女優の不倫ばかりがなぜ大きく報じられるのか? 週刊プレイボーイ連載(568)

有名女優と有名シェフのダブル不倫が世間を騒がせています。手書きのラブレターが公開されたり、女優の夫が「謝罪会見」を行なうなどさまざまな話題を提供していますが、こうした報道の洪水に違和感を覚えるひともいるでしょう。

リベラリズムの原則は「他者に危害を加えないかぎり、個人の自由な行動は最大限認められるべきだ」です。不倫は家族に傷を負わせるかもしれませんが、その「危害」が第三者に及ぶわけではありません。誰を好きになるかは私的な問題で、そこで生じた紛争は当事者間で解決すればいい話です。

欧米を中心に同性婚が広まっているのは、誰と誰が結婚しようが第三者に直接の危害が加えられるわけではないからです。そこで保守派は、この原則を拡張して、「日本の社会(国体)が壊されてしまう」という“間接的な危害”を訴えることになります。

だとすれば有名人の不倫も、純潔を否定し社会の風紀を乱すから批判されるのでしょうか。そうともいえないのは、与党の大物政治家の不倫が報じられても、「ああ、またか」という感じで、さしたる話題にもならないからです。ここには、男の不倫は「甲斐性」と見なされても、女の不倫は許されないという顕著な不均衡があります。

芸能人である以上、私的なことを(一定程度)報じられるのは仕方ないでしょうし、広告スポンサーが商品イメージに反する行為をしたタレントとの契約を打ち切るのも当然でしょう。しかしそれでも、私的なことで映画やテレビドラマを上映・放映中止にするのは明らかに行き過ぎです。

ではなぜ、このような「どうでもいいこと」でメディアは大騒ぎするのか。その理由は、ジャニーズ事務所の創設者が多数の少年に性加害を行なっていたという、日本の芸能界を揺るがす事件と比べればわかります。

メディアがジャニーズ関連の報道に及び腰なのは、多くの人気タレントを擁する芸能事務所の「圧力」を恐れているというのもあるでしょうが、これが業界用語でいう「面倒」な案件になっているからです。

報道によれば、性加害の実態解明や被害者支援を求めて署名活動を行なう一部のジャニーズファンに対し、SNSでは、「ファンだとうそをついて、ジャニーズを陥れようとしてる」「二次加害をして被害者を増やそうとしている」などの誹謗中傷が相次いでいるといいます。

ファンかどうかに客観的な基準があるわけではない以上、自分とは主義主張の異なる活動を「ファン」の名の下に行なうことを不快に思うファンもいるでしょう。それに加えて、こうした反発の背後には、「ジャニーズの事件を利用して“社会正義”の活動を行なっているのではないか」という疑心暗鬼もありそうです。

このような複雑なケースでは、メディアはどのような報道をしても、批判や抗議を避けられません。だとしたら、「そんなのはほかに任せておけばいい」というのは合理的な判断です。

それに比べて女優のダブル不倫は、確実に視聴率やアクセス数に貢献し、抗議を受ける心配もありません。何を大きく報道するかは、善悪や正義ではなく、こうした単純な力学によって決まるのでしょう。

参考:「ファンらの署名活動に誹謗中傷 ジャニー氏性加害問題」朝日新聞2023年6月20日

『週刊プレイボーイ』2023年7月3日発売号 禁・無断転載