統計の初歩の初歩から間違っている「一流新聞」の陰謀論思考(週刊プレイボーイ連載687)

「リベラル」を自称する新聞の社会面に「「継父は危うい」という空気 苦しい」という記事が掲載されました。

京都府南丹市で男児の死体が遺棄されていた事件で、容疑者として養父が逮捕されてから、SNSに「子どもを虐待するリスクは、実父に比べて10倍~100倍」などの投稿が相次いでいるという内容です。

記事はここから、養父や継父による虐待のリスクが高いという根拠は乏しいとして、2つのデータを示します。

ひとつは警察庁のまとめで、2025年の虐待事件の被害者2647人のうち、加害者が実父だったのは45.3%、養父・継父は16.6%でした。

もうひとつはこども家庭庁の調査で、子どもが07年~23年に心中以外の虐待で死亡した事案の加害者は実父母が67.1%なのに対し、養親・継父は2.7%でした。

これだけ見ると、たしかに養親よりも、実父母による虐待のほうがはるかに多いように思えます。

さて、この理屈のどこがおかしいかわかるでしょうか。

1000人からなる集団Aで10件の虐待が起き、10人からなる集団Bで1件の虐待が起きたとしましょう。これを比較すると、1件より10件のほうが10倍も多いのですから、集団Aの虐待リスクのほうがずっと大きい……などとは、中学生はもちろん、ちょっと賢い小学生でも答えないでしょう。

母集団をそろえると、集団Bでは1000人あたり100件の虐待が起きています。虐待の割合は集団Aが1%、集団Bが10%といっても同じです。母集団の小さな集団Bのほうが、実数は少なくても、虐待リスクが10倍大きいのです。

「異なる大きさの母集団は標準化してから比較しなければならない」というのは、統計学の初歩の初歩です。日本では養親の割合を示す正確なデータはないようですが、実父母の家庭のほうが圧倒的に多いのは明らかでしょう。ところが驚くべきことに、この「一流紙」の記事では、実数だけを比較して虐待リスクを論じているのです。

なぜこんなことになるかというと、「養父・継父を虐待の“リスク要因”と見なすべきではない」という結論が先にあって、それを正当化する理屈を探しているからでしょう。イデオロギーに合わせて現実を歪めるのは、一般に「陰謀論思考」といいます。

「実子と継子で虐待の頻度が異なるのか」は、1970年代から北米を中心に調査が行なわれており、「実父に比べて10倍~100倍」はこのデータに基づいています。

ただし、1984年にカナダで行なわれた大規模な調査では、たしかに実子よりも継子のリスクが高いものの、血のつながらない2歳以下の子どもを殺した継父は1万人あたり6人、4歳以下の子どもを虐待した継父も100人あたり1人強で、ほとんどは暴力とは無縁の家庭を営んでいました。

こうした正しいデータ(ファクト)に基づいて継父・養父に対する偏見を正すのが新聞などメディアの役割だと思っていましたが、そんな期待をもつことすら高望みなのかもしれません。

参考:「「継父は危うい」という空気 苦しい」朝日新聞2026年5月24日
マーティン・デイリー、マーゴ・ウィルソン『人が人を殺すとき 進化でその謎をとく』長谷川真理子訳/ ‎ 新思索社

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