アドルフ・ヒトラーは1945年4月30日、ソ連軍が迫るなか、ベルリンの総統地下壕で妻のエヴァ・ブラウンとともに、頭部を拳銃で撃ち抜いて自殺しました。2人の遺体は遺言により、側近たちが庭に運び、ガソリンをかけて焼却されました。
その数日後、米軍の将校が、ヒトラーが自殺したとされるソファについていた血痕の部分を切り取り、戦利品として持ち帰りました。この布の断片は2014年にオークションに出され、1万6000ドルでアメリカの歴史博物館が購入しました。
2025年、博物館から血痕のDNAを提供されたイギリスの研究チームが、ヒトラーの親族のDNAと比較した結果、間違いなくヒトラー本人の血液であることが確認されたとして、その解析結果を発表しました。
これはイギリスのテレビでドキュメンタリー番組として放映され、大きな反響を呼びました。このDNA解析で、ヒトラーについての俗説の真偽が明らかになったからです。
ヒトラーはユダヤ人絶滅政策を遂行しましたが、じつはヒトラーにもユダヤ人の血が混じっているのではないかといわれてきました(手塚治虫の『アドルフに告ぐ』はこれがテーマです)。その根拠はヒトラーの父が私生児で、祖父の身元が謎だったからですが、Y染色体を調べた結果、ヒトラーにはユダヤ系の祖父がいなかったことがわかりました。
もうひとつの噂は、ヒトラーが男性器に障害をもっていたというものです。第1次世界大戦中、前線で戦った戦友たちから、生殖器の小ささを理由にからかわれたり、いじめられたりしたという噂はイギリスにも伝わり、兵士たちのあいだで「金玉が1つしかない」とヒトラーを嘲笑する替え歌が大流行しました。
DNA解析では、ヒトラーには「カルマン症候群」を引き起こす遺伝的な変異があったことがわかりました。これは男子の場合、ペニスの形状がきわめて小さくなる症状が生じることがあるとされます。
じつは2015年に、ヒトラーがクーデター未遂で投獄された際の医療記録が発見され、そこには右側停留精巣(精巣が陰嚢に降りてこない状態)が記載されていました。今回のDNA解析結果は、こうした資料とも整合的です。――ここまでは前振りで、本題は以下です。
これは現代史においてきわめて重要かつ興味深い事実なので、この研究結果が報じられたとき、その概要をSNSに投稿しました。
驚いたのは、この投稿に対して、「誰かを傷つけるようなことはしないほうがいい」という反応があったことです。いうまでもなく、この「誰か」とはヒトラーです。
このとき思ったのは、最近の日本社会では、他者のコンプレックスを指摘することはものすごく嫌われるということです。たとえそれが、6000万人のユダヤ人を死に追いやった人物だとしても。
「傷つくこと」や「傷つけること」をこれほど怖れているのなら、ささいなことで「傷つけられた」と感じ、SNSで炎上騒ぎが起きるのも当然です。とはいえ、こういう風潮に抗ってもしかたないので、波風立てないようにやっていくしかないのでしょうが。
参考:「ヒトラーのDNA解析で驚くべき発見、英研究チームの発表がドキュメンタリーに」CNN2025年11月14日
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