地方創生にはカジノより大麻特区を 週刊プレイボーイ連載(171)

カジノを含む統合型リゾート(IR)の立地促進をめざす「カジノ法案」が国会に提出されました。安倍首相は「成長戦略の目玉」と力を入れていますが、「ギャンブル依存症を増やすだけ」との反対論もあります。「政治とカネ」の問題で法案の成立が不透明になっているようですが(その後、自民党が成立を断念)、この問題をどのように考えればいいのでしょうか。

誰もが知っているように、日本ではすでにさまざまなギャンブルが行なわれています。

期待値が50%の(賭け金の半分しか当選金に分配されない)宝くじやサッカーくじは、最高額を7億円や10億円に引き上げて射幸心を煽っています。ジャンボ宝くじで7億円が当たる確率は1000万分の1以下で、交通事故で死ぬ確率(3万人に1人)よりはるかに低く、宝くじを買いつづけるとほとんどのひとは大損します。賭け金の25%が問答無用で差し引かれる競馬や競輪、オートレースなどの公営賭博も同じで、法によって国家が事業を独占し、確実にボロ儲けできることから「愚か者に課せられた税金」と呼ばれています。

日本におけるもうひとつの代表的なギャンブルはパチンコ・パチスロですが、スロットマシンと同じゲームであるにもかかわらず賭博とは見なされません。これは景品交換を店外で行なう脱法行為(三店方式)が容認されているからで、その代わりパチンコ業界は警察庁から多数の天下りを受け入れています。もっともパチンコの期待値は98%程度とされており、宝くじや公営賭博に比べればはるかに“良心的”です。

あまり指摘されませんが、日本にはこれらに匹敵する巨大なギャンブル市場があります。それがFX(外貨証拠金取引)です。

金融市場はもともとギャンブル的な要素を強く持っていますが、株式投資が資産形成に有益とされているのは、経済成長と市場の拡大にともなって株価が長期的には上昇するはずだからです。それに対して為替の上昇と下落に賭けるFXは純粋なゼロサムゲームで、コイン投げと同じです。

そのうえFXでは、賭け金に対して最大25倍のレバレッジが賭けられます。これは、1万円の賭け金に対して胴元が24万円をほぼ無利子で貸してくれるのと同じですから、他のギャンブルと比べれば法外に有利な取引です。それに気づいたギャンブラーが株式市場やパチンコ・パチスロから続々とFXに乗り換え、ふつうの主婦が3年間で4億円を超える利益を上げて脱税で摘発されたりしました。

日本がすでにギャンブル大国だとすれば、「カジノで依存症が増える」という主張は疑問です。ギャンブル好きはすでにどれかの賭け事にはまっていて、潜在的な患者数はそれほど多くないと考えられるからです。

それより問題なのは、「カジノで地方創生」という安易な発想でしょう。カジノの成功例としてシンガポールのマリーナ・ベイ・サンズが挙げられますが、これは国家級のプロジェクトで、アジアでも地方都市の中途半端なカジノは軒並み失敗しています。

嗜好用の大麻を自由化したアメリカのコロラド州では、州都デンバーに観光客が殺到しています。成長戦略の目玉としては、どこにでもあるカジノよりアジア初の「大麻特区」の方がはるかに効果的でしょう。それにカジノとちがって、大麻特区には初期投資はまったく必要ないのです。

『週刊プレイボーイ』2014年11月10日発売号
禁・無断転載

安倍内閣はなぜ「女性大臣」で失敗するのか? 週刊プレイボーイ連載(170)

安倍改造内閣の目玉とされていた2人の女性大臣が不祥事で相次いで辞任しました。

小渕経産相の場合、父親から譲り受けた地元の秘書に資金管理を任せていたところ不明瞭な支出が相次いだというもので、同情の余地はありますが、「自分の事務所も管理できないのに国家のマネジメントができるのか」といわれてしまえば反論できません。松島法相は選挙区内で配ったうちわを「討議資料」と強弁するなど、奇矯な言動が目立ったため、国会答弁を不安視した首相から引導を渡された、ということでしょう。

なぜ女性大臣ばかりが失敗するのか。その単純な説明は、日本では女性の国会議員の絶対数がきわめて少ないからです。

議会における女性の割合は世界平均が22%ですが、日本はそれを大幅に下回る8%で、世界127位と最低水準です。安倍政権はこれを“世界標準”に合わせようと、女性大臣の数を無理矢理増やそうとしたわけですが、選択肢となる人材プールが小さければそのぶん“スカ”をつかむリスクは高くなります。

この問題を解決するには女性議員の数を大幅に増やす必要があります。これにはたいへんな困難がともないますが、じつはものすごく簡単な方法があります。

スウェーデンなど北欧諸国は女性議員の比率が40%を超えており、“人権大国”を誇っています。こうした国の選挙制度は比例代表制で、議席配分が得票率によって政党に配分されるのですから、政党の側で候補者の男女比を調整したり、優先順位を入れ替えることで女性議員の比率を増やすことが可能です。

