「反ワクチン」を押し出して得票率2%を超え、代表の神谷宗幣氏が初当選した2022年の参院選のあと、参政党は「Do It Yourself(DIY)」を合言葉に、全国に289ある小選挙区のすべてに支部をつくる運動を開始します。
党のホームページによれば、月額1000円の一般党員になると、毎日「各界の専門家」からの音声や動画が配信されるだけでなく、地域別オフ会やタウンミーティング、政策学校「DIYスクール」などに参加したり、大規模イベントの運営に加わったりできます。さらに月額2500円(2026年までは月額4000円)の運営党員には、政策立案や公認候補の党内予備選挙の投票権が与えられます。
党員やサポーターはビラ配りやショート動画の拡散など裏方の役割を担いますが、外国人の土地取得問題への関心から活動に参加した60代の女性党員はこれを「大人の部活」と表現しました。参政党はこれまで政治に興味がないか、関心はあってもどうしたらよいかわからなかった層に、手づくりで政治に参加できる「楽しさ」を与えたのです。
このようにして結束感を高めてきた結果、24年末時点で参政党の党員は6万8000人に増え、それを基盤に12人だった地方議員を155人に増やしています。
ところで、なぜ地方選挙なのでしょうか。これについては、陰謀論に詳しいライターの雨宮純さんが興味深い指摘をしています。
2019年の参院選で国政政党になった「NHKから国民を守る党」(当時)の立花孝志元代表は、地方議員の必須出席日が年間30~40日ほどなのにもかかわらず、1000万円以上の年収が見込めるとして、「地方議員は、そりゃあもうオイシイ仕事ですよ!」と述べるだけでなく、戦略によっては知名度の低い政党・候補でも当選できることを証明しました。
国政選挙では主要政党の公認を得て組織票を獲得できなければ当選は困難ですが、都道府県議会議員や市議会議員・区議会議員は、陰謀論や疑似科学のような極端な主張の持ち主であっても、一定の熱心な支持者が見込めれば議員になれるチャンスが開かれています。
雨宮氏は、「人生を変える手段はなかなか見つからないものだが、政治家になるという手法は努力目標も分かりやすい。選挙で勝てば良いからである」として、地方選挙が「自己啓発」の手段になったといいます。政治家になることで社会を変え、同時に自分の人生も変えられるのです。
神谷代表は「龍馬プロジェクト」という私塾で、全国の若手地方議員のネットワークをつくっていました。参政党はこの土台の上に、支持者たちが候補者を”推し活“するだけでなく、自分も政治家を目指せる(かもしれない)という夢を手にできるようにしたのです。それがもたらす一体感と達成感が、どこかカルトめいた熱気を生み出すのでしょう。
戦後民主主義を支えてきたリベラルは、市民の政治への参加こそが重要だとずっと唱えてきました。その理想を体現し、もっとも成功した「新しい共同体」をつくりだしたのが、「陰謀論」「排外主義」と批判される政党だというのは、なんとも皮肉な事態というほかありません。
参考:雨宮純「日本における陰謀論の今後の展望と対策」(『社会分断と陰謀論 虚偽情報があふれる時代の解毒剤』〈文芸社〉所収)
「参政党伸ばした組織と集金力 地方議員12→155人、党員は維新超え」日本経済新聞2025年7月30日
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