子育てについての質問あれこれ

「子育て神話から自由になるために」をベースに、子育てについてのご質問に(わかる範囲で)おこたえします。

「お受験」について

▼サラマットさん

都会で公立学校を避けるための「お受験」については何も疑問を持ちませんが、よりハイレベルな学校に入学するための「お受験」は自分の勉強ができるというキャラクターをつぶしてしまうのではないでしょうか。

もちろん、ハイレベルな学校でも上位をキープできるのなら良いのでしょうが、ぎりぎりその学校に合格し下位に甘んじているのなら、いっそ中位レベルの学校の成績上位を維持したほうがいいのではないかということです。

「最難関の学校の当落線上の受験生のその後の進学先」を比較すれば一番データとしてはいいのでしょうが、ちょっとわからないので、是非先生のご意見を伺いたいです。

ご理解のとおり、私が私立学校を勧めるのは安全保障上の理由からです。

暴力装置のない公立中学は警察のない社会のようなものなので、治安が不安定になるのは教師の質や努力の問題ではなく、構造的な必然です。もちろん親はこのことに気づいているので、(とりわけ都市部では)エリート教育ではなく安全確保のために私立中学を受験せざるを得なくなる、というのが私の体験的な観察です(いまは中高一貫の公立校ができてすこしは事情がちがうのかもしれませんが)。

エリート校の「お受験」というのはそもそもやったことがないのでよくわかりませんが、ご指摘のように、一流校で挫折することもあれば、中位校で成功することもあるでしょう。ただ中学・高校ともなれば、子どもがどう生きるかは親にはどうすることもできません。

あえていうのなら、現代社会において、知的能力(言語運用能力や論理数学的能力)に秀でていることはきわめて大きなアドバンテージです。ご質問のような選択肢で悩むこと自体、とても幸運なことであることは間違いありません。そのことを子どもに伝えて、自分の進むべき道は自分で選ばせるようにすればよいのではないでしょうか。

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親の役割について

▼KTさん

プロ野球のイチロウ、ゴジラ松井の活躍は周知のことですが、彼らの父親が、「私はこうしてメジャーリーガーが育てた。」と著作本を書いたり、講演会を行なったりしてますが、それと同じことをしても、メジャーリーガーにはなれないことは解っています。ゴジラ松井の兄はごく普通の野球少年でしかなかったからです。

そこで、もし、チチロウのような熱心な親がいなくても、イチロウは現在のポジションにいたのかどうか? ということです。橘さんは、どうお考えですか? 小さな子供をもつ身なので、親の役割というものにすごく関心があるんです。よろしくお願いします。

この質問に正解はないと思いますが、あえていうならば、イチローには父親の指導は必要なかったけれど、父親の提供する野球環境は必要だった、ということではないでしょうか。

子どもは自分の得意なものに夢中になりますから、親がそれを援助してあげれば、才能は伸びていくでしょう。その反対に、遺伝的な能力がないものを伸ばすことはできませんし、嫌がる子どもに無理矢理押しつければ親子関係は破綻します。

つけ加えるならば、みんなが夢中になるものに夢中になるのは(ひとと同じことをして目立とうとするのは)、きわめて競争率が高く勝者はごくわずかしかいない「敗者のゲーム」です。子どもがひとと違うことに夢中になったとすれば、それがなんであれ、素晴らしいことだと思います。

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子育ての方針

▼ルーマーさん

現在私はサラリーマンで年齢は34歳です。5歳の娘と、3歳の息子と嫁と生活をしています。仕事の環境といえば、まさに伽藍の中です。現在、伽藍は捨てたいと、もがいている状況です。

私が、私なりに思っている教育方針は、子供達は、自分の意志で生まれてきた訳ではないので、子供達が好きなこと(人に迷惑をかける内容でなければ)があれば出来る限りバックアップすること。

その考えは強く持ち続けたいと思っています。

ただ、子供を見ている限り、ある程度、誘導ではないですが、日々過ごす中で、興味を持つような環境をこちらから提案しなければいけないのかどうなのかと自信がありません。

私に、お金が豊富にあれば、たくさんの環境の場を、子供達に試しにでも与えることができるのではないかと、自分の力のなさにも腹立たしく思うこともあります。

橘さんはお子さんをどうやってお育てになりましたか。

日本は教育コストがきわめて高いため、一定程度の経済的な余裕がなければ子どもに十分な教育が与えられないというのは、残念ながら事実です。しかしそれ以上のお金があっても、子どもの人生にはなんの関係もありません。

私の経験では、親が子どもに(ある程度の)影響力を行使できるのは中学受験までで、その後は、大学を卒業するまでの経済的な責任があるだけです(大学の学費は、アメリカのように奨学金を自分で返済させるようにしてもいいでしょう)。

思春期を過ぎれば、子どもは親とは関係なく、勝手に生きていきます(このことは、自分自身の経験からすぐにわかるでしょう)。幸福な時期は、(あとから振り返れば)一瞬で終わってしまいます。

思春期になれば子どもは家庭から離れていきますから、子どもを家庭の中心にすると、いずれうまくいかなくなります。無責任ないいかたを許していただければ、子どもの人生に過度の責任を負うのはやめて、自分の人生を楽しめばいい、というのが私からのアドバイスです。

私は、「子どもよりも親が大事」と、自分の子どもには伝えていました。

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つけ足しです。

自分の子どもが、子ども集団のなかで明らかに不利な役割(いじめの対象になる、とか)を押しつけられている場合、親は、転校によって強制的に子ども集団を取り替えることで、役割(キャラ)をリセットできます。ハリスの集団社会化論によれば、これがいじめを解決する唯一の方法です(子どもを叱咤激励してもなんの役にも立ちません)。

地方で子どもの自殺が相次ぐのは、中学・高校までずっと(子どもにとっては未来永劫)いじめから逃れられないと知るからでしょう。大都市では、私立学校に進学することで友だち関係をリセットできますから、それが希望になります。

あと、若いひとたちが子どもを持ちたがらない理由のひとつは、子育てにおける親の責任(愛情)が過度に強調されているために、「成功」へのプレッシャーが強い(「失敗」のリスクが大きい)ためでしょう。

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