一方、同じヨーロッパでもフランスの国政選挙は小選挙区制で、長らく女性議員が少ないことが問題視されていました。国民議会に占める女性の割合は1993年の総選挙で5.9%、それ以前は1%台のときもあったといいますから“男尊女卑”はきわめて深刻です。しかしそれでも、選挙制度を小選挙区制から比例代表制に変えることは議員の既得権を直撃しますから容易ではありません。

こうした状況に業を煮やした社会党内閣は、2000年に「男女同数法(パリテ法)」というきわめて過激な法律を成立させます。これは男女の候補者の数を強制的に同数にさせるもので、比例代表制で行なわれる地方選挙では、この改正によって女性議員の割合は25.7%から47.5%へと大幅に上昇しました。

小選挙区制の国政選挙でも、候補者を男女同数にしない政党の助成金を大幅に減額するという劇薬を投じ、2007年の総選挙では女性議員の比率を18.5%まで上げました。これでもまだ北欧諸国の基準には届きませんが、女性議員が増えたことで、2012年に発足したオランド政権は34人の閣僚のうち17人を女性にして「男女平等」をアピールしたのです。

フランスの経験は、「女性の活用」が生半可なことでは実現できないことを教えてくれます。ありもののなかから適当に外見だけ取り繕うのでは、今回のようなことになるのはわかりきっているのです。

もちろん、「いくらなんでもそこまでしなくても」という意見はあるでしょう。その場合は野党や民間、外国人にまで人材プールを広げ、女性大臣の適材を探すしかないでしょう。

『週刊プレイボーイ』2014年11月4日発売号
禁・無断転載

革命家の理想から「ブラック企業」は生まれた 週刊プレイボーイ連載(169)

牛丼店「すき家」を運営するゼンショーが苦境に立たされています。ワンオペと呼ばれる深夜の1人勤務で人件費を圧縮し、他社が敬遠する郊外に大量出店しながら、24時間営業で格安の牛丼を提供する独特のビジネスモデルが、アベノミクス以降の人手不足で崩壊してしまったからです。

同社は7月に労働環境改善への第三者委員会の提言を公表しましたが、そこで明らかになった勤務実態は衝撃的です。

破綻のきっかけは2月に2度にわたって首都圏を襲った大雪で、店舗から帰宅できず交代要員も出勤できなくなったことでワンオペの48時間勤務が多発し、不満を爆発させたバイトが次々と辞めていきます。それによってクルーを管理するマネージャーがシフトを組めなくなり、自分が店に入らざるを得なくなって業務管理の機能を喪失、ついには正社員が無断欠勤のうえ行方をくらますようになります。こうして3月中旬には、全国約2000店のうち138店が一時休業に追い込まれました。報告書によればこの時期、一般社員の残業時間は平均109時間に達し、月500時間以上働いたり、2週間帰宅できなかった従業員もいたといいます。

ゼンショーの創業者である小川賢太郎社長は、全共闘による安保闘争が始まった1968年に東京大学に入学し、「資本主義社会であるから世界に貧困と飢えが増殖するという矛盾が生じる。この矛盾を解決するために社会主義革命をやるしかない」と信じて東大全共闘に身を投じました。しかし安田講堂の攻防戦に破れて挫折、大学を中退して横浜港の港湾労働者になり最底辺からの革命を目指します。

しかし1975年、ベトナム戦争終結を見て社会主義革命に見切りをつけ、財務管理やマーケティング、法律などを徹底的に勉強した後、78年に「飢餓と貧困をなくす」ための新たな革命の第一歩として吉野家に入社します。

ところがその吉野家は80年にあえなく倒産(その後、再建)。3たび一敗地にまみれた小川氏は、「自分が先頭に立ち、革命を統率するしかない」と決意し、2人の部下を引き連れて82年に新会社を設立しました。ゼンショーという社名には、「今度こそ、絶対に負けない。全戦全勝する」というその時の覚悟が込められています。

いまではブラック企業の筆頭のように扱われていますが、ゼンショーは食の安全に早くから取り組み、すべての食材を徹底的に検査するほか、野菜を仕入れるときはその畑ばかりか、隣の畑や近くに流れている川、その川の源流まで調べるといいます。また北海道に自前の牧場を持ち、子牛から育てて牛肉にするまでの過程を検証し、牛肉のリスクや安全性をすべて把握しようとしてもいます。

ゼンショーの独特のビジネスモデルは、「安全な食事を低価格で提供する」という革命家の理想から生まれたものでした。そのための武器は徹底した効率化で、米国海兵隊の洗脳法を導入し、軍隊をもしのぐ超管理体制で社員やクルーの生産性を極限まで高め、外食産業のトップに立つまでに急成長を遂げたのです。

すき家は深夜のワンオペの解消を約束しましたが人手を確保できず、全店の半数を超える1100店の深夜勤務を休止することになりました。「全戦全勝」の夢が破れつつある10月1日、ゼンショーは社名を「すき家本部」に変えると発表しました。

参考文献:「外食日本一ゼンショー 280円で仕掛ける“メガ盛り生産革命”(飯泉梓)」『日経ビジネス』(2010年9月20日号)

『週刊プレイボーイ』2014年10月27日発売号
禁・無断転載