明けましておめでとうございます

明けましておめでとうございます。

今年がみなさまにとってよい1年でありますように。

昨年は無事、小説『HACK』を刊行することができてほっとしています。年末年始のお休みで多くの方に読んでもらえるとうれしいです。

PHOTOツアーで『HACK』の舞台を体験することもできます。

2026年元旦 橘 玲

Six Senses Krabey Island, Sihanoukville, Cambodia

今年は案外よい年だった?(週刊プレイボーイ連載667)

2025年のもっとも大きな出来事は、日本ではじめての女性首相が誕生したことでしょう。台湾有事をめぐる高市早苗首相の国会答弁に中国が強く反発し、常識では理解できないような対応(というか、いやがらせ)を行なったこともあって、高い支持率を維持しています。

日本経済はデフレから「脱却」したあと、物価の上昇に賃上げが追いつかず、実質賃金が長期にわたって下がりつづけています。とりわけ米の価格が急騰したことで家計が苦しくなり、それが衆院選での国民民主党と参政党の躍進につながりました。高市政権は「責任ある積極財政」を掲げてインフレ対策にちからを入れていますが、その結果、円安がさらに進んで輸入物価が上昇し、長期金利が上昇しています。

とはいえ、「トランプ関税」や米中対立で世界経済が破綻するようなことは起きず、逆にAI(人工知能)への期待(あるいはバブル)によって株価が上昇し、日本の株式市場は1990年代のバブル崩壊後の長い「冬の時代」からようやく抜け出しました。

北海道や東日本の各地で市街地にまで熊が出没して不安が広がる一方で、関西万博は(予想外の)成功をおさめ、大谷翔平らが所属するドジャースがワールドシリーズを連覇して日本中が歓喜に湧きました。そうやって振り返ると、いろいろ騒がれているわりには、今年は案外よい年だったのではないでしょうか。

人類は長い歴史のなかで、よいことよりも悪いことに注目するという心理的傾向を進化させてきました。SNSのアテンション・エコノミーでは、脳のこの“バグ”を利用してひとびとの不安を煽り、アクセスを集めようとします。それが社会を分断させているのは間違いありませんが、SNSやAIが生活をゆたかにするということもあるでしょうから、否定ばかりしていてもしかたありません。「技術」なのか「魔術」なのかわからなくなったテクノロジーと、なんとかうまくやっていく方法を見つけるしかないでしょう。

超高齢社会の日本では、現役世代の負担で高齢者の社会保障を支えるしかなく、世代間対立が顕在化してきました。ところが内閣府が2022年に行なった「こども・若者の意識と生活に関する調査」では、10歳~14歳で「今、自分が幸せだと思う」が62.8%、「どちらかといえば、そう思う」が31.4%で、合わせて9割を超えています。15歳~39歳でも8割以上が肯定的な回答をしており、「未来に希望がなく、社会に絶望している」という通念とは異なって、日本の若者の幸福度はきわめて高いようです。

これは「たくさんあるものは価値が低く、少ししかないものは価値が高い」という需要と供給の法則によって、少子化で子どもや若者の社会的な価値が上がっているからでしょう。世界では若者の失業が問題になっていますが、空前の人手不足の日本では、大学を出れば(最近は高卒でも)ほぼ全員が就職でき、30代前半までなら転職も簡単です。

そう考えれば、治安がよくて若者が幸せに暮らしている日本は、人類史上もっとも成功した社会のひとつかもしれません。とはいえ社会調査では、男女ともに年をとるにしたがって幸福度は下がっていくようですが。

【追記】今年最後の記事になります。みなさま、よいお年をお迎えください。

『週刊プレイボーイ』2025年12月22日発売号 禁・無断転載

バチカン銀行のスキャンダルはいかに語られたか

ダイヤモンド社と共同で行なっていた「海外投資の歩き方」のサイトが終了し、過去記事が読めなくなったので、閲覧数の多いものや、時世に適ったものを随時、このブログで再掲載していくことにします。

今回は2013年12月公開の記事です。(一部改変)

Mirko Carnevale/Shutterstock

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ここまで何回かバチカン銀行と“神の銀行家”ロベルト・カルヴィの死をめぐる複雑怪奇な金融スキャンダルについて述べてきたが、最後に、この事件を題材にした映画や小説などを紹介してみたい。

