「賢い」ひとが失敗するのには理由がある 週刊プレイボーイ連載(248)


舛添東京都知事が辞任を表明し、5年間に4回も都知事選が行なわれる異例の事態になりました。この件についてはすでにいい尽された感がありますが、国際政治学者出身にもかかわらず、自身の権力の源泉がどこにあるか無頓着だったことが失敗の原因でしょう。

無所属の候補に与野党が相乗りする昨今の知事選では、与党が知事を無条件で支持し、不祥事から守ることはなくなりました。それなのになぜ舛添氏が大統領のように振る舞えたかというと、次回の選挙でも勝つという強い見込みが共有されていたからです。さらに4年、知事の座にあると思えば、都議会議員も対立を避けようとするし、都庁の職員も黙って指示に従うでしょう。しかし有権者の信頼は蜃気楼のようなものなので、ちょっとしたきっかけで失われてしまいます。

東京都知事がファーストクラスを使い、一流ホテルのスイートルームに宿泊したとしても、批判はされても辞任するほどのことではないでしょう。週末の別荘通いにしても、謝罪してあらためればいいだけの話です。致命的だったのは、マンガ『クレヨンしんちゃん』を資料代、絹の中国服を書道のためと強弁し、家族旅行のホテル代約37万円まで政治資金で支払っていたことでしょう。金額の問題ではなく、そのセコさが知事にはとうていふさわしくないと見なされたのです。

その後の追及で、舛添氏が私的な経費をすべて政治団体に回しているのではないかとの強い疑いを持たれることになりました。一つひとつはささいなことでも、その原資は税金なのですから、これでは民心を維持できるわけがありません。「次の選挙は勝てない」とわかった瞬間に、すべての権力を失うことになったのです。

それにしても不思議なのは、きわめて賢いはずの人物が、なぜこんなかんたんなことに気づかなかったのかです。説明に窮した経費は、美術品のオークションを含めても数百万円でしょう。都知事の地位とこれまでの実績を賭けるにしては、あまりにわずかな金額です。

近年の進化論では、意識(理性)の役割は真と偽を見分けることではなく、「自己欺瞞」だとされるようになりました。もっとも上手にウソをつく方法は、自分が真っ先にそのウソを信じ込むことです。同様に、真に迫った訴えは、本人がそれを言い訳と思っていません。

しかし「真心からのウソ」という戦略は、ふつうはそれほどうまくいきません。周囲の人間に見破られて、たちまち批判されてしまうからです。そこで次善の策として、多くのひとが「批判されたらとりあえず謝る」のです。

ところがきわめて賢いひとは、その高い知能を駆使して、いくらでも「合理的」な言い訳を思いつくことができます。さらに意識の自己欺瞞が、それを「ウソ」とは気づかせません。彼らはこれまで、ずっとそのやり方で成功してきたのです。

こうして周囲がみんな欺瞞だと気づいているのに、「真心」から無様な言い訳をえんえんとつづけることになってしまいます。その結果、自爆したのだと考えれば、今回の出来事がよく理解できるのではないでしょうか。

『週刊プレイボーイ』2016年6月27日発売号
禁・無断転載

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12件のコメント

  1. >ところがきわめて賢いひとは、その高い知能を駆使して、いくらでも「合理的」な言い訳を思いつくことができます。さらに意識の自己欺瞞が、それを「ウソ」とは気づかせません。彼らはこれまで、ずっとそのやり方で成功してきたのです。

    舛添氏のようにきわめて賢い人が、なぜ東京大学助教授(将来的には東大教授という
    アカデミズムでは最上位のポスト)を投げて、マスコミデビューしたかというと、

    お金もさることながら、

    結局、自己顕示欲=「出たがり・注目を浴びたい」

    という魔力にとりつかれたからだと思いますけど。

    リオデジャネイロオリンピック終了までは都知事の座に執着したのも、
    リオから東京にバトンタッチする場面で世界中で衛星中継されるわけで、
    これが要因ではなかったのでしょうか?

    雁屋哲の最高傑作である『野望の王国』では、
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%8E%E6%9C%9B%E3%81%AE%E7%8E%8B%E5%9B%BD
    日本最大の黒幕・小田が柿崎に
    この点の

    「注目を浴びたい」

    でコロッと騙される話があります。

    結局、自己顕示欲というのも、
    人間の抑えがたい欲望のひとつなのです。

  2. ヒ*キタ*シさんとかウエス*タ*シさんが自己欺瞞嘘つき、ショーン*が普通の嘘つきってこと…?

  3. 確かにマスゾエさんが「賢い」のが、原因のひとつだとは思います。が、それなら
    マスゾエさんよりもっと「賢い」人も多くいる訳で、彼等も「賢い」ワナに嵌った
    かというと、そんなムゴイ話は数多く聞いたことはありません。

    マスゾエ元妻さんが、「あの人はホント、セコイのよ!」と言い捨てていました
    が、私も「賢い」より「セコイ」方がこの騒動の原因として強力だと思います。

    百万を越える月報酬があるのに、明らかに日用雑貨みたいなものの数千円をケチっ
    て政治活動費に混ぜるような事は、セコイというかみみっちいというか。いい年の
    オヤジやオバンが、後列の迷惑かえりみずレジで1円単位まで割り勘しているよう
    な情けなさです。

    マスゾエさんは必死に「賢い」頭脳で小銭分を仕分けし、「賢い」ヒラメキでその
    使途理由を捏造し、政治資金を使って裏ではチャリンチャリンと自分自身の小銭を
    セーブし続けていたわけです。病的に「セコイ」という偏執症でもない限り、一般
    の人には出来ないと思います。だって、そこまでして小銭貯めるのメンドーだもん。

