教員のなり手が減っているのに少人数学級が実現できる? 週刊プレイボーイ連載(551)

2021年3月に、公立小学校の1クラスあたりの生徒数を35人以下に引き下げる改正義務教育標準法が成立しました。これによって、22~25年度に教職員定数を毎年3000人超ずつ増やし、計1万3500人程度の増員が予定されています。

少人数学級の方が、先生は一人ひとりの生徒に目が行き届き、学力の向上や、いじめ・不登校の改善が期待できます。よいことばかりに思えますが、じつは大きな問題が隠されています。教員のなり手がどんどん減っているのです。

公立小学校教員の23年度採用試験の受験者は、全国で3万8641人と前年より約2000人も減りました。合格者数が採用見込み数を下回ったのは12の教育委員会で、そのうち大分県では、採用見込み数200人に対して受験者数198人と「定員割れ」を起こしました。教員の質確保のため、159人しか合格させられなかったといいます。

教員の志願者が減れば、当然、採用倍率は下がります。公立小学校の採用倍率は10年前は4.4倍でしたが、いまでは過去最低の2.5倍になっています。35人学級実施のために採用人数が年々増えていけば、いずれ大学で教員免許さえ取得すれば誰でも公立小学校の教師になれる時代がやってきそうです。

公立学校では日常的に教員の欠員が生じていて、山梨市では教委が「病気や出産で休暇に入る教員の代替の確保が非常に厳しい」という内容の文書を小中11校の保護者に配り、教員免許保持者の紹介を頼んで話題になりました。別の地域の校長は、「臨時採用の候補者名簿を見て200人近く電話したが『企業に就職が決まった』などと断られた」と話したそうです。

教委もこの事態に手をこまねいているわけではありません。山梨県では、小学校教員採用試験の受験者のうち20人程度を対象に、日本学生支援機構から借りた奨学金のうち卒業前2年分を上限に返済資金を補助する「肩代わり」を始めました。それ以外でも、「大学訪問を通じて志望者を掘り起こす」(秋田県)「受験年齢制限の撤廃や東京会場での試験の実施」(福島県)「教員の魅力を発信する説明会を高校生も対象に実施」(三重県)など、涙ぐましい努力をしています。

少子高齢化と人口減で日本経済は慢性的な人手不足となり、いまや若者は希少価値で、民間との人材獲得競争はますます厳しくなっています。残業代ゼロで長時間労働し、部活で土日もなく、授業だけでなくモンスターペアレントの対応までしなければならないのでは、どれほど高い志があっても二の足を踏むでしょう。

教員の質が下がると保護者の不満や苦情が増え、学級運営はさらに難しくなります。教員の不祥事が増えると、メディアやSNSではげしくバッシングされます。これでは教員志望者はますます減り、富裕層は子ども私立に入れるので、経済格差は拡大するばかりでしょう。

少人数学級の実現を目指した理想主義の教育関係者は、自分たちの子ども時代と同様に、志の高い若者がいくらでも教師になってくれると思っていたのでしょう。いつものように、「地獄への道は善意によって敷き詰められている」のです。

参考:日本経済新聞2023年1月16日「教育岩盤 迫る学校崩壊 先生の質 保てない」「「授業のプロ」確保へ腐心」
朝日新聞2023年1月20日「教員試験 定員割れも」

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