バチカン市国「神の資金」を扱う闇の男たち

フリーメーソンの陰謀論を信じた神の銀行家

『ゴッドファーザーPARTⅢ』を読み解く

1978年9月、新ローマ教皇ヨハネ・パウロ1世が在位わずか33日で急死すると、その直後からさまざまな陰謀説が唱えられた。

その決定版となったのがイギリスのジャーナリスト、デビッド・ヤロップの『法王暗殺』(徳岡孝夫訳/文藝春秋)だ。この本でヤロップは、膨大な取材に基づいて、清貧を旨とするヨハネ・パウロ1世がバチカンの綱紀を正そうとしたため、改革を嫌う反動勢力によって暗殺されたとの説を開陳した。

ヤロップによれば、バチカンのナンバー2である国務長官ヴィロー枢機卿とバチカン銀行総裁ポール・マルチンクス大司教はフリーメーソンの秘密結社P2のメンバーで、新教皇はそれを知って2人の解任を決意した。その背後にはP2の創始者リチオ・ジェッリ、シチリア生まれの銀行家でマフィアの代理人でもあるミケーレ・シンドーナ、シンドーナの失墜後にバチカン銀行の利権を引き継いだロベルト・カルヴィらがいる。また与党キリスト教民主党の大物政治家ジュリオ・アンドレオッティ元首相や軍部情報機関、CIAなども事件に関与していた可能性がある。

こうしたヤロップの「P2陰謀説」をそのまま映画に取り込んだのがフランシス・フォード・コッポラの『ゴッドファーザーPARTⅢ』(1990年)で、舞台をニューヨークからイタリアに移し、マフィアの頂点に立ったマイケル・コルレオーネ(アル・パチーノ)の晩年を描いた。

映画の冒頭で、マイケルは多額の寄付によってバチカンから叙勲される。ここで登場するアメリカ人のギルディ大司教のモデルは、バチカン銀行総裁のポール・マルチンクスだ。

ギルディ大司教は、金融スキャンダルでバチカン銀行が7億ドルを超える巨額の負債を抱えたことで窮地に陥っている。マイケルはそれを利用して、バチカンが実質的なオーナーとなっている国際的な投資会社インモビリアーレの株式を6億ドルで買い取る取引を持ちかける。マイケルはマフィア関係の事業を清算し、多国籍企業のオーナーになることで、父ヴィトー・コルレオーネから譲り受けた使命を完成させようとするのだ。

ところがインモビリアーレの取締役会が、マイケルによる買収を阻止しようと画策する。取締役会にはギルディ大司教のほかに、銀行家のフレデリック・カインジックと政界の大物でマフィアのドンでもあるリーシオ・ルケージがいた。カインジックはアンブロジャーノ銀行頭取ロベルト・カルヴィ、ルケージはP2創始者のリチオ・ジェッリとキリスト教民主党のジュリオ・アンドレオッティ元首相をモデルにしている。

マイケルはその後、バチカンでランベルト枢機卿と出会い、兄フレドを粛清した罪を告解する。新教皇に選出された直後に急死するランベルト枢機卿は、もちろんヨハネ・パウロ1世となったアルビーノ・ルチアーニのことだ。

「教皇暗殺」を知ったマイケルは、カインジック(カルヴィと同様にロンドンのブラックフライヤーズ橋に吊るされる)、ギルディ大司教(バチカン内で射殺)、ドン・ルケージ(殺し屋が眼鏡をこめかみに突き刺す)を次々と処刑するが、自身も相手の放った刺客に狙われ、最愛の娘(ソフィア・コッポラ)が凶弾に倒れる。娘の亡骸を抱えて天に咆哮するアル・パチーノの名演は印象深い。

このように『ゴッドファーザーPARTⅢ』は、イタリア現代史とヤロップの『法王暗殺』を下敷きにしているため、予備知識がないと物語の展開についていくのが難しい。これが前2作に比べて評価が高まらなかった理由だろう。アメリカの観客にとっても、ローマやバチカンの事件は他人事なのだ。 続きを読む →