日本のリベラルは「カオナシ」になった(週刊プレイボーイ連載673)

全国的な大雪のなかで行なわれた衆院選は、高市自民が単独で3分の2を超える大勝、立憲民主と(与党から野党になった)公明党が組んだ中道改革連合は議席を3分の1に減らす歴史的大敗を喫しました。「政治は結果がすべて」ですから、このタイミングで解散に踏み切る決断をした高市総理の手腕は鮮やかというほかありません。

前回の衆院選と昨年の参院選で自民と立憲が低迷し、国民民主や参政党など新興政党が躍進したことで、主要政党が地盤沈下する欧州型の多党化が日本でも進んでいるとの分析が増えました。しかし今回の選挙を見るかぎり、自民にはまだかなりの地力があり、底が抜けたのは野党第一党の立憲民主だったということになります。

立憲の野田代表は、政局が解散に向かうなかで、公明との新党結成という賭けに出ました。結果的にこのギャンブルが逆効果だったわけですが、だからといって失敗と決めつけることもできません。このままでは勝機がないと判断したから新政党をつくったのであって、単独で戦えばよかったと言い切ることもできないからです。

党名が示すように、野田氏ら旧立憲幹部は、「保守vsリベラル」という対立の枠組みを「右翼vs中道」に変えようとしたのでしょう。ではなぜ、「リベラル」はこれほど嫌われてしまったのか。

もっとも大きな要因は、安全保障政策でしょう。北朝鮮が核ミサイルを保有し、中国の軍拡で台湾海峡が緊迫化するなか、「アメリカファースト」のトランプ政権が有事で日本を防衛してくれる保証はなくなりました。それにもかかわらずリベラル政党は、安保法制や防衛費の増額、特定秘密保護法やスパイ防止法に反対するばかりで、この状況に具体的にどう対処するかを示せませんでした。

「憲法9条を守れ」や「核兵器廃絶」を念仏のように唱えていれば平和が維持できるというのでは、まともな有権者に見捨てられるのは当たり前です。そのため中道の発足にあたって、立憲は「安保法制は合憲」へと方針を変えましたが、「だったらこれまでなぜ反対していたのか」の説明はありませでした。その結果、新しい支持者は獲得できず、これまでのリベラルな支持者から見捨てられたと考えれば、この衝撃的な敗北が説明できます。

経済政策では、主要政党が消費税減税で足並みを揃えたことで差別化できなくなりました。どの政党を選んでも同じ物価対策なら与党のままでいいわけで、「政権交代」を望む理由はありません。

原発問題でも反対から再稼働容認へと立場を変えたため、立憲系の議員は「政治とカネ」を訴えるしかなくなりました。それが響かなかったのは、有権者の関心がすでにこの問題から離れていたからでしょう。

宮崎駿のアニメ『千と千尋の神隠し』に、「己」をもたず、吞み込んだ他人の声を借りなければ話ができないカオナシという妖怪が登場します。リベラルという「顔」を失ってしまった立憲民主の迷走を見ると、この妖怪のことを思い出してしまうのです。

モーリー・ロバートソンさんが63歳の若さでお亡くなりになりました。コラムが始まったときからずっと隣同士だったので、勝手に親しい隣人のように思っていました。ご冥福をお祈りいたします。

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