『マンガ 投資のことはなにもわかりませんが、 素人でも株でお金持ちになる方法を教えてください』あとがき

出版社の許可を得て、本日発売の『マンガ 投資のことはなにもわかりませんが、 素人でも株でお金持ちになる方法を教えてください』の「あとがき」を掲載します。書店でこの2人を見かけたら、その成長を活躍をぜひ読んでみてください。

******************************************************************************************

最初に、本書のタイトルについて。

おわかりのようにこれは、経済評論家・山崎元さんのベストセラー『図解・最新 難しいことはわかりませんが、お金の増やし方を教えてください!』(文響社)を参考にしたものです。――いろいろ考えたものの、これを超えるパターンを思いつけませんでした。

このタイトルを快諾してくださった山崎元さんと、編集者で共著者でもある大橋弘祐さんにまずは感謝します(書店さんは、いっしょに並べてもらえるとうれしいです)。

次に、マンガ家の北野希織さんについて。

講談社の佐渡屋秀樹さんからこの企画を聞いたとき、私がこれまで資産運用について書いたものをほんとうにマンガにできるのか半信半疑だったのですが、北野さんは自ら株式投資を実践していて、PER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)はもちろん、最終的には使わなかったものの、第一稿にはファイナンス理論でノーベル経済学賞を受賞したウィリアム・シャープの「CAPM(キャップエム)=資本資産評価モデル」まで出てきてほんとうにびっくりしました。

トーリーに若干のアドバイスはしたものの、本書はすべて北野さんの素晴らしい仕事です。これからもどんどん面白い「ファイナンスマンガ」を描いてください(マンガ界はあなどれません)。

本文に入れられなかったものの、最後に大事なことをひとつだけ。それは、「お金の限界効用は逓減(ていげん)する」です。

暑い夏、喉がからからに渇いたときに飲む生ビールの最初のひと口はものすごく美味しいでしょうが、2口目、3口目になるにつれて美味しさは減っていって、大ジョッキをお代わりする頃には惰性で飲むようになります。このときのビールの美味しさが「効用(幸福度)」で、美味しさがだんだん減っていくのが「逓減」です。

ヒトの脳はいろいろな刺激に慣れるようにつくられていて、ビールと同じくお金も例外ではありません。10万円の給料が11万円に増えればものすごくうれしいでしょうが、月収100万円のひとが101万円になったとしてもなんとも思わないでしょう(というか、気づくこともないかもしれません)。

このように、お金の限界効用も逓減していきます。その水準はひとそれぞれでしょうが、日本のある大学の調査では、平均して年収800万円(夫婦と子どものいる家庭なら年収1500万円)を超えると効用(幸福度)は変わらなくなるとされています。

それは、これだけの年収があれば世間一般でいわれる「幸福」(ブランドものを買ったり、海外旅行に行ったり、あるいは子どもを私立に通わせたり、週末に夫婦で食事に行ったり)を実現できるからでしょう。さらに収入が増えれば海外旅行のホテルを3つ星から5つ星にしたり、食事を近所のお洒落なビストロからミシュランの星付きレストランにすることもできるでしょうが、だからといって幸福度はそれほど変わらないのです。

これは、「お金は大事だけれど、必要以上のお金はたいして意味がない」ということでもあります。

富を獲得することがゴールではありません。「経済的独立」を実現して自由な生き方を手に入れ、その「土台」のうえにどのような人生をつくっていくかは、あなた次第なのです。

2020年11月 橘 玲

日本の長い「戦後」はこうして終わった 週刊プレイボーイ連載(454)

明治維新以来の日本の近代史をひと言でまとめるなら、「西欧(白人)への卑下と自尊の繰り返し」でしょう。

明治の知識人たちは西欧の文化とテクノロジー、学問の水準に圧倒され、それが大衆に広がって「欧風」すなわち白人の真似をする流行が生まれました。日露戦争に勝ったあたりから徐々に自尊感情(日本スゴイ)が強まり、それに世界大恐慌後の被害者意識が加わって、軍部主導のカルト的熱狂でアメリカに宣戦布告しますが、その結果は軍人・民間人あわせて300万人の膨大な死者と広島・長崎への原爆投下、全国各地の焼け野原になった都市でした。

敗戦後、マッカーサー米陸軍最高司令官を訪問した昭和天皇の写真が公開されると、日本人の自尊心は粉々に砕け散ります。「神」であった昭和天皇が直立不動の姿勢で立つ横で、長身のマッカーサーは両手を後ろに回し、ゆったりとした表情でカメラを見ています。

どちらが「上位」かは一目瞭然で、それからGHQ宛に「拝啓、マッカーサー元帥様」という大量の手紙が届きはじめます。その内容は「日本をアメリカの属国にしてほしい」「村の紛争を解決してほしい」から、「あなたの子どもを産みたい」という若い女性のものまでさまざまでした。誰もがアメリカを賛美し、返す刀で日本と日本人を全否定し、マッカーサーの威光によってなんらかの望みをかなえようとしたのです。

主権を回復し高度経済成長が始まると、こうした極端な卑下は下火になりますが、それに代わって1960年代の日本人はハリウッド映画やロックンロールに夢中になり、ホームドラマで描かれたゆたかさに強烈な憧れをもつようになります。アメリカはまさに「夢の国」でした。

