第9回 使う気うせるライツ・イシュー

お小遣いに100円もらって、大喜びで家を飛び出したら、駄菓子屋に着いたときには手の中のお金は50円玉に変わっていた。そんな理不尽なことがあれば、どんな子どももその場で泣き崩れてしまうだろう。

ところがこれと同じことが、日本の株式市場ではよく起きる。その原因が第三者割当増資だ。

持っていた株が、ある日突然、暴落する。特定の第三者に割引価格で新株を発行して、資金調達したからだ。上場企業なんだから堂々と公募で増資すればいいのに、なんで第三者に便宜を図るかというと、そうしなければ誰も相手にしてくれないくらい財務状況が悪いのだという。でもそんな話、ぜんぜん聞いてないよ(だからみんながびっくりして株価が暴落する)。おまけに受け取った新株を即座に市場で売却する輩がいるから、泣きっ面に蜂とはまさにこのことだ。

第三者割当増資でいちばん不愉快なのは、新株を引き受けた第三者(という名の利害関係者のことも多い)が、たいていは儲かるようにできていることだ。考えてみれば当たり前で、損する話に大金を投じるひとなんていない。だったらその儲け話を俺にも回してくれよ、と(僕のような)零細株主は強く思う。

このような理由で、海外市場ではライツ・イシューという株主割当増資が広く行なわている。既存の株主に持株比率に応じて新株を割り当てる仕組みで、一部の株主が新株を独占するよりずっと公平だ。

日本でもこのライツ・イシューが、東証の規則改正で解禁になった。だが2月21日付本紙の記事「ライツ・イシュー、使い勝手に課題」によると、まだ1件も利用がないのだという。資金調達までに約3カ月もかかるほか、株主全員に有価証券目論見書を郵送するコストや、増資に応じる株主が証券会社の店頭で手続きする手間が敬遠の理由だそうだ。でもこれは、僕の知っているライツ・イシューとはずいぶん違う。

海外市場の株主割当増資は、たとえばこんな感じだ。

まず、証券会社からメールが来る。

「やあ。君の新株の権利はこれだけだよ。どうするか決めて連絡してね」

申込書は添付のPDFファイルで、プリントアウトしてサインした後、スキャニングしてメールで送り返す。

以上。

分厚い紙の目論見書を印刷するのはエコの精神に反するし、郵送費に大金を投じるならもっとマシな使い道があるはずだ。だいたいこのインターネット時代に、なんで証券会社まで手続きに行く必要があるの?

つい最近も、インドネシアの会社のライツ・イシューがあった。それは新株のほかにさらにワラントがついていて、3年後に株価が上がっていれば、宝くじに当たったみたいに儲かるようになっている。これはなかなか楽しい仕掛けだ。

東証さん、インドネシアの方がずっと先を行ってますよ。

橘玲の「不思議の国」探検 Vol.9:『日経ヴェリタス』2010年3月21日号掲載
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