    そしてどうやら、その一流の「セコイ」性格はフツーである、と思っていたフシが
    あります。何故なら、バレてもモンダイにならない、と心底思っていたようです。
    「賢い」頭脳が法に抵触しないと判断したのはもちろん、「セコイ」守銭奴的性格
    は世間一般でも当然自分と同じくらいあるハズ、だから都民に理解されると思って
    いたようなのです。

    で今回マスゾエさんが、自分が超「セコイ」性格だと理解した時にはもう遅かった。
    「ああ、元妻よ、君は正しかったのだ、ゴメンよ」と思ったかどうかは知らないが、
    都民というか国民の多くに「こんなセコイ指導者は、小銭をエサにされたら何をす
    るかワカランぞ」「あきれたねぇ」「このシミッタレ野郎!」と本性を見破られた。

    古来「セコイ」者は大成しないとされてきた。それは又もや証明された。「賢い」
    ことは、それだけなら悪いことではない。

  4. >古来「セコイ」者は大成しないとされてきた。それは又もや証明された。「賢い」
    ことは、それだけなら悪いことではない。

    これを言ってしまうと、橘さんの言うところの、

    貧乏はお金持ち──「雇われない生き方」で格差社会を逆転する (講談社+α文庫) by 橘 玲 https://www.amazon.co.jp/dp/406281417X/ref=cm_sw_r_tw_dp_iA.ExbXE0CVWM

    は「セコい」ことの極地なわけで、

    また
    「ならどうしたら良いの?」
    ということになってしまいますけど。

  5. 私に対して書かれているみたいなので、返答しないのも失礼と思い書きます。

    尖沙咀さん、私も自他ともに認めるところの粘着コテですので、ココで二人が
    「アアダコウダ」と言うのは粘着テープ同士がくっつくことを意味します。他
    の橘さんファンにとっては正直鬱陶しいでしょうし、橘さんのブログであること
    から、橘さん当人も「キミら、乗っ取る気かい?」「ココは私の大事なマーケ
    ティングの場でもあるんだよ」と、心の奥底でお怒りになるかも知れません。

    で、申し訳ないですが今まで通り、独立粘着コテでのコメント書としましょう。
    私は貴方のように博学でないので論理の「やり取り」も苦手だし、アタマも悪い
    のですぐ論破されてしまい、お話しにならないかと思います。

  6. >尖沙咀さん、私も自他ともに認めるところの粘着コテですので、ココで二人が
    「アアダコウダ」と言うのは粘着テープ同士がくっつくことを意味します。

    この前、車のダッシュボードに安物DVDプレーヤーを粘着テープで
    http://www.mmm.co.jp/diy/tape/various_way/
    取り付けたのですけど、暑くなるとすぐに外れてしまいました。
    「粘着性」ってとても大事ですよ。

    >他の橘さんファンにとっては正直鬱陶しいでしょうし、橘さんのブログであること
    から、橘さん当人も「キミら、乗っ取る気かい?」「ココは私の大事なマーケ
    ティングの場でもあるんだよ」と、心の奥底でお怒りになるかも知れません。

    昔から、「火事とケンカは江戸の華」と言いまして、粘着同士のケンカで
    やじ馬が集まってくるのを期待してこのコメント欄を開放しているのです。
    根っからの商売人である私や橘さんであるならば、そういうヤカラにこそ、自分の
    本や言説を売りつけるテキ屋であるべきなのです。

    “さあ、葵見物のお客さん、これはね、お年寄りには何よりのお土産ですよ、どう、ほら、おじいちゃんの壊れちゃったメガネ。ね、それからおばあちゃんの茶碗、何だって、ピッタリとくっつく万能の接着剤だ、ねっどう、ほら…”

    >私は貴方のように博学でないので論理の「やり取り」も苦手だし、アタマも悪い
    のですぐ論破されてしまい、お話しにならないかと思います。

    アタマの良いマスゾエ氏ですら失敗するのです。
    いわんや私においてをや。

  7. せこくていいんだよ。
    公僕の分際でセコく税金ガメてる奴がつまみ出されるのは当たり前の話。

  8. 舛添で、私がいやだったのは、何億円も使って海外旅行をして、なんの結果もださず、
    開き直ったこと。この段階でもうだめ。こんなことは黙認できない。
    黙認したらこれからもこんなことをやりつづけるということだから。
    それ以降のせこい話は、おまけみたいなもの。
    舛添が頭がよくて失敗したとしたら、政治資金規正法がザル法で、違法ではないと
    知っていてなにが悪いと開き直ったところ。
    議員たちは、政治資金規正法の強化、改正といういやな話になる前に舛添を
    切ってうやむやに終わらせた。

  9. >舛添で、私がいやだったのは、何億円も使って海外旅行をして、なんの結果もださず、
    開き直ったこと。この段階でもうだめ。こんなことは黙認できない。

    ただ単にファーストクラスで大名旅行するだけだったら、
    そこいらの芸能人や野球選手でもやっているでしょ。

    前にも例を挙げた『野望の王国』で、
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%8E%E6%9C%9B%E3%81%AE%E7%8E%8B%E5%9B%BD

    自分たちが意のままに操れる浜岡を総理に据えることに成功した橘征五郎は、

    「なんという快感だ!」

    と感慨に耽っています。舛添氏も権力の魔の魅力に耽溺したのです。

    「権力を自由に振り回せる甘い蜜」について
    「野望の王国」ほど詳細に描写した作品はありません。ぜひご一読を!!!

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