安倍内閣はなぜ「女性大臣」で失敗するのか? 週刊プレイボーイ連載(170)

安倍改造内閣の目玉とされていた2人の女性大臣が不祥事で相次いで辞任しました。

小渕経産相の場合、父親から譲り受けた地元の秘書に資金管理を任せていたところ不明瞭な支出が相次いだというもので、同情の余地はありますが、「自分の事務所も管理できないのに国家のマネジメントができるのか」といわれてしまえば反論できません。松島法相は選挙区内で配ったうちわを「討議資料」と強弁するなど、奇矯な言動が目立ったため、国会答弁を不安視した首相から引導を渡された、ということでしょう。

なぜ女性大臣ばかりが失敗するのか。その単純な説明は、日本では女性の国会議員の絶対数がきわめて少ないからです。

議会における女性の割合は世界平均が22%ですが、日本はそれを大幅に下回る8%で、世界127位と最低水準です。安倍政権はこれを“世界標準”に合わせようと、女性大臣の数を無理矢理増やそうとしたわけですが、選択肢となる人材プールが小さければそのぶん“スカ”をつかむリスクは高くなります。

この問題を解決するには女性議員の数を大幅に増やす必要があります。これにはたいへんな困難がともないますが、じつはものすごく簡単な方法があります。

スウェーデンなど北欧諸国は女性議員の比率が40%を超えており、“人権大国”を誇っています。こうした国の選挙制度は比例代表制で、議席配分が得票率によって政党に配分されるのですから、政党の側で候補者の男女比を調整したり、優先順位を入れ替えることで女性議員の比率を増やすことが可能です。

一方、同じヨーロッパでもフランスの国政選挙は小選挙区制で、長らく女性議員が少ないことが問題視されていました。国民議会に占める女性の割合は1993年の総選挙で5.9%、それ以前は1%台のときもあったといいますから“男尊女卑”はきわめて深刻です。しかしそれでも、選挙制度を小選挙区制から比例代表制に変えることは議員の既得権を直撃しますから容易ではありません。

こうした状況に業を煮やした社会党内閣は、2000年に「男女同数法(パリテ法)」というきわめて過激な法律を成立させます。これは男女の候補者の数を強制的に同数にさせるもので、比例代表制で行なわれる地方選挙では、この改正によって女性議員の割合は25.7%から47.5%へと大幅に上昇しました。

小選挙区制の国政選挙でも、候補者を男女同数にしない政党の助成金を大幅に減額するという劇薬を投じ、2007年の総選挙では女性議員の比率を18.5%まで上げました。これでもまだ北欧諸国の基準には届きませんが、女性議員が増えたことで、2012年に発足したオランド政権は34人の閣僚のうち17人を女性にして「男女平等」をアピールしたのです。

フランスの経験は、「女性の活用」が生半可なことでは実現できないことを教えてくれます。ありもののなかから適当に外見だけ取り繕うのでは、今回のようなことになるのはわかりきっているのです。

もちろん、「いくらなんでもそこまでしなくても」という意見はあるでしょう。その場合は野党や民間、外国人にまで人材プールを広げ、女性大臣の適材を探すしかないでしょう。

『週刊プレイボーイ』2014年11月4日発売号
禁・無断転載

革命家の理想から「ブラック企業」は生まれた 週刊プレイボーイ連載(169)

牛丼店「すき家」を運営するゼンショーが苦境に立たされています。ワンオペと呼ばれる深夜の1人勤務で人件費を圧縮し、他社が敬遠する郊外に大量出店しながら、24時間営業で格安の牛丼を提供する独特のビジネスモデルが、アベノミクス以降の人手不足で崩壊してしまったからです。

同社は7月に労働環境改善への第三者委員会の提言を公表しましたが、そこで明らかになった勤務実態は衝撃的です。

破綻のきっかけは2月に2度にわたって首都圏を襲った大雪で、店舗から帰宅できず交代要員も出勤できなくなったことでワンオペの48時間勤務が多発し、不満を爆発させたバイトが次々と辞めていきます。それによってクルーを管理するマネージャーがシフトを組めなくなり、自分が店に入らざるを得なくなって業務管理の機能を喪失、ついには正社員が無断欠勤のうえ行方をくらますようになります。こうして3月中旬には、全国約2000店のうち138店が一時休業に追い込まれました。報告書によればこの時期、一般社員の残業時間は平均109時間に達し、月500時間以上働いたり、2週間帰宅できなかった従業員もいたといいます。

ゼンショーの創業者である小川賢太郎社長は、全共闘による安保闘争が始まった1968年に東京大学に入学し、「資本主義社会であるから世界に貧困と飢えが増殖するという矛盾が生じる。この矛盾を解決するために社会主義革命をやるしかない」と信じて東大全共闘に身を投じました。しかし安田講堂の攻防戦に破れて挫折、大学を中退して横浜港の港湾労働者になり最底辺からの革命を目指します。

しかし1975年、ベトナム戦争終結を見て社会主義革命に見切りをつけ、財務管理やマーケティング、法律などを徹底的に勉強した後、78年に「飢餓と貧困をなくす」ための新たな革命の第一歩として吉野家に入社します。

