『モテるために必要なことはすべてダーウィンが教えてくれた』発売のお知らせ

人気作家タッカー・マックスと新進気鋭の進化心理学者ジェフリー・ミラーの共著“Mate; Become the Man Women Want”の日本版『モテるために必要なことはすべてダーウィンが教えてくれた 進化心理学が教える最強の恋愛戦略』がSBクリエイティブから発売されます。

発売日は21日(土)ですが、大手書店などの店頭には明日並びはじめると思います。Amazonでは予約が始まりました。電子書籍も同日配信です。

本書では、人間のつがい行動(Mating)を徹底的に生物学的に分析したうえで、“生き物”としての女性はどういう男性に魅かれるように進化してきたのかを論じています。

これだけなら「女の脳をリバースエンジニアリングすればいい」という“モテ本”のようですが、本書は俗流進化論を振りかざすPUA(ピックアップ・アーティスト=ナンパ師)の手法を批判するために書かれており、「リベラルな社会では、女が求める男になるという、倫理的・道徳的なモテ戦略以外に有効な方法はない」として、そのための具体的な方法が詳述されています。

若い男性だけでなく、男の子をもつ親や教育関係者にも広く読んでほしい本です。もちろん30代以上の男性でも役に立つし、「10代でこれを知っていたら人生は変わっただろう」と思うことでしょう。

原著はそのまま翻訳すると600ページを超える分厚さですが、翻訳者さんにいったん全訳してもらったうえで、日本の事情に合わないアドバイスなどを割愛して、300ページ強に再編集しています。手前味噌ですが、やたらと長い原著より、日本版の方がすっきりした仕上がりになっていると思います。

フランス大統領選が教えてくれた「選択肢はネオリベかポピュリズム」 週刊プレイボーイ連載(520)

ユーロ危機の頃ですから10年以上前になりますが、メキシコでアステカ帝国時代の遺跡を訪ねる外国人向けのツアーに参加しました。参加者の国籍はまちまちですが、たまたまランチで同じテーブルになったのが若いカップルで、女性はイタリア人、男性はスロベニア人で、ともにロンドンの金融機関で働いているという話でした。

その頃は毎日のように、ギリシアをはじめとする南欧諸国の金融危機が報じられていました。そこで彼女に、「故郷のイタリアはけっこう大変なことになってるんじゃないの?」と訊いたら、ちょっと困ったような顔をして、「そういうことにはぜんぜん関心がないの。だから、どうなってるかなんてわからないわ」といわれ、びっくりしたことがあります。

EU域内の移動・就労が自由化されたことで、高等教育を受けた若者たちは、国境を越えて高い給与を払ってくれる場所(大都市)で働くようになりました。このエリート層は「エニウェア(どこでも)族(Anywheres)」と呼ばれています。

海外で高給の仕事をするためには、専門知識のほかに、すくなくとも英語を話せなくてはなりません。もちろん誰もがこの条件を満たせるはずはなく、生まれ育った場所で仕事を探し、生きていくほかないひとたちもたくさんいます。こちらは「サムウェア(どこか)族(Somewheres)」です。

フランス大統領選の決選投票では、「エニウェア族(上級国民)」を代表するネオリベ(新自由主義)のエマニュエル・マクロンが都市部で圧倒的な支持を得て、得票率59%で再選を決めましたが、「サムウェア族(下級国民)」を代表する国民連合のマリーヌ・ルペンも地方の労働者層を中心に41%の票を獲得しました。第1回投票で3位になった左翼政党「不服従のフランス」のジャン=リュック・メランションは、燃料価格高騰(税率引き上げ)に抗議して始まった「黄色いベスト(ジレジョーヌ)」デモの参加者が支持基盤ですが、これも車がなくては生活できない地方のひとたちの大衆運動でした。

