ダイエットに成功すると仕事に失敗する? 週刊プレイボーイ連載(48)


「クッキーとダイコン」というちょっと意地悪な実験があります。

同じ部屋に、焼かれたばかりのおいしそうなチョコチップクッキーの皿と、千切りにしたダイコンの皿が置いてあります。「味覚の記憶についての研究」に協力を申し出た大学生を二つのグループに分け、半数はクッキーを、残りの半数にはダイコンを食べるよう指示します。

クッキーはすごくいい匂いがしているのに、貧乏くじをひいた学生は、それを横目で見ながら不味いダイコンをかじらなければなりません。研究者はわざと部屋から出ていき、その気になればつまみ食いもできるのですが、「研究のため」といわれているのでガマンせざるを得ないのです。

次にこの大学生たちに、一筆書きで複雑な図形を描くというパズルをしてもらいます。このパズルはどうやっても解けないのですが、学生たちはそんなことは知らないので、あれこれ試行錯誤しながら必死に取り組みます。

じつはこの実験は、クッキーを食べた学生と、ダイコンで我慢した学生とで、集中力にどのようなちがいがあるかを調べるものでした。

その結果は、驚くべきものでした。

クッキーを食べた学生は、平均してパズルに19分を費やし、34回の試行錯誤を繰り返しました。それに対してダイコンを食べた学生は、わずか8分であきらめてしまい、試行錯誤の回数も19回でした。クッキー組に対して、ダイコン組は半分しか集中がつづかなかったのです。

なぜこんな不思議なことが起きるのでしょう。それは、自己コントロールが消耗資源だからです。

ダイコン組の学生は、「クッキーを食べたい」という欲望を意志のちからで抑制しなければなりませんでした。それによって「自己コントロール力」を使い果たし、パズルに集中できなかったのです。

ダイエットや禁煙が困難なことはよく知られていますが、この実験結果はより深刻な問題を提起します。超人的な意志力でダイエット(禁煙)に成功しても、そのために自己コントロール力を失って、ほかのことがちゃんとできないかもしれないのです。

身だしなみにすごく気をつかう“デキる男(女)”が、いざとなるとぜんぜん使えない、ということはよくあります。その反対に、ふだんはだらしないのに、仕事や勉強に異常な集中力を見せるひともいます。これも、自己コントロールという有限な資源をどう分配しているか、ということから説明できるかもしれません。

「クッキーとダイコン」の実験は、無意識を意識的に制御することがいかに難しいかを明らかにしました。努力だけではひとは変われないのです。

だったらどうすればいいのでしょうか。

もっとも簡単で確実なのは、環境を変えることです。

ホリエモンは、収監されて1年たたないうちに20キロ以上の減量に成功したといいます。ダイエットのために刑務所に入るひとはいないでしょうが、無理な自己コントロールをつづけるより、外部コントロールを利用したほうがずっと効果が高いのは間違いありません。

参考文献:チップ・ハース・ダン・ハーススイッチ!』

 『週刊プレイボーイ』2012年4月23日発売号
禁・無断転載

コメントを閉じる

16件のコメント

  1. この実験ってソースはどこなんでしょうね?

    クッキーと大根では、RCTの比較対象としては不適切なのでは?
    二つの群では食後の血糖値の上昇が有意に違うので、それによるバイアスがかかりまくりでは。

    言うまでもなく糖は脳における唯一無二のエネルギー源であり、
    こんな実験に意味があるんでしょうか?

    …と、まじツッコミしてみる。

  2. ダイコンに甘んじた人達の方が忍耐力で勝るとの予想は外れました。自己コントロールは消耗品なのですね。

  3. どちらを選ぶか指示されてる時点で自己コントロール力は使ってない気が…
    どうやっても解けないパズルなら見切ってすぐ止めた方が集中力高いんじゃないかとも思えるし。
    身だしなみの悪い人の方が仕事も出来ない人が多いと実体験的に思う。
    と、今回はいくらでも反論できてしまうな。

  4. 「角を矯めて牛を殺すなかれ」って古の人も言ってるじゃないか
    それを現代風に言い換えたんだろ。

  5. 仕事は集中力より創造性とか
    対人能力の方が大事だから
    実験結果と仕事との関連性は薄いかと・・・。

    タバコ・お酒・乳製品は早死の元だし。

  6. この仮説が正しいとすると、食べ物のことばかり考えている人は仕事ができないんでしょうか?

    ちなみに一筆書きが可能かどうかは、『奇数個の線で出来ている交点が2個以内』で判定できるので、一度も試す必要がないと思います。

  7. >この仮説が正しいとすると、食べ物のことばかり考えている人は仕事ができないんでしょうか?

    自分の受験の時を思い出してみればわかるように、人間の「集中力」や「やる気」などの資源も
    有限であるので、どのように割り振りするかというのが重要であるというだけの話ですよ。

    >ちなみに一筆書きが可能かどうかは、『奇数個の線で出来ている交点が2個以内』で判定できるので、一度も試す必要がないと思います。

    ケーニヒスベルクの問題のように、分かっている人間からすれば明白な問題であっても、
    知らない人間からすれば悪戦苦闘することはよくあります。
    就職活動中の大学生であれば、エントリーシートを書くまでもなく、企業側から大学名等のスクリーニング基準があるのと同様です。

  8. 単なるsugar highなんじゃないですかね・・・・。

    おしゃれやダイエットより自己コントロールがもっと必要な筋トレや武道を嗜む成功者は、
    世界共通で多いから、論理が飛躍しているような気がします。

  9. 私は血糖値が上がると眠くなって頭がまわらなくなってしまうので、クッキーを食べてしまうと駄目ですね。

  10. >尖沙咀さん
    私の言葉が足りず、もうしわけありません。
    前半は、ダイエットに失敗した人も、食べ物のことを考えているので、タイトルの「ダイエットに成功すると…」ということは言えないのではないか、ということです。
    後半は、一部の人にとって明らかに条件が異なる実験をすると、そういう人の割合によって結果が大きく変わるので、実験として適切でないということです。

    ケーニヒスベルグの橋っていうのがあるんですね。勉強になりました。ありがとうございます。

  11. ダイエットの例だけではなく、同様の事例はいくつもあります。

    たとえば新設の全寮制中高一貫校が受験において好成績をあげた例が報告されています。
    これもホリエモンのダイエットと同じで、外部コントロールによって数々の誘惑を制御した例です。

    ただ、高校以前にあまり禁欲生活を強制しすぎると、大学に入ってからスーパーフリーの
    ような集団に取り込まれる危険性はありますが。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

投稿したコメントが表示されない場合は、SPAM判定された可能性があります。詳細はこちらをごらんください。