「非自発的禁欲」のテロリズム 週刊プレイボーイ連載(374)


妻以外の女性と交際するのが(夫の)不倫ですが、それがたんなる火遊びではなく、他の女性とのあいだに子どもをつくったり、生活の面倒を見たりするようになると、「愛人」とか「二号さん」「お妾さん」などと呼ばれます。高貴な男性に囲われる妻以外の女性は「側室」で、明治天皇に5人の側室がいたことからわかるように、日本の社会ではごく当たり前の慣習でした。

歴史的に見ても、人類の婚姻形態はゆるやかな一夫多妻制で、一夫一妻になるのは夫に甲斐性(経済力)がなく、複数の女性を養えないからでした。クルアーンに書かれているように、妻をめとる男には共同体から重い責任が課せられるのです。

厳格な一夫一妻というのは、近代以降のヨーロッパで始まったきわめて特異な制度です。それが植民地化によって世界に広がり、一夫多妻は時代遅れで女性の権利を侵すものとして、フェミニストからはげしく攻撃されるようになりました。「愛」は至高の絆でつながる「ロマンティックラブ」でなければならないのです。

ところが最近になって、アメリカで奇妙な現象が目につくようになりました。

恋愛と縁のない若い男性は日本だと「非モテ」と呼ばれますが、アメリカだと「インセル(Incel)」です。これは「Involuntary celibate(非自発的禁欲)」のことで、宗教的な禁欲ではなく、「自分ではどうしようもない理由で(非自発的に)禁欲状態になっている」ことの自虐的な俗語としてネット世界に急速に広まりました。

2014年5月、エリオット・ロジャーという若者がカリフォルニア州サンタバーバラで無差別発砲し、6人が死亡しました。この事件が注目されたのは、22歳で童貞のロジャーが「インセル」を名乗り、自分を相手にしない女性への復讐が目的だとYouTubeに「犯行声明」を流したからです。

この事件でロジャーはインセルの「神」に祀り上げられ、15年10月オレゴン州の短大(9名死亡)、17年12月ニューメキシコ州の高校(2人死亡)、18年2月フロリダ州の高校(17人死亡)、同年4月トロントの路上(10名死亡)と「インセル」による乱射事件がつづきました。これはまさに、「非モテ」によるテロリズムです。

「自分たちは(チャラ男に群がる)女に抑圧されている」と考えるインセルはフェミニズムが大嫌いですが、不思議なのは、そんな彼らが一夫一妻の伝統的な性道徳の復活を強く訴えていることです。

この謎の答えは、すこし考えてみればわかります。

男が10人、女が10人いて、一夫一妻ならすべての男が妻を獲得できます。ところが一夫多妻で、魅力的な男が2人の女性をめとることが許されるなら、5人の男はあぶれてしまいます。うだつのあがらない男と結婚するより、大金持ちの「二号」になった方がずっといいと考える女性はたくさんいるでしょう。

ここからわかるように、一夫一妻は非モテの男に有利で、一夫多妻はモテの男とすべての女性に有利な制度です。それにもかかわらず伝統的なフェミニズムは、一夫一妻を「女性の権利」と頑強に主張してきました。多くの(非モテの)男は、この「勘違い」によって救われてきたのです。

インセルの危機感は、価値観の変化によって「恋愛格差」が広がり、この「安全弁」が失われつつあるからでしょう。「反フェミニズム」がネトウヨと親和的な日本でも、これは同じかもしれません。

『週刊プレイボーイ』2019年3月4日発売号 禁・無断転載

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10件のコメント

  1. 「女はハエ」は正直紛れもない真実。

    モテないくてヴァージンはという非自発的禁欲は、ただの嫉妬とか私怨とかオルガズム。要は低俗な人間。

    私は、モテたうえでヴァージンを護れる「高尚」な生き方をみんなすればいい。
    ただそれだけだと思う。
    不倫にろ浮気にしろ愛人にしろ二号にしろ、自分の周りの関係者に悲しむ人が一切いないなら自由にすればいいけど、現実は必ず誰かが傷つくわけで。
    誰かを傷つける行為は、誰一人許されない。
    人間ってアホで未熟だから、憲法で人間として当たり前なことを前もって決めた、ただそれだけ。

