みんなが求めているのは”品のいい”安倍政権? 週刊プレイボーイ連載(298) 

7月2日に行なわれた都議会選挙では、小池百合子東京都知事が率いる都民ファーストの会が大勝し、都知事を支持する公明党と合わせて過半数を確保しました(小池知事は選挙後に代表を辞任)。それに対して自民党は23議席の“歴史的大敗”で、「一強」といわれた安倍政権は大きな衝撃を受けました。

この選挙結果は、「国民は安倍政権を積極的に支持しているのではなく、ほかに選択肢がないだけだ」との説を強く裏づけました。森友学園や加計学園の疑惑に加え、稲田防衛大臣の失言や豊田議員の暴言という逆風下の選挙だったとはいえ、新しい選択肢が出てきたときに、有権者は自民党を見捨てることになんの躊躇もなかったのです。

ここでのポイントは、「都民ファーストは自民党とほとんど変わらない」ということでしょう。小池都知事は日本新党で政治家としてのキャリアをスタートしましたが、その後、自民党に入党し、小泉内閣で環境大臣として入閣、2005年の衆院選では「刺客」として郵政民営化に反対票を投じた自民党議員を落選させました。第一次安倍政権で防衛大臣を務めたあと、2008年年の自民党総裁選に立候補しています。この経歴からわかるように、そもそも自民党のまま都知事になったとしてもなんの不思議もないのです。

その一方で、自民党以上に“歴史的大敗”を喫したのが民進党(民主党)で、2009年には54議席で都議会の最大政党だったのに、13年に15議席、そして今回はわずか5議席に減り、公明党(23議席)はもちろん共産党(19議席)にも大きく引き離され、このままでは「泡沫政党」になってしまいそうです。

民進党は野党第一党として、国会で安倍政権の強権ぶりを強く批判してきました。三権分立は権力の暴走を防ぐ仕組みで、こうした活動は重要ですが、残念ながらその成果は国民にはまったく評価されていないようです。

すでに論じられているように、今回の都議会選挙は、マクロン新大統領が結党した共和国前進が308議席の地すべり的勝利を収めた6月のフランス総選挙にとてもよく似ています。ここでも、保守派(中道右派)の共和党が112議席で踏みとどまったのに対し、オランド前政権で与党だったリベラル(中道左派)の社会党は30議席の歴史的大敗を喫しました。

民進党は政権を失ったあと、「リベラルの再生」を目指して安倍自民党と対決し、共産党との選挙協力を模索してきました。しかし今回の都議選やフランス総選挙をみるかぎり、この戦略が有効かはきわめて疑問です。米大統領選では、リベラルを代表するヒラリーではなく、稀代のポピュリストであるトランプが選出されました。マクロン仏大統領はオランド政権の閣僚でしたが、その政策を見るかぎり現実主義の“グローバリスト”です。リベラルの掲げる理想が輝きを失い、たんなるきれいごととして忌避されるのは世界的な現象のようです。

成熟した先進国ではもはや政策の選択肢はほとんどなく、ひとびとは“ゆたかさ”という既得権を守りつつ、大過なく日々を過ごしたいと思っています。そんな日本人が求めているのは、安倍政権とそっくりでもうちょっと品のいい政治なのかもしれません。

『週刊プレイボーイ』2017年7月18日発売号 禁・無断転載

誰もがどこかで見たことがある暴言議員の“被害妄想ハラスメント” 週刊プレイボーイ連載(297) 

自民党の女性国会議員が10歳以上年上の政策秘書に浴びせた罵詈雑言が波紋を広げています。

大手広告代理店の新入社員の過労自殺を受けて、安倍政権は長時間労働など日本的な働き方の改革を掲げており、当の女性国会議員はその先頭に立つ厚生労働省の出身ですが、控えめにいってもこれはパワハラ以外のなにものでもありません。自民党の同僚議員は「あんな男の代議士はいっぱいいる」と述べましたが、これが事実であれば、民間企業にあれこれいう前に、政治家は自分たちがいかに「異常」であるかを認識すべきでしょう。

いったいなぜ、こんな常軌を逸したことが起きるのでしょうか。これが「一人のおかしな女がやったこと」ですませられないのは、同様の陰湿なハラスメントが日本社会のあちこちで起きているからです。

政治家秘書の仕事は自営業者の従業員と同じですが、特徴的なのは、次の選挙で落選すると雇用主である政治家は(おうおうにして)廃業し、秘書は問答無用で解雇されてしまうことです。非正規雇用の労働者でも契約期間が決まっていますが、選挙はいつあるかわからないのですから、これはより不安定な働き方です。当然のことながら、秘書はなんとかして生活を安定させたいと思うでしょう。

まっさきに思いつくのは、ほぼ確実に当選できる政治家の事務所に就職することです。大物政治家であれば20年や30年は政治活動をつづけますから、その間の収入が保証されると同時に、政治の世界のさまざまなしきたりを知悉することで転職も有利になります。しかしこれは、優良企業に運よく就職できたのと同じですから、なかなか空きのでない狭き門です。

