「かんぜんな同意のとれるセックス」売買春を合法化しよう 週刊プレイボーイ連載(384)

性暴力をめぐる司法判断に怒りの声が広がっています。

ひとつは福岡地裁久留米支部の判決で、一気飲みで眠り込んだ女性と性交した男が準強姦罪に問われました。裁判官は、女性は酩酊し「抗拒不能(意思決定の自由を奪われ、抵抗することが困難な状態)」だったと認めたものの、明確な拒絶の意思がなく男性が「女性が許容している」と誤信してもやむを得ないとして無罪としました。

もうひとつは名古屋地裁岡崎支部の判決で、19歳の実の娘への準強制性交罪に問われた父親に対し、「娘の同意は存在せず、極めて受け入れがたい性的虐待に当たる」としつつも、「抵抗不能だったとはいえない」として無罪を言い渡しました。

どちらも理不尽な判決であることはいうまでもありませんが、「故意がない行為は罰しない」が刑法の原則で、法律を厳密に適用すれば「誤解」でも故意は否定され得ると専門家は指摘します。福岡地裁の判決は、「刑法の拡大解釈は自分たちには任が重いので、上級審で議論してくれ」ということなのでしょう。

名古屋地裁の判決は「同意がない性行為でも抵抗しなければ罪には問われない」としましたが、これは「抗拒不能」が準強制性交罪の要件になっているからだとされます。こちらも、刑法を厳密に解釈すればこうならざるを得ないのでしょう。

だとすれば当然「刑法を改正すべきだ」という話になりますが、このあたりから法律家の口は重くなります。「抗拒不能」の要件を撤廃し「同意なき性交は犯罪」とすれば女性の権利は守られるでしょうが、なにをもって「同意」と見なすかで混乱が起きるのは明らかだからです。

女性とベッドに入るたびに「性交同意書」に署名捺印してもらうというのは、いくらなんでも非現実的です。そうなると男性は、身を守るために、女性とのやりとりを録音したり、性交場面をこっそり録画しようとするでしょう。女性が「同意はなかった」と訴えたら、報復として動画をネット上に公開する……という事態もじゅうぶん考えられます。

しかしそれでも、世界の趨勢は性暴力にきびしく対処するよう求めており、日本もそれに追随せざるを得ないでしょう。「同意」がないと刑務所に放り込まれ、なにもかも失ってしまうかもしれないとなったら、男性はどうするのでしょうか。

もちろん未来のことはわかりませんが、ひとつだけ確かなのは、「かんぜんな同意のとれるセックス」への需要が高まることです。これは要するに「売買春」のことです。

「セックスワークでも性暴力は起きる」との反論があるでしょうが、従業員の安全は店(業者)の責任です。プライベートな性暴力では女性が一人で矢面に立たされることを考えれば、ビジネスの方がずっと守られています。

だとすれば、まずやるべきは「売春合法化」でしょう。性交をともなう風俗業も法の管理下に置き、従業員が安全にサービスを提供し、客がそれを楽しめるようにすれば、すくなくとも「同意」をめぐるやっかいな問題はなくなります。

もっともそうなると、さらに非婚化と少子化が進むことは避けられないでしょうが。

『週刊プレイボーイ』2019年5月20日発売号 禁・無断転載

ゴーン保釈でわかる日本の「白人崇拝」 週刊プレイボーイ連載(383)

二度目の逮捕をされた日産の元会長カルロス・ゴーン被告に対し、東京地裁は検察の強い反対にもかかわらず再保釈を認める決定をしました。「10連休」直前の4月25日のことですから、「祝日で取り調べもないのに不当に被告を勾留している」との海外からの批判を避けるための、当初からの規定路線だったのでしょう。

この決定に対して検察幹部は「裁判所は完全にひよっている」と怒っていますが、その検察にしても、取り調べに弁護士の立ち会いを認めていないことについて、「それぞれの国にそれぞれの歴史や法制度があり、自分の国と異なることを理由に批判するのは妥当ではない」という「排外主義」的な言い訳をしたあと、ひたすら沈黙を守っています。その代わり、日本のメディアにさかんに捜査情報をリークして自分たちに有利な世論をつくろうとしているのですから、立派なことをいえる立場ではありません。

今回の再保釈で誰もが思い出すのは、森友学園事件で逮捕された元理事長夫妻でしょう。

大量の報道によって2人の顔は日本じゅうに知れ渡っており逃亡はほぼ不可能で、徹底した捜査で隠蔽すべき証拠もなくなっていました。それにもかかわらず、否認を理由に10カ月も長期勾留されたのです。

ゴーン被告には海外逃亡に必要な資金も語学力もネットワークもあり、事件の複雑さを考えれば隠滅すべき証拠や口裏合わせが必要な証人がいることもじゅうぶんに考えられます。再逮捕後は、すべての容疑を否認し黙秘してもいます。

だとしたら、ゴーン被告と森友学園の元理事長でいったい何がちがうのでしょうか。

それはもちろん、「国籍」と「人種」です。

だれもがうすうす気づいているように、裁判所の判断は、「日本人ならなにをしてもいいが(著名な)外国人はマズい」であり、「欧米の白人は特別扱い」ということです。なんのことはない、この国の「欧米(白人)崇拝」は明治の鹿鳴館時代からなにひとつ変わってはいないのです。

