明けましておめでとうございます

明けましておめでとうございます。

今年がみなさまにとってよい1年でありますように。

2021年元旦 橘 玲

Ivato International Airport, Antananarivo, Madagascar

*昨年はどこにも行けなかったので、2014年12月にマダガスカル、アンタナナリボで見た朝焼けをアップします。

日本人は役に立たない政府を望んできた 週刊プレイボーイ連載(458) 

今年1年を振り返れば、世界は未知の感染症によって大きく動揺し、それぞれの国や社会の深層に隠されていた構造があぶりだされたことに気づきます。

数千年ものあいだ皇帝による独裁統治(人治)をしてきた中国は、ひと足早く超監視社会に移行したことで、人権を制約すれば感染症を抑制し、経済成長と両立できることを示しました。それに対して「リベラルデモクラシーの守護者」たる欧米は、過度な社会統制を避けたことで膨大な感染者・死者を出しましたが、その一方で、病院へのアクセスを制限し、治療に優先順位をつける“社会的トリアージ”によって、感染拡大でも医療崩壊を防げることを示しました。

ひるがえって日本はどうでしょう? 中国のような統制もせず、かといって欧米のようなロックダウンにも至らず、すべての患者を受け入れながら、国民の同調圧力と「自粛警察」だけで一定程度感染を抑制したことで、国際社会からも「謎の成功」と奇妙な称賛さえされることになりました。

それにもかかわらず、Go Toをめぐる混乱もあって、菅新政権の支持率は大きく下がっています。もちろんこれにはさまざまな要因があるのでしょうが、感染症対策にせよ、経済支援にせよ、国民の気持ちをひと言で表わすなら「がっかり」でしょう。政治家にはリーダーシップが欠如し、政府は「ぜんぜん役に立たない」と思われているのです。

なぜこんなことになるのか。日本は「民主国家」なのですから、この疑問への答えはひとつしかありません。「日本人が役に立たない政府を望んできた」です。

1945年に悲惨な敗戦を迎えたときの国民の共通の思いは、「だまされた」でした。「日本は神の国で鬼畜米英をせん滅する」というデタラメを振りまき、300万人もの兵士・国民を無駄死にさせた政治家や軍人たちは、8月15日を境に、てのひらを返したように「民主主義」とか「自由と平和」とかいいだしたのですから。

すべての価値観が崩壊する衝撃を体験したのは、いまでは80代以上の高齢者になりましたが、この底なしの「がっかり」感が戦後日本社会に及ぼした影響は決定的でした。

敗戦によって日本人が思い知らされたのは、「権力者はすべてウソつき」「政治家を信じてもろくなことはない」という苦い真実でした。「二度とだまされない」と決意したが国民が、戦前のような「上から目線」の政治を徹底して忌避したのは当然です。

その結果、戦後日本の政治家は、有権者におもねり、懐柔しながら新しい社会をつくっていくしかなくなりました。ちょうどうまい具合に高度経済成長が始まったことで、彼らが思いついた解決策は「お金を配って政治をさせてもらう」でした。国民の側も、経済成長の果実を分配するだけなら、政治のままごとを許してくれたのです。――もっとも重要な安全保障はアメリカに丸投げしていたので、ままごとでも大きな問題は起きませんでした。

もちろん、これはたんなる仮説にすぎません。しかし、「日本国民が無能な政府を望んだ」と考えると、迷走する感染症対策も、与野党あげて「一人一律10万円給付」のばらまきに飛びついたことも、これまで起きた出来事がすべてきれいに説明できるのです。

『週刊プレイボーイ』2020年12月21日発売号 禁・無断転載

浮気はすべて「女が悪い」のか 週刊プレイボーイ連載(457) 

浮気がバレたとき、「自分がすべて悪かった」と素直に認めて謝罪するのは記者会見での芸能人くらいで、ほとんどのひとは「夫婦関係がうまくいかなくなったのは相手のせいで、浮気をした自分は被害者だ」と思っているでしょう。悲しいことに、ヒトは自己中心的な生き物で、自らの非を受け入れるようにはできていないのです。

とはいえ、言い訳がすべて間違いだと決めつけることもできません。友人から冷え切った家庭生活の愚痴を聞いて、「そんなんじゃ浮気しても仕方ないよね」と同情したひとも多いのではないでしょうか。

浮気はどちらのせいなのか? アメリカの大学でこれを調べた興味深い研究があります。

研究者はまず、4カ月以内に結婚したばかりのカップル計228組(456人)を集め、「ビッグファイブ」と呼ばれる性格の5大因子(外向性/内向性、神経症傾向、協調性、堅実性、経験への開放性)とナルシシズムの度合いを調べました。平均年齢は夫30.33歳、妻28.61歳です。
そのうえで、3年間にわたって6カ月、あるいは1年ごとに調査票を送り、自分と相手の浮気について答えてもらいました。この研究の巧妙なところは、新婚早々のラブラブのときから調査を始めていることです。浮気をしてから理由を訊けば、「相手がぜんぶ悪い」というに決まっていますが、これならどのような性格が浮気と関係しているかを客観的に検証できるのです。

その結果はというと、「夫の浮気は妻の神経症傾向が高いときに統計的に有意で、妻の浮気は自分の外向性が高いときに有意だった」になります。これをわかりやすくいうと、「妻が神経質なときに夫が浮気をする確率が(統計的に)高くなり、外向的な性格の妻をもつと夫が浮気をされる確率が高くなる」ということです。

興味深いのは、それ以外の性格が浮気とほとんど関係がなかったことです。刺激を求めてパーティなどによろこんで出かける外向的な男が不倫しやすいと思われていましたが、強い刺激を嫌って読書や音楽鑑賞を好む内向的な男も同じように不倫します。

浮気は堅実性の低い(ちゃらんぽらんな)人間がするものとされていましたが、堅実性が高い(ものごとをきとんとやるタイプの)男や女も浮気の頻度は変わりません。

協調性は共感力の指標で、夫や妻に共感していれば(相手の気持ちに敏感なら)浮気をすることはなさそうですが、意外なことにこれも関係ありません。不倫相手にも同じように強く共感するからでしょう。

とはいえ、この結果は女性にとって理不尽に思えます。夫(男)は外向的な性格の女性を避ければ不倫されるリスクを下げることができますが、神経質傾向の高い妻(女)は、どんな相手と結婚しても浮気される確率が上がるのですから。

でもこれも、逆に考えれば、「女は相手の性格にかかわらず、好きなひとができたら自分の意志で浮気する」のに対して、「男は自分がどんな性格でも浮気するが、妻が神経質で居心地が悪いときはその確率が少し上がる」ということなのかもしれません。

参考:Emma E. Altgelt, et al.(2018)Who is sexually faithful? Own and partner personality traits as predictors of infidelity, Journal of Social and Personal Relationships

小塩 真司『性格とは何か より良く生きるための心理学』(中公新書)

『週刊プレイボーイ』2020年12月14日発売号 禁・無断転載