第57回 節税対策 そう甘くない(橘玲の世界は損得勘定)


すこし前の話だが、タワーマンションの上層階をかなりのお金を出して購入したひとに話を聞いたことがある。彼は子どもがまだ小学生なのに、相続のことを考えて決断したのだという。

私がぽかんとした顔をしていると、彼はそれがどれほど有利な節税法なのか懇切丁寧に教えてくれた。

湾岸などに建てられた超高層マンションは、眺望のいい上層階ほど価格が高い。それに対して低層階は人気がないため、価格は近隣の物件と比べても安めだ。ところが相続税の算定基準となる「評価額」は階層で差をつけず、マンション全体の評価額を各戸の所有者で均等に分割することになる。

「同じ広さで、2階が2000万円で50階が1億円だとするでしょう。でも相続税評価額は、1億2000万円を2等分した6000万円なんです。そうすると、子どもに1億円相当の不動産を相続させても、税金を40%も節約できるじゃないですか」

私は話をうまく理解できず、彼に訊いた。

「だったら2階を購入したひとは、2000万円相当の物件を6000万円で評価されることになるんですよね。なんでそんな取引をするんですか?」

こんどは彼がぽかんとした顔をする番だった。そして「バカだからじゃないですか」といった。

でもこれは、もうちょっと経済合理的に説明できる。2階の物件は相続税の割増分だけ値引きされていて、50階の物件は節税分が価格に上乗せされているのだ。

もっと不思議なのは、彼の年齢を考えれば相続が30~40年先の出来事だということだ。明日どうなるかすらわからないのに、なぜそんな遠い未来を心配するのだろう。日本人の平均寿命からすれば、相続は70歳過ぎてから考えればじゅうぶんなのだ。

案の定、総務省と国税庁が「タワマン節税」を封じる検討に入ったと報じられている。実際の物件価格に合わせ、階によって評価額を増減するよう計算方法を見直すのだという。

節税法の多くは、税法の本則ではなく通則や通達を根拠にしている。これらは税務当局の腹積もりでかんたんに変更されてしまうから、それが永続することを前提とした相続税対策はもともと矛盾しているのだ。

世紀の変わり目の頃に、海外生命保険を利用した節税法が富裕層に流行した。死亡保険金は相続財産として非課税枠の特例が認められているが、これが適用されるのは日本で免許を得ている保険会社の商品だけだ。海外生保の保険金は、税法の本則に戻って、一時所得として課税される。ふつうはこんなことをしても意味はないが、保険金が巨額になると、非課税枠を放棄しても税率の低い一時所得で課税された方が有利になるのだ。

当時、日系カナダ人の保険代理店から熱心にこの節税スキームを勧められたときも、私は同じ疑問を抱いた。そして案の定、海外の保険金も国内と同様に扱われることになって、この節税法はなんの意味もなくなってしまった。――海外生保に加入したひとがその後どうなったのかは知らない。

橘玲の世界は損得勘定 Vol.57:『日経ヴェリタス』2016年3月13日号掲載
禁・無断転載

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9件のコメント

  1. 海外FXで、クレジットカードショッピング枠で入金できる会社が多数あります。

    ということは、「海外通販を利用しクレジットカードで商品を買ったこと」と見せかけて、
    海外FX業者に送金可能です。

    海外FX業者からの出金を海外金融機関(例えばバンクオブハワイ)にし、
    日本ないし海外での生活資金をバンクオブハワイのデビットカードで行えば、
    簡単ですがマネーロンダリングが可能です。

    このスキームが面白いところは、クレジットカードのショッピング枠を利用する
    ことによってポイントがもらえるという点です。
    つまり、ポイント還元率1%(たとえば100円利用で1マイルもらえるカード)
    で年間1000万円動かしたとすれば10万マイルもらえるわけだから、
    これだけで欧米にビジネスクラスで渡航できますよ!!!

    実際にやるにはいくつかの金融機関を転々とさせてカネの流れが
    追跡できにくくすることが必要ですが。

  2. 会社やってると、保険会社が生命保険の返戻金を退職金にぶつける「節税商品」
    売りに来る。「社長が70歳で退職するとして、これだけ節税できます!」とかいうの・・・。

    税制の変更だけじゃなくて、今の時代いつ退職することになるのかなんて予測不可能なのに、
    あんなのいまだに買う奴いるんだろうか?