リチャード・アーミテージ氏はアメリカの対日政策に大きな影響力を行使しましたが、そのインタビューで「自民党の政治家が、「アーミテージさん、ガイアツをお願いします」とやってくるので閉口した」と語っていてびっくりしたことがあります。自分たちで改革案を出すと叩かれるので、「アメリカにいわれて仕方なくやる」という話にするためだそうです。アーミテージ氏はリアリストなので、アメリカの国益に合致すれば引き受けていたようですが。

こうして、「日本はなにもかもアメリカの言いなりだ」と怒るひとたちが出てきました。しかし実態は、「外圧でしか改革を進められない」ということだったのです。なぜなら国民の政治不信が強く、政治家の言葉など誰もまともに聞かないから。

そう考えれば、今回の「外圧」にも意味はあります。これからは日本人の被疑者も、「ゴーンは保釈されてなぜ自分は勾留されるのか」と堂々といえるからです。

こうして「中世の魔女裁判」と揶揄された日本の司法も、すこしずつ「近代」に向けて進みはじめるのでしょう。まあ、たんなる希望的観測ですが。

『週刊プレイボーイ』2019年5月13日発売号 禁・無断転載

日本の政治家・官僚の国際感覚は大丈夫なのか? 週刊プレイボーイ連載(382)

福島原発事故の被災地などからの水産物を韓国が全面禁輸していることについて、世界貿易機関(WTO)上級委員会が日本の逆転敗訴の判決を出しました。韓国に是正を求めた第一審は破棄され、輸入規制の継続が認められたことになります。

この報道を見て、調査捕鯨の是非をめぐってオーストラリアが国際司法裁判所(ICJ)に日本を提訴した裁判を思い出したひとも多いでしょう。「科学的根拠」を盾に日本側は強気で、首相官邸にも楽観的な予想が伝えられていたにもかかわらず、ふたを開けてみれば全面敗訴ともいうべき屈辱的な判決だったため、安倍首相が外務省の担当官を厳しく叱責したと報じられました。今回のWTO上級委員会の審査でも、日本側は第一審の勝訴で安心しきっており、予想外の結果に大きな衝撃を受けたようです。

この二つの失態で誰もが最初に考えるのは、「日本の官僚は大丈夫か?」でしょう。韓国は一審で敗訴したあと、通商の専門家を含む各省庁横断的な紛争対応チームを設置し、「こうした韓国政府の努力が反映された結果だ」とコメントしています。だとしたら日本政府は、「被災地の復興支援」のためにどんな努力をしたのでしょうか。

厚労省の「統計不正」問題で暴露されたように、専門性に関係なく新卒を採用し、さまざまな部署を異動させてゼネラリストを養成するという官庁の人事システムはかんぜんに世界の潮流から取り残されています。

法学部や経済学部卒の「学士」の官僚が国際会議に出ると、そこにいるのは欧米の一流大学で博士号を取得したその分野のスペシャリストばかりです。これでは、アマチュアのスポーツチームがプロを相手に試合するようなもので、最初から勝負は決まっています。

もうひとつの懸念は、日本の政治家・官僚の感覚が国際社会の価値観から大きくずれているのではないかということです。

欧米では狩猟はかつて「紳士のスポーツ」として人気でしたが、いまでは「アフリカに象を撃ちに行く」などといおうものなら、殺人犯のような(あるいはそれ以上の)白い目で見られます。「科学的根拠」があろうがなかろうが、大型動物を殺すことはもはや許容されなくなりました。調査捕鯨を容認する判決を出したときの国際社会からの強烈なバッシングを考えれば、ICJの判断は最初から決まっていたと考えるべきでしょう。

原発被災地の水産物については、日本が生産者の立場、韓国が消費者の立場で互いの主張をたたかわせました。WTOは日本の食品の安全性を認めたとされますが、それでも韓国の禁輸を容認したのは、政府には国民=消費者の不安に対処する裁量権があるとしたためでしょう。いわば「消費者主権」の考え方で、これも世界の趨勢です。

二つの判決は、国際社会の価値観の変化を前提とすれば、じゅうぶん予想されたものでした。だとしたら問題は、そのことにまったく気づかず、唯我独尊のような態度で裁判に臨んだ側にあります。

元徴用工らの訴えに対する韓国大法院の判決に対し、与党内にはICJに訴えるべきだとの強硬論もあるといいます。裁判で決着をつけるのは自由ですが、ますますリベラル化する国際世論を考えれば、けっして楽観できないことを肝に銘じるべきでしょう。

参考:「日本からの水産物禁輸容認「努力が反映された」 韓国」朝日新聞4月12日朝刊

追記:2019年4月23日朝日新聞は、「政府説明、WTO判断と乖離」として、日本政府が根拠にしている「日本産食品の科学的安全性が認められた」との記載がWTO第一審の判決文にあたる報告書に存在しないことを報じました。国際法の専門家などからの批判を受け、外務省と農水省の担当者は「『日本産食品が国際機関より厳しい基準で出荷されている』との認定をわかりやすく言い換えた」と釈明、外務省経済局長は自民党の会合で政府の公式見解を一部修正したとのことです。ますます、「日本の官僚、大丈夫か?」という気がしてきます。

『週刊プレイボーイ』2019年4月29日発売号 禁・無断転載