誰もがどこかで見たことがある暴言議員の“被害妄想ハラスメント” 週刊プレイボーイ連載(297) 

自民党の女性国会議員が10歳以上年上の政策秘書に浴びせた罵詈雑言が波紋を広げています。

大手広告代理店の新入社員の過労自殺を受けて、安倍政権は長時間労働など日本的な働き方の改革を掲げており、当の女性国会議員はその先頭に立つ厚生労働省の出身ですが、控えめにいってもこれはパワハラ以外のなにものでもありません。自民党の同僚議員は「あんな男の代議士はいっぱいいる」と述べましたが、これが事実であれば、民間企業にあれこれいう前に、政治家は自分たちがいかに「異常」であるかを認識すべきでしょう。

いったいなぜ、こんな常軌を逸したことが起きるのでしょうか。これが「一人のおかしな女がやったこと」ですませられないのは、同様の陰湿なハラスメントが日本社会のあちこちで起きているからです。

政治家秘書の仕事は自営業者の従業員と同じですが、特徴的なのは、次の選挙で落選すると雇用主である政治家は(おうおうにして)廃業し、秘書は問答無用で解雇されてしまうことです。非正規雇用の労働者でも契約期間が決まっていますが、選挙はいつあるかわからないのですから、これはより不安定な働き方です。当然のことながら、秘書はなんとかして生活を安定させたいと思うでしょう。

まっさきに思いつくのは、ほぼ確実に当選できる政治家の事務所に就職することです。大物政治家であれば20年や30年は政治活動をつづけますから、その間の収入が保証されると同時に、政治の世界のさまざまなしきたりを知悉することで転職も有利になります。しかしこれは、優良企業に運よく就職できたのと同じですから、なかなか空きのでない狭き門です。

それに対して新人議員の事務所には、政治の世界に興味がある若者などがやってきて、ベンチャー企業のような雰囲気になることがあります。そんな環境で自分も秘書も成長し、事務所から地方選挙や首長選挙の当選者を出すようになると、与野党を問わず政界で一目置かれるようになります。政治関係者はものすごく狭い世界に棲息しているので、評判はすぐに伝わるのです。

政治家の秘書にとって最悪なのは、次の選挙の当選もおぼつかず、無理難題をおしつけ威張り散らすだけの「先生」の下につくことです。政治家の側にも言い分があるでしょうが、こうした境遇は“災難”として秘書仲間に広がっていくので、スタッフがどんどん辞めていくと、次に入ってくるのはそれ以下の人材ばかり、という悪循環にはまりこんでしまいます。

国会議員は強大な国家権力にアクセスする特権をもっており、おまけに高学歴でプライドばかり高いと、自分に基本的な能力や人間力が欠落していることを認められません。自分がいっさい悪くないのなら、原因はすべて外部にあるはずです。こうしてとめどもなく被害妄想がふくらみ異様な言動を引き起こすのですが、じつはこれは政界だけでなく、日本の組織によくみられる光景です。

今回の出来事が世間の関心を集めたのは、エリートの“元お嬢さま”の裏の顔が暴かれたからでしょうが、それと同時に、似たような“被害妄想ハラスメント”を多くのひとがどこかで目にしたことがあるからではないでしょうか。

『週刊プレイボーイ』2017年7月10日発売号 禁・無断転載

日本人の女の子はモテるけど、男の子はモテない?  週刊プレイボーイ連載(296) 

ビッグデータはときに不都合な事実を突きつけることがあります。

アメリカの出会い系サイト「OKキューピッド」のサイトには年間1000万人が出会いを求めて集まってきて、1日3万組がはじめてのデートをし、3000組がつき合いを継続させ、200組が結婚します。そんな彼らが提供した膨大なデータを(プライバシーに配慮したうえで)解析すると、男と女のむずかしい関係が明らかになります。

女性にとって魅力的な男性の年齢は、20代のときは自分よりすこし年上で、30代からはすこし年下になりますが、50歳の女性の好みは46歳の男性でその差はわずかです。女性は、自分と同じような経験をしてきたパートナーを求めているのです。

それに対して男性にとっての魅力的な女性はというと、(予想はつくものの)結果はかなり衝撃的です。

20歳の男性は、20歳の女性とつき合いたいと思っています。そして30歳の男性も好みは20歳の女性、40歳の男性は21歳の女性、50歳の男性も求めているのは22歳の女性です。男性は、女性に「若さ」以外の価値はないと思っているかのようです。

もちろんこれはただの願望で、この世にハーレムがないことくらい男性にもわかっています。

そこで男性会員が実際にメッセージを送った女性の平均年齢を見ると、30歳の男性は25歳の女性に、40歳の男性は30歳の女性に、50歳の男性は40歳の女性にアプローチしています。実際に行動するときはすこし理性的になるようですが、それでも10歳若い女性でないと満足できないのです。魅力的な年齢が男女で大きく異なることが、出会いを難しくしています。

