。

だとしたら、女の「純愛」はつねに裏切られるのでしょうか。残念ながら、これまでずっとそうだったように、これからも同じでしょう。数年前から始まった「イクメン」のブームは、数百万年の進化の圧力に対してはなんの役にも立たないのです。

しかしさらに考えみると、女が特定のパートナーと長期的な関係をつくらなければならないのは、社会の富を男が独占しているからです。女性が経済的に自立し、男(夫)に依存しなくなれば、男女の不均衡な関係は大きく変わるでしょう。

こうして一夫一妻制は解体し、自由恋愛と多様な家族へと向かっていくのだろうと思いますが、その先にどのような世界が待っているのかはよくわかりません。ひとつだけたしかなのは、男の「モテ」と「非モテ」の格差がいま以上に広がることです。

私たちはどのような「性愛の本能」を埋め込まれているのか。そんな話を『女と男 なぜわかりあえないのか』(文書新書)に書きました。身も蓋もない話が好きなひとなら、気に入ってもらえると思います。

『週刊プレイボーイ』2020年7月6日発売号 禁・無断転載

産経新聞社/朝日新聞社への取材依頼の回答

東京高検検事長が新聞記者宅で賭け麻雀に興じていた件について、『週刊プレイボーイ』編集部を通じて両新聞社にインタビューを申し入れていましたが、このたび両社から回答がありました。『週刊プレイボーイ』編集部の許可を得て、個人名および連絡先を伏せたうえで公開します。

まずは朝日新聞社の回答です。

次いで産経新聞社からの回答で、こちらはFAXで送られてきました。

第90回 社員と個人事業主 並存の矛盾(橘玲の世界は損得勘定)

日本郵政傘下の日本郵便とかんぽ生命保険の社員が、収入が減った個人事業主らを救済する持続化給付金を請求したとして、日本郵政が社内調査を始めたと報じられた(その後120人が申請と判明)。この記事で不可解なのは次の記述だ。

「かんぽ生命と、郵便局で保険を取り扱う日本郵便の営業担当社員は、自社の給与所得以外に、保険契約に伴う営業手当を事業所得として受け取り確定申告している」(5月27日時事通信)

どこがおかしいかというと、会社から給与を支払われる「社員」でありながら、それとは別に事業所得を受け取って「個人事業主」になっていることだ。日本の妖怪「ぬえ」は猿の顔、狸の胴体、虎の手足、蛇の尾をもつとされるが、「社員なのに個人事業主」なんてことができるのだろうか。

民間生保や不動産会社の営業でも、報酬を事業所得にしているところがある。ただしこの場合は完全歩合制で、経費も自分もち。当初は最低保証があっても、契約が取れなければ報酬はゼロになり、成績次第では解雇されるのがふつうだ。個人事業主が会社と営業・販売契約を結んでいると考えれば、報酬が事業所得なのは納得できる。

税法上、給与所得には仕事の内容にかかわらず一定の給与所得控除が認められる。個人事業主として事業所得を青色申告すれば、最高65万円の青色申告特別控除を受けられるばかりか、家賃や接待交際費、家族など事業専従者への給料などが経費にできる。

当然のことながら、これを両方使えれば大きな節税になり、ものすごく有利だ。そのためには給与とは別のところで所得を得ればいいのだが、家業を手伝っているなどの特別なケース以外ではこれまで認められなかった。副業が注目される理由のひとつは、ふつうのサラリーマンが、会社公認でこの節税策を利用できるようになるからだろう。

とはいえ、週末にちょっとアルバイトしたくらいで、それを事業所得にして大きな経費を計上し、赤字にして節税するなどという甘いことはできない。税務署が「事業」と認めないものは、雑所得になって損益通算できないのだ。

このように、税の公平性からして、給与所得と事業所得はきちんと分けなければならない。そう考えれば、日本郵便とかんぽ生命の「営業担当社員」の扱いがきわめて異例なことがわかるだろう。会社と社員としての雇用契約を結びながら、成果報酬を事業所得として受け取り経費を二重に計上することなど、本来できるはずはないのだ。

ということは、私の理解が間違っていて、この「営業担当社員」はじつは個人事業主で、契約は無期ではなく有期で、厚生年金や組合健保にも加入せず、個人事業主税をちゃんと納めているのだろうか。もしそうなら、逆に「給与」を支払っていることがおかしくなる。

重い税・社会保障費に苦しむ全国のサラリーマンも、こんな魔法のようなことができるのか、真相を知りたいはずだ。

橘玲の世界は損得勘定 Vol.90『日経ヴェリタス』2020年6月13日号掲載
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