相続税は道徳的に正当化できるか?

武富士元会長の長男に対する巨額追徴訴訟は、2月18日の最高裁判決で、1330億円の追徴処分を適法とした2審判決が破棄され、長男側の逆転勝訴が確定した(裁判の経緯はこちら)。私はまだ判決を読んでいないが、納税者の権利を重視する近年の判断を踏襲し、税務当局の裁量(実質主義)を認めず、厳格な法解釈から納税義務の有無を判断する租税法律主義が採用されたということだろう。

この件は、長男側に租税回避の意図があったことは否定できず、還付加算金約400億円を加えた2000億円もの巨費を返還することは、裁判所にも躊躇いがあったようだ。 続きを読む →

逆転した裁判所の判断 〈武富士元会長長男、巨額追徴訴訟2〉

納税者勝訴

武富士元会長の長男が起こした租税返還訴訟を例に、税務当局の論理と裁判所の判断を見ていこう。

一審(東京地裁)ではまず、香港に居住していたとされる3年あまり、税務当局が所得税を課していないことが争点となった。所得税も贈与税も住所によって課税の是非が判断されるのだから、所得税を課さないのであれば贈与税も非課税であるはずだし、贈与税を課税するのなら所得税分も追徴課税すべきだからだ。 続きを読む →

非居住者とは誰のことか? 〈武富士元会長長男、巨額追徴訴訟1〉

武富士元会長長男に対する巨額追徴訴訟の最高裁判決が今週末に予定されているので、この興味深い訴訟を理解するためのポイントを2回に分けて解説する。

第1回は、裁判の争点である税法上の居住者と非居住者についてだ。

事件の概要

長男は97年から香港に移住し、99年にオランダ法人が保有する武富士株1600億円相当を贈与された。当時、日本の税法は受贈者(長男)が日本国の非居住者である場合、贈与税は非課税としており、長男側はそれを根拠に申告・納税していなかった*。だが国税当局は実態基準に照らして長男を非居住者と認めず、約1300億円の追徴課税処分を課し、長男側はこれを不服として東京地方裁判所に提訴した。 続きを読む →