それに対して新人議員の事務所には、政治の世界に興味がある若者などがやってきて、ベンチャー企業のような雰囲気になることがあります。そんな環境で自分も秘書も成長し、事務所から地方選挙や首長選挙の当選者を出すようになると、与野党を問わず政界で一目置かれるようになります。政治関係者はものすごく狭い世界に棲息しているので、評判はすぐに伝わるのです。

政治家の秘書にとって最悪なのは、次の選挙の当選もおぼつかず、無理難題をおしつけ威張り散らすだけの「先生」の下につくことです。政治家の側にも言い分があるでしょうが、こうした境遇は“災難”として秘書仲間に広がっていくので、スタッフがどんどん辞めていくと、次に入ってくるのはそれ以下の人材ばかり、という悪循環にはまりこんでしまいます。

国会議員は強大な国家権力にアクセスする特権をもっており、おまけに高学歴でプライドばかり高いと、自分に基本的な能力や人間力が欠落していることを認められません。自分がいっさい悪くないのなら、原因はすべて外部にあるはずです。こうしてとめどもなく被害妄想がふくらみ異様な言動を引き起こすのですが、じつはこれは政界だけでなく、日本の組織によくみられる光景です。

今回の出来事が世間の関心を集めたのは、エリートの“元お嬢さま”の裏の顔が暴かれたからでしょうが、それと同時に、似たような“被害妄想ハラスメント”を多くのひとがどこかで目にしたことがあるからではないでしょうか。

『週刊プレイボーイ』2017年7月10日発売号 禁・無断転載

日本人の女の子はモテるけど、男の子はモテない?  週刊プレイボーイ連載(296) 

ビッグデータはときに不都合な事実を突きつけることがあります。

アメリカの出会い系サイト「OKキューピッド」のサイトには年間1000万人が出会いを求めて集まってきて、1日3万組がはじめてのデートをし、3000組がつき合いを継続させ、200組が結婚します。そんな彼らが提供した膨大なデータを(プライバシーに配慮したうえで)解析すると、男と女のむずかしい関係が明らかになります。

女性にとって魅力的な男性の年齢は、20代のときは自分よりすこし年上で、30代からはすこし年下になりますが、50歳の女性の好みは46歳の男性でその差はわずかです。女性は、自分と同じような経験をしてきたパートナーを求めているのです。

それに対して男性にとっての魅力的な女性はというと、(予想はつくものの)結果はかなり衝撃的です。

20歳の男性は、20歳の女性とつき合いたいと思っています。そして30歳の男性も好みは20歳の女性、40歳の男性は21歳の女性、50歳の男性も求めているのは22歳の女性です。男性は、女性に「若さ」以外の価値はないと思っているかのようです。

もちろんこれはただの願望で、この世にハーレムがないことくらい男性にもわかっています。

そこで男性会員が実際にメッセージを送った女性の平均年齢を見ると、30歳の男性は25歳の女性に、40歳の男性は30歳の女性に、50歳の男性は40歳の女性にアプローチしています。実際に行動するときはすこし理性的になるようですが、それでも10歳若い女性でないと満足できないのです。魅力的な年齢が男女で大きく異なることが、出会いを難しくしています。

アメリカ社会の大きな困難である人種についてもデータは正直です。

男性がどの人種の女性を好むかを見ると、アジア系、ラテン系、白人の男性の多くは自分と同じ人種の女性とつき合いたいと思っています。特徴的なのは黒人男性で、アジア系やラテン系の女性よりも黒人女性を低く評価しているのです。

一方、女性がどの人種の男性を好むかを調べると、黒人の女性は黒人の男性とつき合いたいと思っています。この結果は、アメリカにおける黒人女性の苦境を示しています。彼女たちは黒人のカレシを探していますが、黒人の男性は別の人種の女性に興味を持っています。さらに人種別の魅力度では、アジア系、ラテン系、白人の男性にとって、黒人女性の魅力は平均を25%も下回っています。黒人の女性が満足のいくパートナーを見つけるのはものすごく大変なのです。

しかしこれは、日本人をはじめアジア系男性にとっても他人事ではありません。これも予想がつくでしょうが、アジア系の女性は、自分と同じ人種よりも白人男性とつき合いたいと思っているからです。

ビッグデータが明らかにしたのは、アジア系の女性はすべての人種から満遍なく好かれるものの、アジア系の男性は好感度が低く、黒人、ラテン系、白人の女性からは相手にされないというきびしい現実です。アメリカのような多民族社会では、日本人の女の子はモテるけれど、男の子はそうでもない、ということのようです。

参考:クリスチャン・ラダー『ハーバード数学科のデータサイエンティストが明かす ビッグデータの残酷な現実』

『週刊プレイボーイ』2017年7月3日発売号 禁・無断転載