Blog開設5年目を迎えました

おかげさまで、今日でBlogを始めて5年目を迎えました。最近は雑誌コラムのアーカイブがほとんどになってしまいましたが、この1年間でたくさんにひとに読んでもらえた記事のBEST10です。

  1. 国民年金基金についての私的提言
  2. “芸術”という腐った楽園
  3. 日本の自殺率は、長期的には高くなっていない
  4. プレゼンでは大事なことは決められない
  5. テレビはバカに娯楽を提供するメディア
  6. 意外に身近なミリオネア
  7. 今年のことはわからなくても、10年後の日本はわかっている
  8. 伽藍の世界
  9. 労働組合は身分差別社会が大好き
  10. そもそもメニューを信じる方がおかしい

前期の統計を取り忘れていたことに気がつきました。参考までに掲載しておきます。(2012/8/21~2013/8/20)

  1. 尖閣問題で、海外メディアは日本に対して予想以上に厳しい
  2. 週刊朝日は謝罪すべきではなかったし、連載を続けるべきだった
  3. アメリカはなぜ銃社会なのか?
  4. 『週刊朝日』はいったい何を謝罪したのか?
  5. なんだ、“食糧危機”はウソだったのか【書評】
  6. なんだ、エネルギー危機もなかったのか【書評】
  7. 財政破綻に備える「3つのリスク回避術」
  8. 30年前は日本の「民度」もこんなもの
  9. 【書評】職業としてのAV女優
  10. 同和地区を掲載することは「絶対に」許されないのか?

これからもよろしくお願いします。

危険ドラッグ問題を解決するもうひとつの方法 週刊プレイボーイ連載(159)

脱法ハーブによる暴走運転が社会問題になったことで、「危険ドラッグ」に名前が変わりました。厚生労働省は、アンケート調査などをもとに、危険ドラッグの使用者を40万人と推定しています。

危険ドラッグはなぜこれほど蔓延するのでしょうか。

私的行為に刑罰を課すのは国家による暴力の行使なので、法治国家ではその要件が法によって厳しく定められています(罪刑法定主義)。ところが技術の進歩によって、化学構造の一部を変えることで、麻薬と同様の効果を持ちながら法では規制されないドラッグをつくることが可能になりました。

危険ドラッグで逮捕された業者は、住宅街にプレハブ小屋を借り、主婦などを雇って、中国から輸入した原料に植物片を混ぜて「ハーブ」として販売していました。原料の入手元さえ確保できればかんたんに製造でき、「飛ぶように売れて金銭感覚がおかしくなる」ほど儲かったそうです。

ドラッグが裏社会の大きなビジネスになるのは、国家が違法とすることで、まともな業者が市場から排除されるからです。その結果、刑務所に行くことを恐れない一部のひとたちが市場を占拠し、法外な利益を手にすることになります。

生命にかかわるような毒物をきびしく規制するのは当然ですが、すべてのドラッグを禁止すればいいというわけではありません。ドラッグを合法化して法の管理の下に置けば、利潤を求めて多くの企業が参入し、非合法な業者をすべて淘汰してしまうでしょう。そのうえドラッグの製造・販売から得る利益に課税できるのですから一石二鳥です。

これはべつに荒唐無稽なことをいっているのではありません。アルコールは意識の変容を起こす典型的なドラッグで、イスラム圏では禁止されていますが、日本を含む先進諸国は合法化しています。その結果、毎年のように飲酒運転の悲惨な事故が起きますが、これは社会的コストとして許容されているのです。

大麻はオランダで合法化されており、ヨーロッパ諸国でも個人使用には罰則を科さないところが大半です。アメリカでは医療用大麻の合法化が進んでいるほか、2012年の住民投票でワシントン州とコロラド州で大麻の私的使用が合法化されました。連邦法では大麻を禁止していますが、ニューヨークタイムズは、法律を撤廃して各州の判断に任せるべきだとの社説を掲げています。「大麻はアルコールやタバコより中毒・依存症の健康被害が少ない」というのがその理由です。

