浮気はすべて「女が悪い」のか 週刊プレイボーイ連載(457) 

浮気がバレたとき、「自分がすべて悪かった」と素直に認めて謝罪するのは記者会見での芸能人くらいで、ほとんどのひとは「夫婦関係がうまくいかなくなったのは相手のせいで、浮気をした自分は被害者だ」と思っているでしょう。悲しいことに、ヒトは自己中心的な生き物で、自らの非を受け入れるようにはできていないのです。

とはいえ、言い訳がすべて間違いだと決めつけることもできません。友人から冷え切った家庭生活の愚痴を聞いて、「そんなんじゃ浮気しても仕方ないよね」と同情したひとも多いのではないでしょうか。

浮気はどちらのせいなのか? アメリカの大学でこれを調べた興味深い研究があります。

研究者はまず、4カ月以内に結婚したばかりのカップル計228組(456人)を集め、「ビッグファイブ」と呼ばれる性格の5大因子(外向性/内向性、神経症傾向、協調性、堅実性、経験への開放性)とナルシシズムの度合いを調べました。平均年齢は夫30.33歳、妻28.61歳です。
そのうえで、3年間にわたって6カ月、あるいは1年ごとに調査票を送り、自分と相手の浮気について答えてもらいました。この研究の巧妙なところは、新婚早々のラブラブのときから調査を始めていることです。浮気をしてから理由を訊けば、「相手がぜんぶ悪い」というに決まっていますが、これならどのような性格が浮気と関係しているかを客観的に検証できるのです。

その結果はというと、「夫の浮気は妻の神経症傾向が高いときに統計的に有意で、妻の浮気は自分の外向性が高いときに有意だった」になります。これをわかりやすくいうと、「妻が神経質なときに夫が浮気をする確率が(統計的に)高くなり、外向的な性格の妻をもつと夫が浮気をされる確率が高くなる」ということです。

興味深いのは、それ以外の性格が浮気とほとんど関係がなかったことです。刺激を求めてパーティなどによろこんで出かける外向的な男が不倫しやすいと思われていましたが、強い刺激を嫌って読書や音楽鑑賞を好む内向的な男も同じように不倫します。

浮気は堅実性の低い(ちゃらんぽらんな)人間がするものとされていましたが、堅実性が高い(ものごとをきとんとやるタイプの)男や女も浮気の頻度は変わりません。

協調性は共感力の指標で、夫や妻に共感していれば(相手の気持ちに敏感なら)浮気をすることはなさそうですが、意外なことにこれも関係ありません。不倫相手にも同じように強く共感するからでしょう。

とはいえ、この結果は女性にとって理不尽に思えます。夫(男)は外向的な性格の女性を避ければ不倫されるリスクを下げることができますが、神経質傾向の高い妻(女)は、どんな相手と結婚しても浮気される確率が上がるのですから。

でもこれも、逆に考えれば、「女は相手の性格にかかわらず、好きなひとができたら自分の意志で浮気する」のに対して、「男は自分がどんな性格でも浮気するが、妻が神経質で居心地が悪いときはその確率が少し上がる」ということなのかもしれません。

参考:Emma E. Altgelt, et al.(2018)Who is sexually faithful? Own and partner personality traits as predictors of infidelity, Journal of Social and Personal Relationships

小塩 真司『性格とは何か より良く生きるための心理学』(中公新書)

『週刊プレイボーイ』2020年12月14日発売号 禁・無断転載