GKB47のイタさについて

野田政権による自殺対策強化月間のキャッチフレーズ「GKB47」が、あまりの不評のため撤回された。自殺予防に取り組むゲートキーパー(門番)を47都道府県で増やそうというキャンペーンだが、自殺対策に取り組む民間団体などから「自殺問題をバカにしている」「GKBは若者言葉でゴキブリの意味だ」などの批判が噴出したのだという。

一連の騒動についてはアイドルに対する蔑視を感じるひともいるだろうから、ここで私見を述べるつもりはない。私が書きたいのは、「GKB47」をはじめて目にしたときの、「このイタさはどこかで見た覚えがある」という既視感のことだ。

昨年末に、「内閣府大臣官房政府広報室」というところからFAXが送られてきた。タイトルは、「『守る力を』ネットワーク サポーター参画のお願いについて」というものだ。

ほとんどのひとが知らないだろうが、「守る力を」ネットワークというのは、「災害弱者とも言われる独居老人や、幼い子供たち、また、うつ病から自殺に至ってしまうような方など、社会的に弱い立場の人々を、公共の仕組みや相談窓口を使ってもらうことで解決に導いていこうとするためのもの」で、①減災(災害が起こったときに、いかに被害を減らせるか)、②児童虐待防止、③自殺対策、の3つのテーマについて、Facebookに特設ページをつくり、「発信力のある各界の方々」にサポーターとして参画してもらって、国民の側から議論を盛り上げていこうという試みだという。

このように説明してもよくわからないと思うので、実物を見ていただこう。

「守る力を」ネットワーク

昨年8月にスタートし、著名人がサポーターとして登録しているが、半年以上経っても「議論」らしきものはほとんどなく、月に数件のコメントがつく程度だ。

Facebookを活用したこの政府広報のどこがイタいのか、あらためて「サポーター参画のお願い」を読み直してみた。

  • FAXの文面が、明らかに名前の部分を変えるだけで誰にでも送れるようになっていること。私は減災や児童虐待についてはなんの知識もなく、唯一、意見があるのは自殺対策だが、内閣府の政府広報室はこのような議論をしたいわけではないだろう。ようするに、誰彼かまわずFAXを送りつけているのだ。
  • 依頼の文面に報酬についての言及が一切ないこと。ボランティアでやってくれ、ということなのだろうが、そうであれば、その旨を明記するのが社会人にものを頼むときの最低限のルールだ。ここから伺えるのは、「政府の活動に参加できるのだから、ただ働きでもいいだろう」というお上感覚だ。このひとたちは、「橘玲(「守る力を」ネットワーク・サポーター)」という肩書きに価値があると信じてるのだ。
  • そしていちばんイタいのは、SNSのことをまったく理解していないことだ。Facebookのページを見ればわかるように、ここに登場する著名人は月に1回意見をいうだけであとはなにもしない。それにコメントをつけたとしても「議論」とはいわないだろう。こんな退屈な仕組みでは、誰も参加しない(というか、その前に誰も気づかない)のも当然だ。

端的にいって、この「お願い」はかなり不愉快だ。これが(おそらく)私だけの感想ではないことは、いくらFAXを送りつけても「サポーター」がほとんど増えていないことから明らかだろう。

なぜこの政府広報はこんなにイタいのか。その理由は、「守る力を」ネットワーク事務局が大手広告代理店の「パブリックリレーションズ」なる部署に置かれていることからわかる。すなわちこれは、代理店企画なのだ。

私は内情を知っているわけではないが、「GKB47」もおそらくは代理店企画で、だからイタさ(というか、チャラい感じ)が共通しているのだ。

お役人にとってもっとも重要なのは予算は使い切ることだが、かといって最近では、無意味なことにお金を使うと「仕分け」で政治家から吊るし上げられてしまう。そこで代理店にコンペをやらせて、政治家にもわかりやすく、マスコミにも取り上げられそうな企画を選ぼうとした。

そう考えれば、政府広報にFacebookを使ったり、AKB48を起用しようとする発想がとてもよくわかる。広報の効果で自殺者が減るかどうかなど、どのみち検証のしようがない。だったら、そこそこ話題になって、予算の使い方を突っ込まれたときにうまく説明できることがすべてなのだ。

広告代理店の「パブリックリレーションズ」部には、コンペに勝ったことで相応の広報予算が支払われているだろう。自殺対策や児童虐待防止などの美名を利用して、他人をただ働きさせて自分たちが儲けようとするのは、控えめにいっても品性として下劣だ(と私は思う)。「GKB47」に同じいやらしさを感じた関係者が怒ったのも無理はない。

もちろん、こんなことを書いてもカエルの面に小便だということはわかっている。

今回のトラブルで広告代理店も学習して、次はもうちょっとチャラくない企画(演歌歌手や重厚な俳優を使うとか)でコンペに臨むだろう。こうして自殺対策にはなんの役にも立たず、税金だけが無駄に使われていくのだ。