日本の長い「戦後」はこうして終わった 週刊プレイボーイ連載(454)

明治維新以来の日本の近代史をひと言でまとめるなら、「西欧(白人)への卑下と自尊の繰り返し」でしょう。

明治の知識人たちは西欧の文化とテクノロジー、学問の水準に圧倒され、それが大衆に広がって「欧風」すなわち白人の真似をする流行が生まれました。日露戦争に勝ったあたりから徐々に自尊感情(日本スゴイ)が強まり、それに世界大恐慌後の被害者意識が加わって、軍部主導のカルト的熱狂でアメリカに宣戦布告しますが、その結果は軍人・民間人あわせて300万人の膨大な死者と広島・長崎への原爆投下、全国各地の焼け野原になった都市でした。

敗戦後、マッカーサー米陸軍最高司令官を訪問した昭和天皇の写真が公開されると、日本人の自尊心は粉々に砕け散ります。「神」であった昭和天皇が直立不動の姿勢で立つ横で、長身のマッカーサーは両手を後ろに回し、ゆったりとした表情でカメラを見ています。

どちらが「上位」かは一目瞭然で、それからGHQ宛に「拝啓、マッカーサー元帥様」という大量の手紙が届きはじめます。その内容は「日本をアメリカの属国にしてほしい」「村の紛争を解決してほしい」から、「あなたの子どもを産みたい」という若い女性のものまでさまざまでした。誰もがアメリカを賛美し、返す刀で日本と日本人を全否定し、マッカーサーの威光によってなんらかの望みをかなえようとしたのです。

主権を回復し高度経済成長が始まると、こうした極端な卑下は下火になりますが、それに代わって1960年代の日本人はハリウッド映画やロックンロールに夢中になり、ホームドラマで描かれたゆたかさに強烈な憧れをもつようになります。アメリカはまさに「夢の国」でした。

80年代のバブル絶頂期は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」などとおだてられ、「“坂の上の雲”はもうなくなった(日本は西欧を超えた)」という勘違いが一瞬だけありましたが、バブル崩壊と「失われた30年」でそれも消え失せました。その間、中国・韓国をはじめアジアの国々が急速にキャッチアップしたことで「日本はアジアで一番」という自尊感情まで揺らぎはじめ、「嫌韓」「反中」がネットや書店に溢れる見苦しい事態も起きました。

ところが新型コロナを機に、欧米社会の混乱が目立つようになってきました。感染抑制に失敗したヨーロッパ諸国は再度のロックダウンに追い込まれ、パリやニース、ウィーンで相次いでテロが起きています。1000万人の感染者と20万人を超える死者を出したアメリカでも大統領選前から各州で感染が拡大していますが、トランプが敗北を認めないままでは効果的な感染抑制策は難しそうです。

それに対して、いち早く感染症を抑え込んだ中国では、ひとびとは日常生活を取り戻し、経済成長率も回復しました。こうした状況を見たいまの子どもたちは、「アメリカは銃を振り回すひとたちがいる怖い国、ヨーロッパは教師が首を切り落とされる異常な国」で、中国を“デジタル先進国”と思うようになるかもしれません。

いずれにせよ、“アメリカ(西欧)の影”に覆われてきた日本の長い「戦後」はこれでようやく終わるのではないでしょうか。

参考:袖井林二郎『拝啓マッカーサー元帥様―占領下の日本人の手紙』

『週刊プレイボーイ』2020年11月23日発売号 禁・無断転載

経済的独立を達成し、 嫌な仕事はさっさとやめよう!

出版社の許可を得て、11月30日発売の新刊『マンガ 投資のことはなにもわかりませんが、 素人でも株でお金持ちになる方法を教えてください』の「はじめに 経済的独立を達成し、 嫌な仕事はさっさとやめよう!」を掲載します。書店でこの2人を見かけたら、その成長を活躍をぜひ読んでみてください。

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FIRE(ファイアー)はFinancial Independence and Retire Early(経済的独立を達成し、アーリーリタイアする)の略で、2000年前後に成人したミレニアル世代や、それにつづくZ世代など、アメリカの若者たちのあいだでいま大きなムーブメントになっています。新型コロナ禍で経済的な不安が高まったこともあり、日本でも注目が集まりました。

FIREを目指す若者たちは、徹底したミニマリストの暮らしをし、パートナーと共働きで収入の2~3割、あるいはそれ以上を貯蓄や投資に回して、効率的に富(金融資本)を蓄積しようとしています。ひと足先にFIREを達成したひとがブログでノウハウを提供し、SNSでお互いに励まし合ってもいるようです。