それに対して、歴代大統領を輩出した共和党の候補ヴァレリー・ペクレスは移民排斥を唱える極右のエリック・ゼムールにも及ばず(得票率4.78%の5位)、社会党の大統領候補アンヌ・イダルゴに至っては得票率1.75%と「泡沫候補」並みの惨敗(12候補中10位)でした。フランス社会は改革を求めるエリート層(マクロン)と、それに抵抗する右派ポピュリズム(ルペン)、左派ポピュリズム(メランション)の三極に分断し、中道右派・中道左派政党は崩壊してしまったのです。

マクロンが弱冠39歳で大統領になったことからわかるように、フランスは中国の科挙をモデルにした徹底したエリート主義の社会で、グランゼコールと呼ばれる高等教育機関の卒業生は行政でも企業でもいきなり幹部として採用されます。このような極端な学歴社会では、必然的に「上級国民」と「下級国民」の分断が進むでしょう。

テクノロジーの急速な発展を背景に、知識社会はますます高度化しています。フランスは、この潮流がどこに行きつくのかの貴重な「社会実験」をしてくれているのかもしれません。

『週刊プレイボーイ』2022年5月2日発売号 禁・無断転載

成人は18歳ではなく25歳にした方がいい? 週刊プレイボーイ連載(519)

4月から成人年齢が18歳に引き下げられ、高校生でも父母の同意なく、「携帯電話を契約する、一人暮らしの部屋を借りる、クレジットカードをつくる、高額な商品を購入したときにローンを組む」(政府広報)ことが可能になりました。結婚ができる年齢も男女一律で18歳となり、これまで16歳だった女性の婚姻年齢が引き上げられました。こちらも父母の同意は必要ありません。

とはいえ、飲酒や喫煙はこれまでどおり20歳からで、成人としての完全な権利が認められるわけではありません。だとしたら「成人」とはいえないのではないか、との疑問は当然ですが、18歳から大人としての自覚をもたせるようにするのが国際社会の流れなので、日本もそれに合わせたということでしょう。

ただ、大人としての権利を与えることと、大人として振る舞えることは別の問題です。早くも、「18歳、19歳がアダルトビデオ(AV)出演を強要されるのではないか」との不安の声があがり、政府や与党のプロジェクトチームが緊急対策をとりまとめる事態になりました。

AV業界は健全化に取り組んでおり、今後も10代の女優を出演させない方針は維持されますが、団体に加盟していない業者が成人扱いになる10代の女性と契約した場合、それが強制されたものでないかぎり、取り消すことはできないというのが法律家の解釈です。

思春期になると、女の子は自分が大きな「エロス資本(エロティック・キャピタル)」をもっていることに気づきます。援助交際やパパ活など、その「資本」を簡単にマネタイズする方法はいくらでもあります。高校生の娘の裸がネットにアップされているのを見て、親が仰天することがないとはいえません。

同様に、思春期の男の子はリスクを好むようになります。高校生がローンを組んで車やバイクを購入したり、一攫千金を狙ってネットワークビジネスに手を出したりすることもありうるでしょう。

思春期とは、男にとっても女にとっても「パートナー獲得競争」に放り込まれる時期です。この熾烈な競争に勝ち残るには、男は友だち集団のなかで目立たなくてはならず、一発勝負で大きく当てる「ハイリスク・ハイリターン」を狙います。それに対して女は、自分のエロスを最大化して、そんな「勝ち組」の男から選ばれることが最適戦略になるのです。

近年の脳科学は、大脳辺縁系など情動を司る部位が先に発達し、前頭葉など制御系は遅れて完成することを突き止めました。進化のプログラムは、まずは冒険的になってパートナーを獲得し、子どもを産み育てる頃に落ち着くよう脳を設計したのです。

脳の発達は従来の常識よりずっと長く続き、制御系の成長が止まるのは25~35歳だということもわかりました。この知見を取り入れるなら、成人年齢は引き下げるのではなく、逆に引き上げなくてはなりません。

脳科学者のなかには実際、このような主張をするひともいますが、それが受け入れられることはないでしょう。ということで、今後さまざまな場面で混乱が起きることは避けられそうもありません。

『週刊プレイボーイ』2022年4月25日発売号 禁・無断転載