生物地理学会の市民シンポジウムで講演します(会場が変更になりました)

【会場が変更になりました】

参加希望者多数のため、会場が東大中島記念ホールから、同じ東京大学内にある「伊藤国際学術研究センター 伊藤謝恩ホール」へと変更になりました。日時等、それ以外の変更はありません。

すでにお申し込みの方は、再度、お申込みの必要はありません。主催者より会場変更の連絡があると思います。

よろしくお願いします。

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日本生物地理学会の森中定治さんから熱心にお誘いいただいたので、久しぶりに講演することにしました。テーマは「次世代にどのような社会を贈るのか?」で、「リベラル化する世界の分断」について語る予定です。

講演のあとに「論評」があって、『人間の解剖はサルの解剖のための鍵である』(「紀伊國屋じんぶん大賞2019」3位)の吉川浩満さん、『子どもの哲学 考えることをはじめた君へ』の共著者で哲学者の神戸和佳子さん、日本生物地理学会の春日井治さんが登壇します。

司会は『系統樹思考の世界』などで知られる三中信宏さん、趣旨説明は学会長の森中定治さんです。

日時:2019年4月13日(土)13:00~(12:30開場)

場所:伊藤国際学術研究センター 伊藤謝恩ホール

参加希望の方は、森中さん宛てにメールを送ってください。

森中定治 delias@kjd.biglobe.ne.jp

参加費は1000円(資料代 別途500円)、講演後の懇親会にも参加する場合は会費3500円です。

たくさんの方のご参加を期待しています。

 

「日本人」と「韓国人」のやっかいなアイデンティティ 週刊プレイボーイ連載(371)

2021年9月末の任期を見据え、安倍首相は2つの「レガシー」を目指しています。憲法改正と北方領土交渉で、いずれかひとつでも実現すれば日本の現代史に名を残すのは間違いありませんが、どちらも状況はかんばしくありません。

それでも「モリカケ」で足を引っ張られた憲法改正より目がありそうだと、「うまの合う」プーチン大統領との会談を繰り返していますが、クリミア半島併合などでナショナリズムが沸騰するロシアがやすやすと領土の割譲に応じるとは思えません。案の定、ラブロフ外相は日本に対し、「第二次世界大戦の結果を認めよ」と言いたい放題です。

戦争末期、ソ連は日ソ中立条約を一方的に破棄して満州と南樺太に侵攻し、日本軍の捕虜約57万5000人を抑留、劣悪な環境で約5万5000人が死亡する悲劇を引き起こしましたが、いまだに謝罪も賠償もしていません。そのうえ「悪いのはぜんぶお前たちだ」という暴言ですから、「愛国者」は激怒してもおかしくありませんが、不思議なことに大きなニュースになることもなく、ほとんど誰も気にも留めていないようです。

さらに奇妙なのは、その「愛国者」が、海上自衛隊の哨戒機が韓国海軍の駆逐艦から火器管制レーダーを照射されたとして大騒ぎしていることです。これも確かに隣国とのやっかいな問題ですが、別の隣国が不法に占拠した領土を返還する気がないと公言したことと、どちらが重大でしょうか。

こうした事情は、じつは韓国も同じです。

2017年、在韓米軍へのTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)配備を決めた韓国に中国が激怒し、軍用地を提供したロッテは中国国内の店舗を一時営業停止に追い込まれ、中国の旅行業者は韓国観光の取り扱いをやめました。ところが、こんないやがらせをされたにもかかわらず韓国内で「反中国」の大規模デモが起きるようなことはなく、「逆らったってしょうがない」というあきらめムードが広がりました。

その影響を比較すれば、北方領土返還や中国からの執拗な制裁に比べ、日本の哨戒機にレーダーを当てたとか当てないとかはどうでもいい話です。当事者同士で話し合って、「これから気をつけよう」で済ませればいいだけのことではないでしょうか。

しかし、日本にも韓国にもこれを「ささいな出来事」にできない事情があります。

日本では「嫌韓本」が次々とベストセラーになったことからもわかるように、「韓国ぎらい」が「日本人のアイデンティティ」と結びついています。慰安婦や徴用工問題でさんざん「理不尽」なことをされた「日本人」にとって、レーダー照射問題は留飲を下げる格好の機会なのです。