「経済的独立」というのは、1990年代にアメリカで唱えられた「自由」についての新しい考え方です。自由はそれまでずっとこころの問題だとされてきましたが、じつはもっと大切なことがあります。それは経済、すなわちお金です。

あなたは自由について高邁(こうまい)な理念をもっているかもしれませんが、生活費を得ている組織の上司から意に添わない(場合によっては道徳や法に反する)仕事を命じられたとき、それを敢然(かんぜん)と拒否できるでしょうか。ここで躊躇(ちゅうちょ)するとしたら、「クビになったら生きていけない」と不安に駆られるからでしょう。あなたの(高邁な)自由は、お金によって拘束されているのです。

人生を自由に生きるためには経済的な土台がなくてはならない。――この身も蓋もない真実を突きつけたところに、「経済的独立」の衝撃がありました。それが20年以上の時を経て、いまの若者たちに再発見されたのです。

アーリーリタイアメント(早期退職)も同じく、90年代にブームになりました。アメリカでは退職してから夫婦で旅行を楽しむのが理想とされていましたが、70歳や80歳を過ぎてからだと行けるところもかぎられてくるし、パートナーが病気になったり、死別しているかもしれません。だったら50代、できれば40代で引退して好きなことだけして暮らすというのはたしかに魅力的です。

ところがこうしてアーリーリタイアした人の多く(ウォール街のトレーダーなど)は、数年後にまた仕事に戻ってきました。なぜなら、毎日が退屈すぎて張り合いがないから。

ヒトは社会的な動物なので、他者からの承認(感謝や称賛)を得たときにいちばん幸福を感じます。おしゃれな店でのデートや豪華な結婚式で「いいね!」をもらう“リア充”もいるでしょうが、現代社会でもっとも大きな承認を得られるのは仕事での達成感です。

アーリーリタイアを目指すのは、いまの仕事が「好き」ではないからでしょう。しかしひとたび「経済的独立」を達成すれば、上司のパワハラやセクハラに耐えて会社にしがみつき、嫌いな仕事を歯を食いしばって続ける必要などありません。「好きを仕事に」して、そこでたくさんの評判を獲得できるなら、アーリーリタイアの必要などないのです。

金融市場や株式投資について学ぶのは、お金持ちになってゴージャスな暮らしをするためだけではありません(もちろんそれを否定はしませんが)。会社(給料)にも、家庭(配偶者)にも、国家(年金)にも依存せずに生きていけるだけの富を獲得するほんとうの目的は、「自由」を手に入れることなのです。

「人生100年」の時代には、「好きな仕事をずっと続け、自分らしく生きる」ことが理想のライフスタイルになっていくでしょう。だとすればFIREとは、「経済的独立を達成し、嫌な仕事はさっさとやめよう!」という運動です。

あなたもそのための第一歩を、ここから踏み出してください。

『マンガ 投資のことはなにもわかりませんが、 素人でも株でお金持ちになる方法を教えてください』発売のお知らせ

講談社より『マンガ 投資のことはなにもわかりませんが、 素人でも株でお金持ちになる方法を教えてください』が発売されます。発売日は11月30日(月)ですが、大手書店などにはこの週末には並ぶと思います。

Amazonでは予約が始まりました。電子版も同時発売です。

ロングセラーとなった『臆病者のための株入門』など、これまで資産運用について書いてきたことを 北野希織さんがマンガにしてくれました。

広告代理店音羽アドに勤める鈴木なつみ(24)と山田翔太(26)が、たまたま窮地を救ってもらった親会社音羽エージェンシーの立花玲子(年齢不詳)から、株式投資と人生設計の基本を教えられる話です。原作者もびっくりの、楽しくわかりやすく 、かつしっかりした内容になっています。

書店でこの2人を見かけたら、その成長を活躍をぜひ読んでみてください。

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ベストセラー作家・橘玲氏がこれから株をはじめる人に伝えたい投資の基本

投資初心者のバイブルと呼ばれている『臆病者のための株入門』『臆病者のための億万長者入門』の著者が、素人でも明日から実践できる株の買い方を教えてくれる。

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※本書のタイトルは、経済評論家・山崎元さんの『図解・最新 難しいことはわかりませんが、お金の増やし方を教えてください!』(文響社)を参考にしたものです。―いろいろ考えたものの、これを超えるパターンを思いつけませんでした。このタイトルを快諾してくださった山崎元さんと、編集者で共著者でもある大橋弘祐さんに感謝します(書店さんは、いっしょに並べてもらえるとうれしいです)。