世界がタックスヘイヴンになる日 月刊『中央公論』2009年6月号

香港人のプライベートバンカーからその奇妙な名刺を見せられたのは、3年ほど前のことだった。名前のほかに、携帯電話の番号とホットメール(マイク ロソフトが運営する無料メール)のアドレスしかない怪しげな名刺は、日本出張の必需品だという。それ以外にも、顧客情報の入ったパソコンの携行は許されず、資料はあらかじめ現地の知人宛に郵送しておくなど、さまざまな規則があるのだと教えられた。

その当時、UBS、クレディスイス、香港上海銀行など大手金融機関のプライベートバンク部門は、香港に日本人(および日本語を話す外国人)担当者からなる「ジャパンデスク」を擁し、日本の富裕層を積極的に開拓していた。いずれも歴史と信用を誇るグローバル金融機関ばかりだが、それがまるで犯罪者のように身分を偽って入国審査をすり抜けるのだ。彼はジョークとして語ったが、私にはそれが真っ当なビジネスだとはとても思えなかった。 続きを読む →

秘密暴かれるUBS、揺れる富裕層 『日経ヴェリタス』2009年3月15日号

顧客情報流出

まるでハリウッド映画のような、としか形容しようのない事態の展開で、世界最大の金融機関のひとつが窮地に陥っている。

2008年2月14日、ドイツ司法当局は脱税の容疑でドイツポストのツムウィンケル会長の自宅・事務所を強制捜査した。その4日後、ドイツ連邦情報局BNDはリヒテンシュタインの皇室が経営する大手プライベートバンクLGTの顧客情報1,400件を460万ユーロで購入したと発表した。 続きを読む →

第14回 複雑な金融税制が招く不幸

相撲界が今、野球賭博問題で大きく揺れている。親方や大関が賭博に興じていたのは許しがたいと、みんな怒っている。

野球賭博は、プロ野球の勝敗に賭けるギャンブルだ。ところでサッカー賭博というのもあって、こちらはサッカーJリーグが賭けの対象で、totoの愛称で知られている。

熱烈サッカーファンの大関がtoto(サッカー賭博)に大金を注ぎ込んでも、誰もなんとも思わない。ところがその大関が野球狂で、野球賭博に夢中になると解雇されてしまう。サッカー賭博は日本国が胴元だけど、野球賭博は暴力団の資金源になっているからだ。 続きを読む →