韓国では、植民地時代を全否定することが「正義」とされており、どんなことであれ日本に頭を下げることは「民主韓国」の否定だと見なされます。韓国側の反論が二転三転しつつもぜったいに非を認めないのはこれが理由でしょう。

日本と韓国は合わせ鏡のような関係で、お互いを否定し合うことで「日本人」「韓国人」のアイデンティティがつくられています。この不幸な状況はとうぶん変わりそうもないので、お互い、それに慣れるしかないのでしょう。

『週刊プレイボーイ』2019年2月12日発売号 禁・無断転載

よりよい世の中をつくる「暗殺市場」? 週刊プレイボーイ連載(370)

インターネットには、特殊なブラウザを使わなければアクセスできない「闇(ダーク)ネット」と呼ばれる隠された領域があります。そこではドラッグや児童ポルノなど、公序良俗に反し法で禁じられているさまざまなものが取引されていますが、「暗殺」も例外ではありません。

とはいえ「暗殺市場」には、「必殺仕事人」のようにお金を受け取って恨みをはらす業者がいるわけではありません。――そのようなサイトもありますが、ほぼすべて詐欺だといいます。

「暗殺市場」の仕組みは単純で、リストに掲載された人物にみんなが懸賞金を払い、その死亡日を予言するだけです。そして、予言が当たると賞金が支払われます。

これがなぜ「暗殺」になるのか、すこし説明が必要です。

世界でもっとも憎まれている政治家は、おそらくドナルド・トランプでしょう。「あんな奴、この世からいなくなればいいのに」と思っているひとはたくさんいるでしょうが、そんなときは憂さ晴らしにトランプの懸賞金を積み増すことができます。

最初は少額でも、トランプがTwitterでリベラルの神経を逆なでするたびに懸賞金の額は増えていくでしょう。いつのまにかその額は、1億円、あるいは10億円になるかもしれせん。

そうなると、死亡日をぴたりと当てればこの大金が手に入ると思いつく人間が出てきます。でも「デスノート」を持っているわけでもないのに、どうすればそんなことができるのでしょうか。それは……という話になるわけです。

「懸賞金の受取人を調べれば犯人はすぐわかるじゃないか」と思うでしょうが、闇ネットでビットコインをやりとりすれば追跡は困難です。完全犯罪さえ可能なら、一夜にして大金が転がり込んでくるのです。

いったい誰がなんのために、こんなとんでもないことをするのでしょうか? それは、「よりよい世の中」をつくるためです。

ここでまた説明が必要になります。

あなたが政治家で、ある日「暗殺市場」のリストに自分の名前が乗っていることに気づいたとします。懸賞金は1万円か2万円で、たんなる嫌がらせだと無視したのですが、その金額は毎日すこしずつ増えていきます。

けっしていい気分はしないでしょうが、闇ネットは国家権力の立ち入ることのできない「聖域」なので、警察に相談してもなにもしてくれません。だとしたら、あなたにできることはひとつしかありません。みんなが喜ぶような、よい政治をすることです。

こうして「暗殺市場」のある社会では、政治家は暗殺を避けるために、私利私欲を抑え、敵をつくらず、公平で民主的な政策を推し進めるようになるのです……。

シリコンバレーには「サイファーパンク」と呼ばれる変わり者がいて、テクノロジーを使って世界をより効率的に「設計」しようと、本気でこんなことばかり考えています。その理想は、他人への信頼がいっさいなくても(性悪説で)社会がうまく機能するアルゴリズムを見つけることです。

いまはたんなるブラックジョークにしか思えなくても、テクノロジーは驚異的な勢いで進歩していて、いずれ「暗殺市場」を超えるアイデアが出てくるでしょう。人類の運命を変えるXデイは、それほど遠くないかもしれません。

参考:ジェイミー・バートレット『闇(ダーク)ネットの住人たち―― デジタル裏世界の内幕』(CCCメディアハウス)

『週刊プレイボーイ』2019年2月4日発売号 禁・無断転載