今年の大学入学共通テストでChatGPT(チャッピー)が15科目中9科目で満点を取ったことが話題になりました。得点率は96.9%で、東大に楽々入学できる成績です。印象的なのは受験生との差で、AIが満点をとった「数学ⅠA」と「数学ⅡBC」では、受験生の平均はそれぞれ47点、54点でした。「学校の勉強」において、AIの能力が人間を超えたことは間違いなさそうです。
これからの子どもたちはAIとともに育つので、どんな質問にも瞬時に答えてくれる、とてつもなく賢い友だちがいるのと同じです。そのうえこの友だちは、嫌な顔ひとつせず1日24時間いつでもつき合ってくれるですから、これからの勉強は、教室で先生の話を聞くのではなく、AIと対話しながら行なうものに変わっていくでしょう。
アメリカの教育心理学者ベンジャミン・ブルームは1980年代に、「個別指導を受けた生徒の成績が、教室での一斉授業の生徒の98%を上回った」という研究を発表して教育界にセンセーションを巻き起こしました。これは2標準偏差の学力向上に匹敵し、偏差値は1標準偏差を10としているので、偏差値50の生徒が個別指導によって偏差値70になったことに相当します。
この研究はその後、多くの追試が行なわれ、これほど劇的な結果は再現されなかったものの、それでも個別指導には偏差値で10前後に相当する大きな効果があることがわかっています。生徒一人ひとりの能力に合わせて教材を選び、教え方を工夫すれば、どんな子どもでも学力は伸びるのです。
それではなぜ、個別指導が広がらなかったのでしょうか。その理由はいうまでもなく、生徒一人ひとりに専任の教師をつけようとすれば、財政的にも人材の面でもとてつもなく大きなコストがかかり、とうてい現実的ではなかったからです。ところがそれが、AIによって実現するかもしれません。
四則演算を筆算でなく電卓を使って行なうことが当たり前になったことで、イギリスの学校では一部の試験で電卓の使用が認められています。日常的に電卓で計算しているのに、試験のときだけ筆算をさせても意味がないというのは、理にかなっているように思われます。
だとしたら将来的には、「いつもAIと一緒に勉強している子どもに対して、試験のときだけAIを取り上げ、「自分の頭」で考えさて序列をつけることになんの意味があるのか」という議論が出てもなんの不思議もありません。試験にAIの持ち込みを許可し、対話しながら問題を解くようになれば、ほとんどの生徒が満点を取るでしょう。
いまは「親の年収が子どもの将来を決める」といわれていますが、AIはほとんど無料なので、スマホをもっていれば誰でも使えます。AIで「個別学習」した子どもの成績が、毎日学校に通って、朝から夕方まで「座学」をしている子どもを大きく上回ることが明らかになれば、親は子どもを学校に行かせるべきか真剣に悩むでしょう。
このことは、近代的な教育の根幹を揺るがします。AIの能力の驚くべき進歩を見れば、わたしたちが「ポストモダン(近代以後」の世界)に向かっていることがわかります。
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