第113回 日本への送金に見る金融行政(橘玲の世界は損得勘定)

何年も放置していた海外の証券会社の法人口座をようやく閉じることにした。残高は1万ドルほどで、送金額は日本円で150万円強。ポジションはないので、出金手続きはものすごく簡単だった。

出金先に指定できるのは同じ名義の銀行口座のみで、コルレス(中継銀行)は自動的に指定される。法人口座のある日本のネット銀行の口座番号を入力してクリックすれば終わりだ。

その後の経過はリアルタイムで表示され、その日のうちに送金元のコルレス(外資系銀行の東京支店)の円口座に送られた。翌日に受取側のコルレス(都銀)に着金、銀行の確認待ちになっていると表示された。

翌日、ネット銀行から「外貨送金お受取りに伴うお手続きのお願い」というメールが送られてきたので、所定のフォームで、証券口座の解約にともなう送金であることを伝えた。

するとその翌日、「必要書類提出のお願い」というメールが来て、資金の性質を確認できる書類をスキャンして提出せよという。そこで海外証券の直近のステイトメントと、残高全額を出金したことを示す画面のプリントアウトを指定のメールアドレスに送った。

ここまではそんなものかと思ったが、それからなんの連絡もなく、なかなか口座に入金されない。しかたがないので問合せフォームから質問すると、「外貨送金受取サービスでの口座へのご入金手続きは受付日時等にもよりますが、通常であれば、資料等の確認後、3~5営業日までに順次行わせていただいております」という返事が来て、その日の夕方に入金された。証券会社に出金指示を出してから入金まで6営業日、祝日があったので9日かかった。

私が疑問なのは、「海外から日本への送金になぜこんなに時間がかかるのか」だ。それも第三者からの送金ではなく、同一名義の法人口座から150万円送っただけなのに。

「資料の確認」というが、送金元が証券会社なのだから、その口座にある資金に決まっている。それをわざわざ「資料」で確認するのもどうかと思うが、それは百歩譲ったとして、入金まで1週間以上もかかるのはおかしいのではないか。資金繰りのために必要なお金なら、その間に倒産してしまうだろう。

とはいえ私は、このことで銀行を非難しようとは思わない。マネーロンダリング対策で定められた手順に則って処理した結果、このようなことになっているのだろうから。

だが、日本社会に特有の「重箱の隅をつつく」式のこのやり方はほんとうに有効なのだろうか。きびしい規制というわりには、特殊詐欺の犯人は、国内で稼いだ資金をせっせと海外に送っているではないか。

岸田政権は「資産立国」を目指すとして、外資系の資産運用会社の誘致に動いているようだが、資金を受け取るまでに1週間以上もかかるような国が相手にされるのか。

ビットコインなら10分強で送金が完了するのに、日本の金融行政はいつの時代で止まったままなのだろうか。

橘玲の世界は損得勘定 Vol.113『日経ヴェリタス』2023年12月24日号掲載
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