80年代のバブル絶頂期は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」などとおだてられ、「“坂の上の雲”はもうなくなった(日本は西欧を超えた)」という勘違いが一瞬だけありましたが、バブル崩壊と「失われた30年」でそれも消え失せました。その間、中国・韓国をはじめアジアの国々が急速にキャッチアップしたことで「日本はアジアで一番」という自尊感情まで揺らぎはじめ、「嫌韓」「反中」がネットや書店に溢れる見苦しい事態も起きました。

ところが新型コロナを機に、欧米社会の混乱が目立つようになってきました。感染抑制に失敗したヨーロッパ諸国は再度のロックダウンに追い込まれ、パリやニース、ウィーンで相次いでテロが起きています。1000万人の感染者と20万人を超える死者を出したアメリカでも大統領選前から各州で感染が拡大していますが、トランプが敗北を認めないままでは効果的な感染抑制策は難しそうです。

それに対して、いち早く感染症を抑え込んだ中国では、ひとびとは日常生活を取り戻し、経済成長率も回復しました。こうした状況を見たいまの子どもたちは、「アメリカは銃を振り回すひとたちがいる怖い国、ヨーロッパは教師が首を切り落とされる異常な国」で、中国を“デジタル先進国”と思うようになるかもしれません。

いずれにせよ、“アメリカ(西欧)の影”に覆われてきた日本の長い「戦後」はこれでようやく終わるのではないでしょうか。

参考:袖井林二郎『拝啓マッカーサー元帥様―占領下の日本人の手紙』

『週刊プレイボーイ』2020年11月23日発売号 禁・無断転載

経済的独立を達成し、 嫌な仕事はさっさとやめよう!

出版社の許可を得て、11月30日発売の新刊『マンガ 投資のことはなにもわかりませんが、 素人でも株でお金持ちになる方法を教えてください』の「はじめに 経済的独立を達成し、 嫌な仕事はさっさとやめよう!」を掲載します。書店でこの2人を見かけたら、その成長を活躍をぜひ読んでみてください。

******************************************************************************************

FIRE(ファイアー)はFinancial Independence and Retire Early(経済的独立を達成し、アーリーリタイアする)の略で、2000年前後に成人したミレニアル世代や、それにつづくZ世代など、アメリカの若者たちのあいだでいま大きなムーブメントになっています。新型コロナ禍で経済的な不安が高まったこともあり、日本でも注目が集まりました。

FIREを目指す若者たちは、徹底したミニマリストの暮らしをし、パートナーと共働きで収入の2~3割、あるいはそれ以上を貯蓄や投資に回して、効率的に富(金融資本)を蓄積しようとしています。ひと足先にFIREを達成したひとがブログでノウハウを提供し、SNSでお互いに励まし合ってもいるようです。

「経済的独立」というのは、1990年代にアメリカで唱えられた「自由」についての新しい考え方です。自由はそれまでずっとこころの問題だとされてきましたが、じつはもっと大切なことがあります。それは経済、すなわちお金です。

あなたは自由について高邁(こうまい)な理念をもっているかもしれませんが、生活費を得ている組織の上司から意に添わない(場合によっては道徳や法に反する)仕事を命じられたとき、それを敢然(かんぜん)と拒否できるでしょうか。ここで躊躇(ちゅうちょ)するとしたら、「クビになったら生きていけない」と不安に駆られるからでしょう。あなたの(高邁な)自由は、お金によって拘束されているのです。

人生を自由に生きるためには経済的な土台がなくてはならない。――この身も蓋もない真実を突きつけたところに、「経済的独立」の衝撃がありました。それが20年以上の時を経て、いまの若者たちに再発見されたのです。

アーリーリタイアメント(早期退職)も同じく、90年代にブームになりました。アメリカでは退職してから夫婦で旅行を楽しむのが理想とされていましたが、70歳や80歳を過ぎてからだと行けるところもかぎられてくるし、パートナーが病気になったり、死別しているかもしれません。だったら50代、できれば40代で引退して好きなことだけして暮らすというのはたしかに魅力的です。

ところがこうしてアーリーリタイアした人の多く(ウォール街のトレーダーなど)は、数年後にまた仕事に戻ってきました。なぜなら、毎日が退屈すぎて張り合いがないから。

ヒトは社会的な動物なので、他者からの承認(感謝や称賛)を得たときにいちばん幸福を感じます。おしゃれな店でのデートや豪華な結婚式で「いいね!」をもらう“リア充”もいるでしょうが、現代社会でもっとも大きな承認を得られるのは仕事での達成感です。

アーリーリタイアを目指すのは、いまの仕事が「好き」ではないからでしょう。しかしひとたび「経済的独立」を達成すれば、上司のパワハラやセクハラに耐えて会社にしがみつき、嫌いな仕事を歯を食いしばって続ける必要などありません。「好きを仕事に」して、そこでたくさんの評判を獲得できるなら、アーリーリタイアの必要などないのです。

金融市場や株式投資について学ぶのは、お金持ちになってゴージャスな暮らしをするためだけではありません(もちろんそれを否定はしませんが)。会社(給料)にも、家庭(配偶者)にも、国家(年金)にも依存せずに生きていけるだけの富を獲得するほんとうの目的は、「自由」を手に入れることなのです。

「人生100年」の時代には、「好きな仕事をずっと続け、自分らしく生きる」ことが理想のライフスタイルになっていくでしょう。だとすればFIREとは、「経済的独立を達成し、嫌な仕事はさっさとやめよう!」という運動です。

あなたもそのための第一歩を、ここから踏み出してください。