ところがその吉野家は80年にあえなく倒産(その後、再建)。3たび一敗地にまみれた小川氏は、「自分が先頭に立ち、革命を統率するしかない」と決意し、2人の部下を引き連れて82年に新会社を設立しました。ゼンショーという社名には、「今度こそ、絶対に負けない。全戦全勝する」というその時の覚悟が込められています。

いまではブラック企業の筆頭のように扱われていますが、ゼンショーは食の安全に早くから取り組み、すべての食材を徹底的に検査するほか、野菜を仕入れるときはその畑ばかりか、隣の畑や近くに流れている川、その川の源流まで調べるといいます。また北海道に自前の牧場を持ち、子牛から育てて牛肉にするまでの過程を検証し、牛肉のリスクや安全性をすべて把握しようとしてもいます。

ゼンショーの独特のビジネスモデルは、「安全な食事を低価格で提供する」という革命家の理想から生まれたものでした。そのための武器は徹底した効率化で、米国海兵隊の洗脳法を導入し、軍隊をもしのぐ超管理体制で社員やクルーの生産性を極限まで高め、外食産業のトップに立つまでに急成長を遂げたのです。

すき家は深夜のワンオペの解消を約束しましたが人手を確保できず、全店の半数を超える1100店の深夜勤務を休止することになりました。「全戦全勝」の夢が破れつつある10月1日、ゼンショーは社名を「すき家本部」に変えると発表しました。

参考文献:「外食日本一ゼンショー 280円で仕掛ける“メガ盛り生産革命”(飯泉梓)」『日経ビジネス』(2010年9月20日号)

『週刊プレイボーイ』2014年10月27日発売号
禁・無断転載

「中国食材」は国産より安全? 週刊プレイボーイ連載(168)

日本マクドナルドが170億円の赤字に転落したことを発表しました。その要因はいうまでもなく、期限切れの鶏肉を出荷していた上海の食材卸会社と取引があったことです。この問題が大きく報じられたことで中国からの輸入食材に対する不安が再燃し、来店客数が大きく減少したとのことです。

ところで日本では、「中国産食材=汚染・危険」と誰もが思っていますが、意外なことに専門家のなかでは「国産より中国産が安全」との声も聞かれます。いったいどういうことでしょうか。

まず前提として、中国が食の安全に大きな問題を抱えていることは間違いありません。粉ミルクにメラミンが混入し乳児が腎臓結石になった事件以来、北京や上海などの都市部では中国産の乳製品をいっさい信用しない消費者が激増しました。それ以外でも春雨に漂白剤を使ったり、酒にメチルアルコールを入れたり、下水道の汚水から食用油をつくったり、違法行為は枚挙にいとまがありません。また長江以南の農地は工場排水などによる重金属類の汚染が深刻で、基準値を上回るカドミウムが含まれた汚染米が大きな社会問題になりました。

それではなぜ、中国産の食材が安全なのでしょうか。それは、日本の消費者が不安を抱けば抱くほど行政の輸入食品への規制が厳しくなり、食材の輸入・販売業者が安全確保に躍起になるからです。

冷凍餃子に劇薬が混入していた事件では、輸入元のJTフーズや販売した生協も深刻な打撃を被りました。それにもかかわらず中国からの輸入食材に頼らざるを得ないとしたら、二度と同じような事故を起こさないよう衛生管理を徹底するしかありません。

冷凍餃子事件の起きた2008年1月までの1年間で、日本では1292件の食中毒事件が起きていますが、このうち中国産食品が原因とされたのは冷凍餃子による3件だけで、他はすべて日本国内に原因がありました。

厚労省の「輸入食品監視統計」を見ても、中国産は輸入量(検査数量)が多いので違反数量はトップですが、違反割合は0.22%で平均を下回り、アメリカからの輸入食材(0.81%)の約4分の1です(平成24年度)。また厚労省が国産品と輸入品の残留農薬を検査したところ、国産品(0.34%)の方が輸入品(0.21%)より基準値を超える農薬が検出される割合が高かったというデータもあります(2003年)。中国産の残留農薬は輸入品の平均より低いのですから、これでは学校給食から追放すべきは国産やアメリカ産の食材で、子どもには中国産の食材を食べさせるべきだ、ということになってしまいます。

農業の専門家のあいだでは、乾燥した気候で冬が寒い山東省は無農薬・減農薬の野菜を栽培する適地で、手間のかかる農法は労働力が豊富で労賃の安い中国でなければ成り立たないというのが常識です。それに対して国内の都市部の菜園などは、無農薬栽培をしても土壌自体が汚染されている可能性があり、輸入食材とちがって残留農薬の検査もないため「かえって危険」なのです。

もっとも、こうした事実をいくら列挙しても、「中国産=危険」「国産=安全」というステレオタイプが覆ることはないでしょう。だとしたら賢い消費者は、偏見のお陰で安く売られている「安全な」中国産食材を使って美味しい食事を楽しめばいいのです。

参考:丸川 知雄『「中国なし」で生活できるか』

『週刊プレイボーイ』2014年10月20日発売号
禁・無断転載