    滅私じゃなくてメッシになればいいだけ。
    個人力を高めていってカッコいい大人になろうとする。
    カッコいい大人は高尚だから自然と人にも優しくなれる。
    一人ひとりが自分の人生の確固たる信念をもってかっこいい大人になればいい。
    私はこうやって生きていますって誇れていれば、自分よりも下の世代に言葉や手足で教育しなくても背中で理解される。

    教育って自分の生きざまを背中で見せるだけでいいのに、なぜみんな言葉や手足でしたがるのか。―自分の思い通りに他人を動かしたいからでしょ。

    みんな一回自分の胸に手を置いて、本当に自分の人生誇れるか考えて欲しい。
    やましいこと一切なく生きてきましたか?
    自分で自分の人生をカッコいい大人だと胸張れますか?

    非自発的禁欲は低俗だけど、自発的禁欲は高尚な人間にしかできない。

  2. 橘さんも藤沢数希になってしまったかと思いましたよ。

    >非自発的禁欲は低俗だけど、自発的禁欲は高尚な人間にしかできない。

    非自発的禁欲を自発的禁欲と言い換えることによって

    「昇華による合理化」による、
    防衛機制があったからこそ、

    各種宗教の存在意義があり、
    多くの(非モテの)男は、この「勘違い」によって救われてきたのです。

    キリストの「汝、姦淫するなかれ」の意味は
    「非モテ」の男の救済という面もありました。

  3. 言い換えてないし。

    わたしの束の間の休みもそろそろおわりで、コメント欄にしばらく来れなくなるから、訂正しきれない

    昇華とか防衛機制とかそんなことまったくわたしは言ってない。モテないのはモテる努力をしないから。個人力を高めようとしないから、かっこわるい大人は本当の意味でモテない。
    死後離婚とか最近新しい言葉がでてきたそうだけど、本当にパートナーを愛してたら、パートナーの家族を合わない人だから嫌で、絶対に片付けない。
    わたしは好きな人の大切な人たちのことは、合わなくても面倒みます。だって心底好きな人に関係している人たちだから。

    でも世の中希薄なのは、結局パートナーを心底愛してない、これに尽きる。自分にとってパートナーが役に立つから、つまり自己愛で恋愛してるやつ多すぎ。自分が一番だから人間関係が希薄になる。

    こういう世界まじでうんざり。
    こんな本当の意味で愛のないこんな国消えてなくなればいい。日本死ね。

  4. そうそう、ついでに吐いておくと、
    私も日本人女性の7割方はハエだと思っている
    (事実に基づいて言っているのであって暴言ではない、というと人間として最低な長谷川豊候補みたいになってしまうのが尺なんだけど)

    海外にいると、私と同じ位の年齢か、すこし年上の30代くらいの日本人女性が、語学留学にくる。勉強しにきたわけでもなく、男漁りにきているんだよね。配偶者ビザってやっぱりいつの時代も一番簡単なビザのハードルだから、女はそれを使おうとする。
    しかもかなりの割合でそういう女性に出会うので、ほとんどの女性の隠された心の奥底に、女は女の武器使えば生きていける、と本気で考えているんだろう。

    ビザってすごく難しくて、男だと女みたいにイージーモードな生き方が用意されていないから、努力するしかない。
    だからほんと思う、女って性根はクズなんだな!って。
    だからこそ、そうじゃないまともな誠実な女性に出逢うと救われた気分になる。
    全ての女がそうじゃないんだ!3割の女性は男とフェアに生きようとする意識のある素晴らしい人間だって!
    でも10分の3でしか誠実な女性に出会えないから、インセルになる男の気持ちはとてもわかる。

    だからといってインセルは擁護できない。
    同じ男として、モテる努力をしようとしたのか、非常に気になる。
    ドラマやまとなでしこでもあったけど、男はブスでも努力次第でいくらでも磨ける。
    まあ、本来女も同じはずなんだけど、女は努力せずに女の武器を使おうとする輩が7割いるからイライラする。

    女も男も、性に囚われずに、一人の人間としてメタなカッコいい生き方ができる大人になれ、って話。ジェンダフリーが一番まともな考え方なはずなのに、日本じゃほんと浸透しない。あほくさい。こんな日本マジ死ねよ。
    おわり。

