中国のコロナ対策の失敗は大きすぎる成功の代償 週刊プレイボーイ連載(521)

中国では、新型コロナウイルス(オミクロン型)の感染拡大で3月末に始まった上海のロックダウン(都市封鎖)が、1カ月を超えても解除の目途が立たず、住民の不満が高まっています(その後、6月中の全面解除の方針が示されました)。北京でも連日感染者が確認され、市民がスーパーの食料品を買い占めるなど緊張が高まっているようです。

それに対してヨーロッパでは、イギリスや北欧、ベネルクス三国などを先頭に、コロナ規制の大半が解除されています。レストランに入る時にワクチン接種証明やPCRの陰性証明を提出する必要もなく、公共の場でのマスク着用義務もなくなり、大規模イベントの制限も撤廃されました。サッカースタジアムでは満員の観客が大声援をあげていて、手拍子のみの日本と比べても別世界です。

ここで確認しておく必要があるのは、だからといって「コロナ対策で欧米が成功し、中国が失敗した」とは単純にいえないことです。

コロナによる累計死者(5月5日時点)は、アメリカが99万人、イギリスが17万5000人、日本が2万9700人に対し、中国は5100人です。人口10万にあたりで見ると、英米が260~300人に対し、中国はわずか0.37人です(日本は23.6人)。「中国のデータは信用できない」というかもしれませんが、それでも人口あたりで中国の死者数がアメリカの800分の1という大きな差が覆ることはないでしょう。

ほとんどのひとが、「政治にとって、国民の生命を守ることほど大切なものはない」という主張に同意するでしょう。だとしたら、経済活動をさほど犠牲にせずに死者数をきわめて低い水準に抑え込んだ中国は、圧倒的に成功しています。逆にいえば、欧米諸国は感染拡大を(結果的に)許したことで、高齢者や持病のあるひとなどの大量の犠牲のうえに「集団免疫」を達成したともいえるのです。

中国にとっての問題は、欧米や日本で接種されているメッセンジャーRNAを使ったワクチンに比べ、中国製ワクチンの有効性が低いことです。医療体制も整備されているとはいえないため、弱毒化したオミクロン株でも、ひとたび感染が拡大すると大きな被害と社会の混乱を招く恐れがあります。

中国と同様に強い規制で感染を抑制してきたオーストラリアやニュージーランドは、段階的に規制解除へとシフトしました。欧米と同じワクチンを使っていて、感染が拡大してもその影響を予測できるからですが、14億の人口を抱える中国は同じことができません。

もうひとつの問題は、あまりに成功しすぎると、これまでやってきたことを続けるしかなくなることです。前例を変えて失敗すると、「改革」を主導した者がすべての責任を負うことになってしまいます。習近平は今年秋の党大会で3期目を目指すようですが、だとしたらなおのことリスクは取れないでしょう。

とはいえこれは、「だから独裁はダメなんだ」という話でもありません。日本もまた、戦後の高度経済成長という大きすぎる成功体験のあとで、既存の社会・経済制度をほとんど変えられず、いまも「失われた30年」の低迷にあえいでいるわけですから。

『週刊プレイボーイ』2022年5月16日発売号 禁・無断転載