世界価値観調査から日本と世界が見えてくる

ダイヤモンド社と共同で行なっていた「海外投資の歩き方」のサイトが終了し、過去記事が読めなくなったので、閲覧数の多いものや、時世に適ったものを随時、このブログで再掲載していくことにします。

今回は2021年3月25日公開の「1970年代から始まった生存重視から自己表現重視への価値観の「進化」。 日本人が「国のために戦いたい」と思わず、幸福にもなれない理由」です(一部改変)。

世界価値観マップ(2023)https://www.worldvaluessurvey.org/WVSContents.jsp

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ミシガン大学社会調査研究所教授で政治学者のロナルド・イングルハートは、世界のひとびとの価値観を比較する「世界価値観調査」の創設者・主導者として知られている。『文化的進化論 人びとの価値観と行動が世界をつくりかえる』(山﨑聖子訳/ 勁草書房)は、100カ国、40年に及ぶ調査にもとづいたイングルハートの研究の集大成だ。本書の後半では、2016年のイギリスのEU離脱、アメリカのトランプ大統領誕生をこれまでの調査結果をもとに論じている。

興味深いのは、イングルハートが意図的に「進化(Evolution)」という言葉を使っていることだ。これまで社会科学では、進化は生物だけに適用すべきだとされてきた。その背景にはもちろん、ナチスの優生学を生んだ「社会進化論」への忌避感がある。だがイングルハートは、あえて自らの理論を「進化論的近代化論(evolutionary modernization theory)」と名づけた。 続きを読む →

「評判経済」がいつもうまくいくとはかぎらない 週刊プレイボーイ連載(604)

人間の本性は善(利他的)なのか悪(利己的)なのかは、古代ギリシアやインド、中国の時代からえんえんと議論されてきましたが、1995年に創業した会社がこの論争に一石を投じました。その会社はeBayで、インターネットオークションで大きな成功を収めました。

とはいえ創業当時は、そんな事業が成り立つわけがないとさんざん批判されました。オークションの買い手は、自分の手で商品を調べることもできなければ、落札した商品がちゃんと送られてくる保証もなかったからです。

ところがこの問題は、とても簡単な仕組みで解決されました。取引が終わったあと、買い手が売り手を評価するようにしたのです。現在、評価の星は、黄色(スコア10~49)からシルバーの流れ星(スコア10万以上)まで12種類あります。

だまされると損してしまう買い手は、同じような商品なら評判のいい売り手から買おうとするでしょう。売り手からすれば、評価が資産になり、星の数が多ければ多いほど、より大きな利益が得られるのです。

そうなると売り手の最善の戦略は、正直な商売を心掛け、できるだけ顧客満足度を高めることになります。ここで重要なのは、売り手が善人なのか悪人なのかに関係なく、「いいひと」として振る舞うようになることです。

あなたが悪人で、オークションサイトにアカウントを開設し、商品を送らずにお金をだまし取ることを企んでいるとしましょう。それでも、まずはそれなりの評価を集めないと、商売のスタートラインにすら立てません。

善人のふりをしながら星を獲得していくと、より高額な商品が落札されるようになります。しかしここであなたは、「もうちょっと正直に商売してより多くの星を集めたら、もっと大きな詐欺ができるではないか」と考えるでしょう。こうしてあなたは、悪人のまま、みんなから善人と思われて商売を続けるのです。

社会的な生き物であるヒトは、共同体から高い評価を得ると幸福感を感じるように進化してきました。それに加えて評価が富に直結するのですから、このインセンティブは強力です。こうしてeBayだけでなく、ライドシェアのUberやバケーションレンタルのAirbnbのようなシェアエコノミーが登場することになりました。

ところが、高級時計のシェアリングサービスでは、この仕組みがうまく機能しませんでした。使っていないコレクションを預かり、業者がそれを第三者に有料で貸し出して、オーナーに毎月、預託料を支払うことになっていましたが、実際には高級時計を古物商に売却していたのです。

この業者が「シェアエコ認証」を受けていたことも被害を拡大した一因ですが、違法行為を前提に事業を始めるプラットフォーマ―が出てくることを想定できなかったのでしょう。被害総額は2億4000万円あまりで、運営会社の元代表と元社員は海外に逃亡し国際指名手配されています。

評判は人間の善性を増幅することができますが、「評価経済」を悪用する者を善人にすることはできなかったようです。

『週刊プレイボーイ』2024年5月27日発売号 禁・無断転載

「自立した自由な個人」によって成り立つ高福祉社会はユートピアか

ダイヤモンド社と共同で行なっていた「海外投資の歩き方」のサイトが終了し、過去記事が読めなくなったので、閲覧数の多いものや、時世に適ったものを随時、このブログで再掲載していくことにします。

今回は2016年7月7日公開の「「自立した自由な個人」により成り立つスウェーデンの高福祉。 移民流入により、その社会実験の結末はどうなるのか?」です(一部改変)。

wjarek/Shutterstock

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前回、スウェーデンの「積極的労働市場政策」を紹介したが、その徹底した市場原理と経済合理性に驚きながらも、強い違和感を覚えたひとも多いだろう。

参考:「新自由主義(ネオリベ)型福祉国家」スウェーデン 続きを読む →