リバタリアニズム雑感(2)

これもずいぶん前の話なのだけれど、ある新聞社から寄稿を求められて、ゲーリー・ベッカー(1992年ノーベル経済学賞受賞)の麻薬合法化論を紹介したところ、”不適切”として書き直しを求められた。ベッカー教授の麻薬合法化論は、ニューヨーク・タイムズやウォールストリート・ジャーナルにも堂々と掲載されているのに。

もちろん、新聞社の立場もわからないわけじゃない。マリファナが重罪扱いされる日本で、「覚醒剤を合法化すれば社会の厚生は向上する」などと書けば、読者からの抗議や苦情で大変なことになるだろう。新聞社のひとたちに迷惑をかけるのは本意ではないので、もちろん私は、書き直しの指示に素直に従った。「言論の自由」を大義に掲げるのなら、不適切な議論こそ積極的に掲載すべき、と思わないこともなかったけれど。

*********************************************************************************

今年の夏、アムステルダムの運河に面したカフェでビールを飲んでいた。

隣のテーブルに、70歳はとうに超えていると思われる白人の老夫婦が2組、やってきた。飲み物を注文すると、彼らは自分たちのバッグから葉っぱを取り出して、うれしそうに紙に巻きはじめた。

オランダでは、マリファナと売春が合法化されている。ホテルの部屋に置かれた観光ガイドにも、風車やゴッホ美術館と並んで、コーヒーショップ(マリファナ喫茶)と赤線地帯(飾り窓)が当たり前のように紹介されていた。

午後9時を回ってようやく日は傾き、アムステルダムの街は世界じゅうからやってきた老若男女の観光客であふれていた。彼らはみな、自分の国では法律を守る善良な市民だ(だからわざわざオランダまでやってくる)。

ほとんどの国は、自由を過度に制限している。だからこそ、「自由」が最大の観光資源になる。

********************************************************************************

アメリカでは、医療用大麻が広く認められている。

きっかけは、既存の鎮痛剤が効かない一部のがんに対して、マリファナの鎮痛効果が発見されたことだった。それによってがん患者たちが違法を承知でマリファナを使用するようになったが、マリファナの入手がきわめて容易な社会で、彼らだけを罰することができるはずもなかった。

もともと薬というのは毒でもあるのだから、ドラッグの違法性は、薬としての効果がないことが前提になっている(毒性を理由にすれば、すべての薬は違法になる)。ところがマリファナの薬事効果が明らかになったことで、それを「毒物」として違法にする根拠はなくなってしまった。このようにして、カリフォルニアやアリゾナ、コロラド、ネヴァダなどで医療用の大麻が解禁されるようになった。

とりわけカリフォルニアでは、不眠症や神経症でも医師の処方があれば医療用大麻を購入できるから、大麻は事実上、自由化されている。そのため、規制自体が意味がないとして、今年11月、中間選挙に合わせて大麻合法化の住民投票が行なわれることになっている。