7月の参院選挙に向けて、多くの政党が消費税減税を掲げています。ところで、消費税の税率を下げるとなにかよいことがあるのでしょうか。
話の前提として、国家が国民に行政サービスを提供するにはお金が必要だということを確認しておきましょう。国家はそれを税や社会保険料で徴収していて、消費税はその財源のひとつです。
超高齢社会の日本では、国家予算の6割が社会保障費と国債の利払いで占められています。人口構成から、今後20年にわたって年金と医療・介護保険の社会保障費が膨張していくことは確実です。行政改革は必要ですが、歳出削減は焼け石に水で、現在の行政サービスを維持したいのであれば、減らした財源を別のなにかで補わなければなりません。
所得税や社会保険料は収入を基準にしているので、年金以外に収入がない高齢者は負担が軽くなり、収入が多くても子育てなどで家計が苦しい現役世代の負担が重くなります。この数年の物価高と実質賃金の下落によって、この理不尽な制度に対する不満が噴出したのが現在の状況だと理解できるでしょう。
日本の社会保障制度は、現役世代から高齢者への「仕送り」によって支えらえてきました。ところが急速な少子高齢化によって、この仕組みはもはや持続可能ではありません。1950年には65歳以上1人に対して15~64歳人口が12.1人でしたが、いまから40年後の2065年にはそれが1.3人になり、1人の現役世代が、子育てと親の介護をしながら、さらに高齢者1人を支えなければならなくなるのです。
現役世代から高齢者への所得移転が限界なら、あとは高齢世代内で分配するしかありません。富裕な高齢者に応分な負担を求め、貧しい高齢者の生活を支えるのです。日本の金融資産のおよそ7割は高齢者が保有しており、資産課税は高齢者から現役世代への所得移転にもなります。
ところが日本の場合、高齢者の資産の多くが不動産(マイホーム)で占められているため、金融資産のみへの課税は効果がありません。時価数億円の土地に住んでいても、金融資産をほとんどもっていない高齢者がたくさんいるのです。
保有する不動産を担保に金融機関から融資を受け、同じ家にそのまま住みつづけながら現金化するリバースモーゲージという手法があるものの(本人が死亡したときに不動産を売却して、金融機関が貸金を回収する)、これを納得させるのは難しいでしょう。
このようにして、現役世代から高齢者への所得分配も、資産課税による高齢世代内での分配も不可能だとしましょう。そうなれば、残る選択肢は消費税しかありません。
収入は働いている現役世代に偏っていますが、高齢者でも消費はするので、消費額をベースにした徴収のほうがまだ公正です。すなわち、資産課税を拒否し、それでも現役世代の負担を減らそうとすれば消費税減税ではなく、増税を主張しなくてはならないのです。
「そんなことは認められない」というのなら、話は一周回って、社会保障を支える財源として、現役世代がさらにむしられることになるでしょう。
註:リバースモーゲージは不動産担保融資ですが、日本では、持ち家を売却後に賃貸で住みつづける「リースバック」が普及しています。ただし、高齢者にマイホームを安く売却させながら、賃貸契約を原則更新できない定期借家契約にして退去を迫るなどの消費者トラブルが急増しています。
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