日本では危険ドラッグが大麻の代替品として使用されています。若者に広がる薬物のなかには、シンナーのように脳に損傷を与えるものもあります。合法化で大麻が安価に提供されるようになれば、これらのドラッグの使用は大きく減るでしょう。

大麻禁止の根拠は、「覚醒剤などハードドラッグの入口になる」というものです。今後、アメリカやヨーロッパで大麻が解禁されていけば、こうした主張が正しいかどうか、科学的(統計学的)に検証できるでしょう。

日本では、なにか問題が起こると、すぐに国家による規制を強化しようとします。ときには別の発想をしてみてはどうでしょうか。

『週刊プレイボーイ』2014年8月11日発売号
禁・無断転載

ウクライナ危機「親ロシア派」とは何者なのか? 週刊プレイボーイ連載(158)

ウクライナ上空で乗員乗客298人が乗ったマレーシア航空の旅客機が撃墜された事件は全世界に衝撃を与えました。現在も真相究明が進んでいますが、親ロシア派の武装勢力がロシア軍から供与された地対空ミサイルを誤射したとみて間違いないでしょう。

ところで、「親ロシア派」とはいったい何者なのでしょうか。

ウクライナ危機は、民族紛争というより地域対立です。ポーランドなどEUに加盟した旧共産諸国と接する西部地区と、ロシアの強い影響下に置かれた東部地区では、経済政策の利害が真っ向から対立してしまうのです。

そんななか、ソチ五輪を利用して親EU派がクーデターを敢行し政権を奪取します。それに対抗してロシアは、軍事戦略上の拠点であるクリミアを併合しますが、その後、東部地区に親ロシア派の武装勢力が台頭してきたのです。

ところで、報道によるとこうした武装勢力は大半がロシアからやってきた義勇兵です。ウクライナの首都キエフは古名がルーシであるように「ロシア発祥の地」とされており、同朋が差別されていることと、その聖地がヨーロッパに奪われることへの反発が彼らを駆り立てているのだといわれます。

しかし、それだけのことで隣国の紛争に参加しようと思うでしょうか。家族や恋人と離れ、仕事を失い、生命まで賭けなければならないのです。

このように考えると、「義勇兵」に志願するのはふつうのひとたちでないことがわかります。

ウクライナで起きていることは、1990年代にボスニア紛争に介入したセルビアとよく似ています。

ユーゴ建国時のパルチザンの英雄の息子として生まれたアルカンは、厳格な親に反発して不良となり少年院に送られたあと、イタリアでユーゴ出身者の地下組織に加わって銀行強盗や殺人などの凶悪犯罪を繰り返し、国際指名手配犯となります。ベオグラードに戻ってからはカジノ経営で成功し、裏社会に君臨する一方、ストイコヴィッチが所属していたことで知られる名門サッカークラブ・レッドスターの関連会社の社長に収まりました。当時はユーゴスラヴィアが崩壊に向かう混乱期で、アルカンはレッドスターのフーリガンたちを民族防衛の義勇兵に組織したのです。

セルビア大統領のミロシェヴィッチが義勇兵を必要としたのは、欧米の反発で正規軍をボスニアに投入できなかったからです。

ヨーロッパのフーリガンは日本でいう暴走族(いまでは半グレ)のようなもので、法や権威には反発しますが組織への忠誠心は高く、民族主義に強く共鳴します。そんな彼らに武器を渡し、殺人や強奪を国家が公認したことで、ボスニアでは凄惨な民族浄化が引き起こされました(公正を期すために述べておけば、敵対するクロアチアやボスニアも犯罪者の義勇軍を組織していました)。

ボスニアやコソボでの蛮行が国際的な非難を浴びるようになると、ミロシェヴィッチは窮地に立たされます。民族主義を煽って大統領に当選した彼には、極右団体の暴走を止めることができないのです。その結果は経済制裁とEUによる空爆で、最後は戦争犯罪人として国際戦犯法廷に引き立てられることになりました。

これはべつに、特定の国や指導者への批判ではありません。

人間の愚かさは、どこでもいつの時代でも同じだ、という話です。

『週刊プレイボーイ』2014年8月4日発売号
禁・無断転載