  5. >一夫一妻は非モテの男に有利で、一夫多妻はモテの男とすべての女性に有利な制度です。

    別の世界のことですか?
    女性が、一夫多妻の頑強な抵抗者であることは、付き合って見ればわかる。
    周りの夫や男たちが、妻や恋人の女性に一生懸命、一夫多妻制を唱えているが、
    ほとんど拒否されている。
    私も多くの女性に、「キムタクとかに一夫多妻を認めた方が女性も幸せになるじゃない」とか言っても、女性は拒否する。
    キムタクと結婚したいから、一夫多妻制にしろという女性の運動も聞かない。

    また、日本の非モテは大量殺人をおこす確率は低いのでは?
    大量殺人をするくらいなら、買春するでしょう。

  6. 山本山さん

    橘玲さんの言っていることは何も間違っていなくて、
    山本山さんの言っていることも間違っていないと思います。

    要は、
    うだつのあがらない男と結婚するより、
    大金持ちの「二号」になった方がずっといい、
    それよりも文武両道で金も地位も権力もある男を独り占めできる方がもっといい

    7割がたの女なんて所詮、うだつのあがらない男に敵対するか、かっこいい男を独り占めするために女同士で敵対するか、どっちかです。
    周りの夫や男たちが、妻や恋人の女性に一生懸命、一夫多妻制を唱えているが、ほとんど拒否されているのは、女性陣が独り占めしたいと思われる男性なんですよ。

  7. だから左翼やバチカンは強かんしたり、子供を無理やりするの?

  8. 『もてない男』(もてないおとこ)は、
    ちくま新書より1999年(平成11年)に刊行された比較文学者・小谷野敦の著書である。
    ttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%82%E3%81%A6%E3%81%AA%E3%81%84%E7%94%B7

    表紙の言葉は、

    もてないということは別に恥ずべきことではない。また、もてるということはただセックスができるということだと規定したものがあったが、私はこの定義を認めない。好きでもない女百人とセックスしても、もてるとは言えない、という立場に私は立っている。

    この「もてない男」の悲哀も
    様々な文学や映画、あるいはマンガのテーマになって
    そのペーソスこそが、
    作品の味わいとなるのです。

    「男はつらいよ」の「寅さん」も、
    「最強伝説黒沢」の「黒沢」もそうですね。

    【男はつらいよ】寅さんの名物口上。渥美清さん演じる「フーテンの寅」こと車寅次郎が、故郷の葛飾柴又に戻ってきては何かと大騒動を起こす人情喜劇シリーズでした。毎回旅先で出会った「マドンナ」に惚れつつも、失恋するか身を引くかして成就しない寅次郎の不器用な生き様、そんな寅さんだからこその名言がありますが、

    このタンカ売り口上は
    「日本語ならではの表現」がほとんどなので、

    外国語に翻訳してもわかりづらいという
    難点があります。
    金正日がファンだったという話もありますが。

    そこで、インセルや「非モテ」によるテロリズムを防ぐためにこそ、

    日本の非モテや悲恋ファンタジーをテーマにした
    映画やマンガ、アニメを海外、とくにアメリカに紹介するべきなのです。

    私の一押しは、
    『GOD SAVE THE すげこまくん!』
    (ゴッド セーブ ザ すげこまくん)は、講談社の『週刊ヤングマガジン』および『ヤングマガジン海賊版』で1993年1月号から1998年3月まで連載された、永野のりこの漫画作品です。
    ttps://ja.wikipedia.org/wiki/GOD_SAVE_THE_%E3%81%99%E3%81%92%E3%81%93%E3%81%BE%E3%81%8F%E3%82%93!
    漫画情報誌「ぱふ」は最終巻のレビューにおいて、「SF変態ギャグ漫画の体裁を取ったスーパーラブストーリー」と紹介した。

  9. 私は、インセルによるテロリズムを防ぐためにこそ、
    アメリカは売春の非犯罪化を検討すべきだと思います。
    実際、2020年の大統領選挙の争点になりつつあります。

    https://blogos.com/article/362973/
    売春の非犯罪化、2020年大統領選の焦点に

  10. こういうお話がでる背景には、少子化阻止の陰謀が働いているのかしら?

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