  3. 不動産業界では、「相続税対策」という言葉がセールストークとして利用されているのでしょう。都心湾岸部のタワーマンションなどは、4年後にオリンピックが終わればかなり値下がりするでしょうから、節税メリットより資産価値の下落リスクのほうが、はるかに大きいと思います。四半世紀前に起こったバブル崩壊、今回もまた起こりそうです。

  4. タワマンの同じ部屋が2000万円で買えて、売る時に6000万円で売れるのなら下層階でもその物件買いたいです。ただし、住んでいる分にはと物件評価や地価が固定資産税を圧迫します。
    確かに30年から40年後の不動産価値は分かりません。築30年過ぎても値崩れしない物件は限られています。

  5. 相場をやっていて、ビギナーズラックの後に、何度も何度も何度も何度も何度も・・
    往復ビンタを喰らって、もう放ったらかしだ!とソルトに漬けるとトドメを刺され、
    証券口座には見るも無残な残高しかない、そんな御仁にはお馴染みのハナシですね。

    トーシロの逆に動くのは、結局のところ大勢のトーシロには大勢のトーシロが好き
    そうな情報や情緒しか届かない(TV、新聞、雑誌、メルマガ、ウワサ等)から。その
    筋のプロ達は金儲けが仕事だから、大勢のトーシロが喜んでお金を払うようなネタ
    を全力で提供する。結果、トーシロは巨大な烏合の衆となり、投資のプロ達から網
    でゴッソリ引き上げられる。

    総合商社の今期決算は、ドレッシングしても散々みたいです。数年前にはシェール
    革命だ、レアアースだ、地球上から資源が無くなる、資源株を買え! まあ、これ
    もトーシロが望んだ物語を、プロの情報屋がそれらしく提供して、プロの投資筋が
    トーシロの動きを察知して、裏で張って待っていたような話です。

    トーシロのくせに、他人様を出し抜こうなんて考えると、テメエがハメられるの
    です。妄想を膨らませずに、大人しく数字だけを見て判断していればいいのです。
    不動産相場もプロが勝つに決まっている。勝とうとしたら、自分がプロ並になら
    ないといけない。どこの相場にも、フリーランチは用意されていない。

    私は極度の高所恐怖症なので、タワマンの高層階を買うなんて投機目的だったと
    してもヤですわ。「宵闇せまるミッドタウンと、星々を浮かび上がらせる夜空と
    ・・」なんてポエムコピー聞かされても、窓際によう近づかん。あの大恐慌の時
    には、摩天楼から多くの人が降ったと言われてるし、縁起でもない。

  6. 今から30年後、都心のタワマンの価格がどうなるか。
    二束三文になるとしか思えないんですけど。

  7. 人口が減り続けるのがわかっていて、災害リスクがかなり高い日本で、マンションや家を買うこと自体が相当なリスクですよね。さらに借金でもして買ってしまったら、恐ろしいことになると思っていますが、周りの友人は気にせず買っています。私の感覚がおかしいのかな?

  8. タワマン節税?は結構前から危ない投資といわれていました。まさか子供が小学生のうちに買うなんて… 開いた口が塞がらない。同じような商品で「低解約返戻金」を法人で契約しておいて、解約返礼率が跳ね上がる直前に、法人から個人に譲渡して、法人に意図的に損失をださせて、個人で一時所得で解約する。ほぼ非合法な資金移転のための保険商品をが
    3年前くらいから売られまくってましたけど、こちらも税務当局の目にかかりましたね。

  9. タワーマンション等とかっこよくいっても、所詮集合住宅です。

    マンションを2戸賃貸に回していましたが、築20年もすると床下の配水管から階下に漏水が発生したり(床下なので管理できないが、共用管接続までは専用管なので所有者に責任あり)、設備が老朽化してなかなか大変でした。

    他の戸室では隣の住民の生活音がうるさかったり、管理費を滞納したり、勝手にドアの色を塗り替えたりと管理規約を無視する人間が続出し、管理組合の理事長をしている時は大変でした。

    高層階では流産の発生率が高くなるそうですし、建て直しする事は事実上不可能ですからスラムに一直線で、節税以前に金をドブに捨てるようなものです。

    2戸とも売った後に居住者に聞くと、ある戸室では外壁から室内に雨水が漏れ出したそうですから住居は戸建に限ります。

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