イラク日報問題で、自衛隊の「制服組」はなぜ国会で説明しないのか 週刊プレイボーイ連載(334)


「モリカケ」問題に加え、厚生労働省の「特別指導」や自衛隊のイラク派遣時の日報隠しなど、次々と不祥事が勃発する安倍政権ですが、これらに共通するのは、国会での首相や大臣、省庁幹部の答弁と矛盾しないように、なんの躊躇もなく文書を隠蔽したり改ざんしたりするお役人の体質です。

ただし、安倍政権の「独裁」で行政が歪められたと決めつけることはできません。事実はおそらく逆で、官僚はもともと権力におもねる“本能”をもっていたものの、これまでは小泉政権を除いて短命だったため、様子見を決め込んでいただけなのでしょう。超長期政権が確実になったことで、法律も規則も無視して一斉に媚を売るようになったと考えれば、いま起きている事態をシンプルに説明できます。

こんな情けないことになる理由は、これまで繰り返し述べてきたように、日本の労働市場に流動性がないからです。転職のできない環境では、いったんネガティブな評価を受ければ、閑職で飼い殺しにされるしかありません。だとしたら、自分や家族の将来のためにどんなことでもするようになってもなんの不思議もありません。

しかしそのなかでも、自衛隊の日報問題はちょっと特殊です。

日本におけるシビリアンコントロールとは、「背広組」と呼ばれる防衛省の文官が「制服組」と呼ばれる武官を統治することをいいます。防衛大臣は直接、幕僚長ら「制服組」幹部に指示を出すのではなく、事務方トップの防衛省事務次官など「背広組」が仲介します。北朝鮮のミサイル実験のような安全保障にかかわる事態でも、国会で自衛隊の見解を説明するのは「背広組」の官僚です。

イラク派遣時の日報を「隠していた」とされるのは、陸自や空自などの現場です。常識で考えれば、彼らが部隊の貴重な活動記録である日報を破棄するはずはなく、どこかに保管されているのは公然の秘密だったはずです。ではなぜ「存在しない」などと報告したかというと、国会で釈明するのは「背広組」で、自分たちには関係ないと思っていたからでしょう。現場の自衛官にとって、国会は「他人ごと」なのです。

近代国家はすべての暴力を独占しますが、そのなかで最大の「暴力装置」が軍であることはいうまでもありません。世界標準のシビリアンコントロールとは、選挙で選ばれた政治家=国会が軍を統制することですが、今回の出来事が明らかにしたのは、現場の自衛官は国会のことなどまったく気にしていないという現実です。

しかしここで、自衛官だけを責めることはできません。野党はなにかあるたびに「責任者を喚問せよ」といいますが、日報問題で責任を負うべき空自や陸自の幕僚長を国会に呼ぼうとはしません。なぜなら、「制服組を国会に立たせてはならない」という暗黙の了解があるからです。これは、陸軍大臣や海軍大臣などの軍人が国会を蹂躙し、日本を破滅へと引きずり込んだ「負の記憶」があるからでしょう。

その結果、自衛隊は国会とは切り離され、この国のシビリアンコントロールは名ばかりのものになってしまいました。論じるべきは安倍政権への忖度ではなく、この深刻な問題なのです。

『週刊プレイボーイ』2018年4月23日発売号 禁・無断転載

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6件のコメント

  1. >イラク派遣時の日報を「隠していた」とされるのは、陸自や空自などの現場です。

    「軍事記録」である「イラク日報」を安易に公開していいものか?

    という疑問は持たないのでしょうか?

    今日のようにインターネットやAIの発達した時代に、
    「軍事記録」を安易に公開することは、

    自軍の手の内をさらすことになりかねません。

    敵軍の行動様式パターンがわかったなら
    それに対処するのは比較的容易になるという理屈です。

    背広組と制服組の主導権争い対立もあるでしょうが、
    どちらかが優勢になったら逆にコントロールが効かなくなるのです。

    尖閣諸島中国漁船衝突映像流出事件について
    sengoku38氏のやり方が正しかったとは思いませんが、
    当時の政権の背広組の対応(非公開)も問題だったでしょう?

  2. 最後に書かれた野党の件はどうでしょうね。

    制服組トップを召喚し、問題を明らかにしたところで、与党へ打撃を与えることには、ならないんじゃないでしょうかね。

    単なる制服組の暴走ということで、結論がついちゃうんじゃないでしょうか。もちろん由々しき問題ですが、国民は馬鹿だから、シビリアンコントロールなんて難しいこと考えませんよ。

    野党にとっては、与党を攻められればいいんです。

  3. シビリアンコントロールの定義が違います。確かに過去、文官が制服を優越するような制度になっていましたが、統幕が機能し、運用に関する大臣補佐が移管され、制服が大臣に直接助言できる制度になっています。そもそも過去の文官統制は文民統制とは異なる歪でアホな制度(素人統制)でしかない。

    日報が保存期間1年程度であることは誰でも知っていたし、省内の各種監察で保存期間満了文書は速やかに破棄すべきと指導してきた一方、個人資料として位置付ければ開示の対象外としてきた。変えるべきは文書管理制度であり、保存期間満了後の一律公文書館への移管だろう。そしてこれらは軍政(人事・管理などの政策)なので、内局の官僚が担当。制服は軍令(部隊運用)担当なので、こんな下らない話で国会に出る必要はない。

    それに、自衛隊の現場の部隊はそもそも国会対応は任務ではないし、日報が出てきたのは主に上級司令部など。

    この記事はミスリードと誤解に満ちている。

  4. >>暗黙の了解があるからです。これは、陸軍大臣や海軍大臣などの軍人が国会を蹂躙し、日本を破滅へと引きずり込んだ「負の記憶」があるからでしょう。

    えっと、ここ突っ込むところですか?恥ずかしくないのかな?

  5. 世間も国会議員も自衛官に甘すぎる。
    自衛官にも国会での説明責任を負わせるべき。彼らも、国会での説明責任を負うとなれば、今のような勝手なことや無責任なこと、身内の論理だけを振りかざした世間知らずなアホみたいなことは言えなくなる。
    また、説明責任の点では、統幕3佐の暴言問題も同じ。暴言を吐いていない背広組の人が野党から直接叩かれ、当の本人が表に出なくて良いなんて、どう考えてもおかしい。

    いつまでも自衛官の「美味しいとこ取り」を許していてはいけない。

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