アメリカ社会の大きな困難である人種についてもデータは正直です。

男性がどの人種の女性を好むかを見ると、アジア系、ラテン系、白人の男性の多くは自分と同じ人種の女性とつき合いたいと思っています。特徴的なのは黒人男性で、アジア系やラテン系の女性よりも黒人女性を低く評価しているのです。

一方、女性がどの人種の男性を好むかを調べると、黒人の女性は黒人の男性とつき合いたいと思っています。この結果は、アメリカにおける黒人女性の苦境を示しています。彼女たちは黒人のカレシを探していますが、黒人の男性は別の人種の女性に興味を持っています。さらに人種別の魅力度では、アジア系、ラテン系、白人の男性にとって、黒人女性の魅力は平均を25%も下回っています。黒人の女性が満足のいくパートナーを見つけるのはものすごく大変なのです。

しかしこれは、日本人をはじめアジア系男性にとっても他人事ではありません。これも予想がつくでしょうが、アジア系の女性は、自分と同じ人種よりも白人男性とつき合いたいと思っているからです。

ビッグデータが明らかにしたのは、アジア系の女性はすべての人種から満遍なく好かれるものの、アジア系の男性は好感度が低く、黒人、ラテン系、白人の女性からは相手にされないというきびしい現実です。アメリカのような多民族社会では、日本人の女の子はモテるけれど、男の子はそうでもない、ということのようです。

参考:クリスチャン・ラダー『ハーバード数学科のデータサイエンティストが明かす ビッグデータの残酷な現実』

『週刊プレイボーイ』2017年7月3日発売号 禁・無断転載

ハイスペ女子はニートと恋に落ちるか? 週刊プレイボーイ連載(295) 

日本の人口が減っているのは出生率が下がっているからです。出生率が下がる理由は、若者が結婚しなくなったからでしょう。そしてこのことは、データからも明らかです。

生涯未婚率は、50歳時点でいちども結婚したことのないひとの割合を算出したものです。50歳で「生涯未婚」と決めつけるのはどうかと思いますが、人口統計上はそれで問題ないということなのでしょう。

2015年の国勢調査では、日本人の生涯未婚率は男性23.4%、女性14/1%で、前回(2010年)調査から男女とも3%以上も上昇して過去最高値です。しかし希望がないわけでもなく、年代別で見ると30代男性の未婚率は減少しています(30代前半の女性も未婚率がもっとも小幅な上昇)。

それでも全体の未婚率が上がるのは、20代と40代で結婚しないひとが増えつづけているからです。20代のうちは「もうちょっと仕事で頑張りたい」と思い、40歳の誕生日を迎えると「このままシングルでも悪くないか」と考えるようになる、というのはうなずくひとも多いでしょう。結婚は30代(女性は30代前半)が勝負なのです。

日本の若者が結婚しなくなったのは、「どうでもいい」と思っているからではありません。これも2015年の調査では、20代では男性の70%、女性の66%が「結婚すべき・結婚した方がいい」とこたえています。日本の若者は結婚したいと思っていても結婚できず、それが少子化につながっているのです。

だとしたら、問題は男女のマッチングがうまくいっていないことにあります。

総務省が2012年に調査した「産業別生涯未婚率」のデータがあります。これを見ると、どの業種でマッチングがうまくいっていないかがわかります。

驚愕するのは放送業のミスマッチで、テレビ局の女性正社員はなんと77%が生涯未婚です。次が「新聞・出版・映像制作・広告制作作業」で、正社員の女性の未婚率は50.1%と半分を超えています。マスコミで働く女性は結婚しないのです。

逆に未婚率が一ケタ台なのは、ほとんどが非正規の女性です。これは、収入や生活の安定が結婚への動機になっていることを示しています。マスコミの女性正社員は(相対的に)収入が多く仕事のやりがいもあるので、結婚にこだわらないのでしょう。

年収別の男女の生涯未婚率を見てもこのことは明らかで、女性の場合、収入が低いほど結婚する割合が高く、年収1000万円を超えると未婚率が一気に30%台まで上がります。男性の場合は逆に、収入が多いほど結婚するようになり、年収800万円以上で未婚率は一ケタ台ですが、年収200万円未満の男性の未婚率は3割を超えています。

こうしたデータから、男女のミスマッチの実態が見えてきます。それは高収入でバリバリ働く女性が自分に見合う高収入の男性を見つけられず(一般に男性は、自分より年収の低い女性を結婚相手に選びます)、低収入の男性が、生活の安定を求める女性から相手にされない、という問題なのです。

年収1000万円のハイスペ女子が、年収200万円のニートの男性と恋に落ちないかぎり、日本の少子化はつづくようです。

参考文献:荒川和久『超ソロ社会』(PHP新書)

『週刊プレイボーイ』2017年6月26日発売号 禁・無断転載