コンプガチャが許されるのは国家だけ 週刊プレイボーイ連載(56)

ソーシャルゲームのコンプリートガチャ(コンプガチャ)が、消費者庁から景品表示法違反に該当すると指摘され、ゲーム会社は大きな打撃を受けました。

“ガチャ”は一種の宝くじで、ゲーム内のアイテムを確率的にしか入手できない仕組みです。“コンプ”というのは、稀少なアイテムを含むすべてを揃えるとさらに価値が上がることをいいます。「誰も持っていない宝物を手に入れたい」「なにからなにまで全部集めたい」というのはヒトの根源的な欲望ですから、“ガチャ”と“コンプ”の組み合わせはものすごく強力です。それを子ども相手の商売に使うことには、やはり一定のルールが必要でしょう。

コンプガチャで問題になったのは射幸心です。請求額が100万円を超えるケースがあったように、ギャンブル中毒は依存症の一種で、いったんツボにはまると自らの意思で抑制するのは不可能なのです(製紙会社の御曹司の例で明らかでしょう)。

ところで、コンプガチャが社会問題化しはじめた今年3月、国会で宝くじ法が改正され、これまで宝くじ額面の最大100万倍だった最高賞金の上限が250万倍に引き上げられました。300円の宝くじなら、これまでの1等賞金3億円が、これからは7億5000万円になるのです。

日本の宝くじは経費率が5割超ときわめて高く、売上げの半分が胴元の儲けになります。宝くじ法が改正されたのは、この売上げが2005年をピークに減少しはじめたからでした。自分たちの取り分が少なくなることを怖れた関係者が政治家を動かし、射幸心を煽ることで挽回しようと考えたのです。

宝くじ発行側は、今回の法改正で「前年比12%増の売上げが見込める」と皮算用しています。売上げ増が1200億円とすると、そこから670億円が自分たちの懐に転がり込んできます。宝くじは巨大ビジネスなのです。

ところが宝くじの売上げが伸びると、toto(サッカーくじ)の収益が影響を受けてしまいます。宝くじ市場は全体のパイがほぼ決まっていて、今後、大きく伸びるとは考えられません。そこで「スポーツ振興」を目指す議員たちは、totoの最高賞金を現在の6億円から引き上げる法改正を目指しています。宝くじが「1等賞金7億5000万円」を宣伝するなら、自分たちは「10億円」を目指そうというわけです。

当然のことながら、賞金の最高額を増やせば当せん確率は下がりますから、ほぼすべての参加者は生涯宝くじを買いつづけても大損するだけです。しかし人生において数億円ものお金を手に入れる機会は(ふつうは)ありませんから、それだけでも賭けに参加する魅力があるとひとは考えます。この「錯覚」が射幸心で、最高額を大きくすればするほど冷静な判断ができなくなってしまいます。

もちろん自由な社会では、どんなことにお金を使おうとそのひとの勝手です。しかしこれは、「公正な競争」が前提となります。

宝くじやtotoは、国家が独占的に行なう“ガチャ”です。ゲーム会社はこれをより洗練された“コンプガチャ”として消費者に提供したことで処罰されることになりました。

日本のおいては、射幸心を煽ってボロ儲けを許されるのは国家だけなのです。

後記:この記事は、日本経済新聞6月3日朝刊「財源危うい『ギャンブル』傾斜」(電子報道部 松浦龍夫)を参考にしました。

 『週刊プレイボーイ』2012年6月25日発売号
禁・無断転載