トランプに学ぶ「安倍3選」の必勝戦略 週刊プレイボーイ連載(342)

「なんの成果もないじゃないか」とさっそくいわれているトランプ大統領と金正恩委員長の「歴史的」会談ですが、私たち日本人にとっては、とりあえず北朝鮮からミサイルが飛んでこなくなって、Jアラートで右往左往しないだけでも大きな成果でしょう。

「モリカケ」問題で逆風下の安倍首相ですが、その言動を見るとトランプ大統領をじつによく研究していることがわかります。その安倍首相は米朝首脳会談後にトランプ大統領と電話会談を行ない、「拉致問題について取り上げていただいたことに感謝申し上げた」と述べ、金委員長との直接対談に意欲を示しました。

アメリカの政界を揺るがすロシアゲートでは、2016年の大統領選でトランプ陣営が、ロシアの情報機関に依頼してヒラリー・クリントンに不利な電子メールを大量流出させたり、SNSでフェイクニュースを流すなどの世論工作を行なったと疑われています。特別検察官(元FBI長官)の捜査ですでに関係者が起訴されており、その深刻さは「モリカケ」の比ではありません。しかしそれにもかかわらず、トランプの支持率は40%を大きく下回ることはなく、最近は逆に上昇しています。

社会心理学はこれを、「部族」同士のアイデンティティの衝突で説明します。アイデンティティは「社会的な私」の核心にあるもので、それを攻撃されると脳は実際に殴られたのと同じ痛みを感じます。

アメリカの白人保守派は自らのアイデンティティをトランプと一体化させているので、「リベラル」のトランプ批判を自分への攻撃とみなし、理屈もなにもなく衝動的に反発します。これはヒトが旧石器時代から、さらにはその前のサルと未分化の頃からもちつづけてきた部族同士の殺し合いの感情です。

トランプはこのことを(本能的に)よく知っているので、「リベラル」からの批判をすべて「フェイクニュース」と切り捨てます。敵に弱みを見せれば味方の信頼は失われますから、部族抗争ではこれは正しい戦略です。その代わり今回の米朝首脳会談のような大掛かりなショーを実現させ、成果があってもなくても、支持者に「俺たちの大統領がデカいことをやった」と思わせればいいのです。

アメリカは共和党と民主党に二極化しているといわれますが、両極のあいだには広大なグレイゾーンがあります。このひとたちは「保守的」ないしは「リベラル的」かもしれませんが、政策ごとに是々非々で判断し、なによりも自分と家族の生活がいちばんだと思っています。トランプはこの中間層を引きつけるために、どれほど世界から批判されても「アメリカファースト」の保護主義を貫き、「雇用」と「治安」を強調しますが、これもきわめて理にかなっています。

これを安倍政権に当てはめれば、「モリカケ」で譲歩することになんのメリットもなく、ただ頭を低くして嵐が過ぎ去るのを待てばいいということになります。その代わり経済の好調をアピールし、日朝首脳会談で「デカい」ショーを演出することが、3期目の自民党総裁を確実にするもっとも合理的な戦略になるのでしょう。

『週刊プレイボーイ』2018年6月25日発売号 禁・無断転載