「愛国心の祭典」EUROはちょっとうらやましい 週刊プレイボーイ連載(252)


ヨーロッパのサッカーの祭典EURO2016はポルトガルが地元フランスを下して幕を閉じました。EUROはまた、互いの「愛国心」を競うお祭りでもあります。

今大会で注目を集めたのは、初出場でグループリーグを突破したばかりか、決勝トーナメントでも強豪イングランドを下して8強に進んだアイスランドです。人口33万人と、国というより田舎の小都市といった規模ですが、それだけに「俺たちのチーム」に対する誇りと愛情はとてつもなく、スタジアムには人口の1割に相当する3万人が押し寄せ、熱くて陽気でクリーンな応援が世界じゅうから賞賛されました(イングランド戦の実況の瞬間最高視聴率が99.8%に達したことも話題になりました)。

それに比べて評判を落としたのはイングランドとロシアで、マルセイユでの試合後に両チームのフーリガンが暴動を起こして機動隊が出動する騒ぎになり、ロシアサッカー協会は大会からの追放を警告される羽目になりました。これでまた「ロシア人は民度が低い」という“偏見”が助長されることになるでしょう。

今回のEUROはフランス開催ということで、パリ、マルセイユ、ボルドーの3会場で決勝トーナメントを観戦しました。印象に残っているのはボルドーのドイツ×イタリア戦で、1対1のまま互いに譲らずPK戦で決着する好試合になりました。

ボルドーの会場は市内からトラムで30分ほどのところにあり、試合開始が近づくと、町で大量のビールを飲んだサポーターたちが続々と乗り込んできます。じつは今回の大会は、フーリガン騒動によって会場内での飲酒が禁止され、サポーターは会場入りする前にじゅうぶんに酔っ払っておこうと必死になったのです。

白のドイツのユニフォームを着たサポーターたちは、トラムに乗り込むや壁や天井を叩き、足を踏み鳴らして応援歌を歌い始めます。私の前には年配の夫婦が座っていて、奥さんは車内の馬鹿騒ぎを完全無視でずっと窓の外を見ています。でも夫はどこかもじもじしていて、やがてスマホを取り出すとサポーターの写真を撮り、次は彼らといっしょに自撮りし、ドイツ国歌が始まるととうとうガマンできなくなって、サポーターたちといっしょに大声で歌いはじめました。どうやら彼もドイツ人で、奥さんの手前、最初はおとなしくしていたようなのです。

面白かったのは、同じトラムに乗っていた数少ないイタリアのサポーターが自分たちの応援歌を歌いはじめたときです。それを聞くとドイツ人は喜んで手を叩き、ちゃんと最後まで終わるのを待って、より大きな声で自分たちの応援歌を歌いだすのです。

そのやりとりを見ていて、EUROのサポーターの約束事がなんとなくわかりました。自分たちの「愛国心」を楽しむためには、ライバルの「愛国心」を尊重しなければなりません。そうやってどちらの愛国心=チーム愛がイケてるかを競いあうのが祝祭のルールなのです。――フーリガンは愛国心を楽しむことができないからバカにされるのです。

この約束事さえ守っていれば、国旗をまとって愛国心を誇示し、街なかで大騒ぎしても嫌がられるどころか、大歓迎されます。それを見ながら、同じことが日本でできるようになるのはいつになるか考え、ちょっとうらやましくなりました。

『週刊プレイボーイ』2016年7月25日発売号
禁・無断転載

PK戦後、サポーターと勝利を喜ぶドイツチーム
PK戦後、サポーターと勝利を喜ぶドイツチーム
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4件のコメント

  1. サッカーのEUROって単に日本の高校野球みたいなもんでしょ。
    以前にも書きましたが、地元愛は良くても純血主義は良くないというのは
    自家撞着ですよ、

    >これが強さの秘密ならば、日本の敗退の理由は“純血”にあるのかもしれません。

    「国技」である相撲の上位をモンゴル人が占めている現在、安易に外の血を入れる
    と競技自体の魅力が薄れてしまう可能性があります。

     高校野球の魅力は、「地元の高校」が甲子園で活躍する様が、ある程度占めていることは
    否めないと思いますが、現実には高校の段階で有力選手をどれだけ引っ張ってこれるか
    にかかっています。
    たとえば、田中将大もダルビッシュ有も大阪出身ですが、それぞれ高校は北海道と
    宮城の学校です。その後プロ野球から大リーグへ進んでいますね。

    サッカーでも高校の段階から国内外から有力選手を引っ張ってきたらそれなりに
    活躍するかもしれませんが、「おらが地元」的な魅力はどんどん薄れてしまいます。
    プロ野球もJリーグも地元チームを応援する意義ってなんでしょうか?

    パトリオティズムの意義についてもっと深い考察をお願いしますね。

  2. >そのやりとりを見ていて、EUROのサポーターの約束事がなんとなくわかりました。自分たちの「愛国心」を楽しむためには、ライバルの「愛国心」を尊重しなければなりません。そうやってどちらの愛国心=チーム愛がイケてるかを競いあうのが祝祭のルールなのです。

    あまりにも脳天気なことを書いていると、読者から見放されますよ。

    戦前のナチス・ドイツで行われたホロコーストへの反省から、現在ドイツでは移民の受け入れに
    比較的寛容ですが、逆にそういう歴史があったからこそ、無理やり受け入れているという現実もあるのです。

    オリンピックも含めた国際スポーツというのは、形を変えた国威発揚、すなわち国家間戦争の
    シミュレーションゲームに過ぎないのです。
    それに先鞭をつけたのがヒトラーであったことは論を待たないのです。
    さらに、少し前の東西冷戦の時代には、当時の東側陣営の国がメダルの常連でしたね。

  3. ネタ記事(笑)?
    暴れるロシアサポーターを見て「ロシア人は民度が低い」と思うことが“偏見”ならば、サポーターの様子を見て「EUROのサポーターの約束事がなんとなくわかった」というのも偏見だ(笑)
    何の根拠もない。少なくともその人達はそうだったのかもしれないというだけだ。
    個を見て全体を判断しようなどと愚かだ。
    You cannot see the wood for the trees.

  4. >オリンピックも含めた国際スポーツというのは、形を変えた国威発揚、すなわち国家間戦争の
    >シミュレーションゲームに過ぎないのです。

    リバタリアンの橘さんにお伺いしたいのは、この様な事例に対してどうお考えでしょうか?

    川崎ファンが旭日旗掲げる=ACLサッカー
    時事通信 4/25(火) 23:57配信

     【水原(韓国)時事】25日に韓国の水原で行われたアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)の水原―川崎戦で、川崎サポーターが応援席に旭日(きょくじつ)旗を掲げて没収される騒ぎがあった。川崎の広報担当によると、両クラブが2人を事情聴取した。

     試合後には水原サポーターが川崎応援席の出口をふさいだため、川崎サポーターは当局の誘導で別の出口から帰った。負傷者はいないという。

     試合は川崎が1―0で勝利した。 

    国際スポーツが「国家間戦争のシミュレーションゲーム」
    であるからこそ、

    日本軍の象徴である「旭日旗」を掲げる

    のであって、

    お互いを尊重しあうような、

    単なる「愛国心の祭典」

    なら、このような事件はおこらないはずですよね。

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