厚労省が失態を繰り返すのは「素人」だから 週刊プレイボーイ連載(369)

雇用保険や労災保険の算出にも使われる「毎月勤労統計」の不適切調査で、厚生労働省がふたたび大きく揺れています。ただし報道を見るかぎりでは、事件の本質は半年ほど前に起きた裁量労働制についての調査データの不正とまったく同じです。

なぜこんな失態を何度も繰り返すのでしょうか? その理由はきわめて単純です。素人がやっているから。

日本の会社の際立った特徴はスペシャリスト(専門家)をつくらないことで、「ゼネラリストを養成する」という建前のもと、数年単位でまったく異なる部署に異動させていきます。

総務部から営業部への異動や、経理部から地方支店への転勤など、日本の会社で当たり前のように行なわれている人事を聞くと、海外のビジネスパーソンは腰が抜けるほど驚きます。世界標準の働き方では、学歴・資格で仕事の内容が(おおよそ)決まり、専門外の分野に移ることはないからです。

世界でも特異な日本的雇用慣行は役所も同じで、上司や部下が専門とはまったく関係のない部署から異動してくることは日常茶飯事です。――私の知人は、芸術文化振興の部署から自治体病院の事務局長に異動しました。厚労省の統計部門の詳細はわかりませんが、大学や大学院で統計学の専門教育を受けたスタッフはほとんどいなかったのではないでしょうか。

今回の不祥事は、統計の基礎すら知らない素人が集まっていると考えるとすっきり理解できます。

不正のきっかけは2004年に東京都から「全数調査が大変だから抽出に変更したい」と相談されたからのようですが、法律に違反するにもかかわらずあっさり認めてしまったのは、全数調査と抽出調査のちがいが理解できなかったからでしょう。

その後、一部の職員が不適切な調査に気づき、全数調査の結果に近づける補正を行なうのですが、こんなことを気軽にやるのは、統計を自分たちの都合で勝手にいじっていいと思っていたからです。

不正が明らかになっても過去の経緯が不明なのは、組織的に隠蔽しているというより、担当者が何人も代わって誰がなにをしたのかわからなくなっているのでしょう。

過去の統計資料を廃棄していたことも明るみに出ましたが、これも悪気があるのではなく、「どうでもいい」と思った担当者が独断で捨てていたと考えるのが自然です。

野党はこれから「統計不正」を追求するようですが、その際は、2004年以降、統計を担当した者の専門性(法学部の学士などがたくさんいるのでは)を調べてはどうでしょう。厚労省職員は相次ぐ不始末の原因に「多忙」をあげるようですが、なぜ長時間労働になるかというと、能力を超えたことをやらされているからです。

ではどうすればいいのか。問題の本質が専門性の欠如なのですから、解決策はかんたんです。

まず、統計を扱う部門をすべての省庁から切り離し、イギリスの国家統計局のような議会直属の独立機関に統合して、職員は統計の専門家を外部から採用します。そのうえでデータを公開し、世界じゅうの専門家が利用・検証できるようにすれば、今回のようなくだらない出来事は根絶できるでしょう。

ただし、このような改革を進めるとほとんどの官僚は仕事がなくなってしまいそうですが。

参考:「働き方国会」が紛糾する”恥ずかしい”理由 

『週刊プレイボーイ』2019年1月28日発売号 禁・無断転載