2012年の中国の不動産バブル2 三亜

ダイヤモンド社と共同で行なっていた「海外投資の歩き方」のサイトが終了し、過去記事が読めなくなったので、このブログで再掲載していくことにします。

今回は2012年12月公開の記事です。(一部改変)

Alt Invest Com, LTD.

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前回は安徽省の省都・合肥の不動産“超”バブルの話を書いたが、今回は海南島の三亜(san ya)を紹介したい。

参考:2012年の中国の不動産バブル1 合肥

海南島は中国最南端の島で、西はトンキン湾を隔ててベトナムと接し、南シナ海を東へと進めばフィリピン・ルソン島に至る。両国は南沙諸島や西沙諸島の領有権で中国と激しく対立しており、海南省は南シナ海の領土問題の最前線だが、それと同時にここは「中国のハワイ」ともいわれる一大リゾートだ。

海南省の省都は海口(hai kou)だが、リゾートは島の南に位置する三亜に集中し、とりわけ2000年以降、巨大ホテルやコンドミニアム(リゾートマンション)の大規模な開発が行なわれるようになった。80年代バブル最盛期に日本各地で起きたリゾートブームを何倍にも膨らませたような光景を、いまこの島で見ることができる。

もちろん、この“バブル”にはちゃんとした理由がある。

ひとつは、島国である日本とはちがって中国は古来「陸の帝国」だったこと。15億人の人口の大半は内陸部で暮らしており、生まれてからいちども海を見たことのないひとも多い。そんな彼らにとって、「海を見に行く」というだけでも人生の一大イベントなのだ。

二つ目は、東シナ海や南シナ海に面した中国沿岸部にほとんどビーチがないこと。メインランドはもちろん、香港やマカオにも観光化された大規模なビーチはない。三亜は、真冬でも海水浴を楽しめる中国でほぼ唯一のビーチリゾートなのだ。

三つ目は、外国人の富裕層にも人気があること。三亜のビーチを歩くと日光浴をしている白人をよく目にする。彼らはほとんどがロシア人で、ウラジオストクなどロシア極東部からやってくる。

ロシアの冬は暗く長く、富裕層は太陽を求めて南へと向かう。ロシアの避寒地は黒海沿岸が有名だが、いまはさらに南の地中海の島キプロスが大人気だ。キプロスはギリシア系とトルコ系で南北に分断され、かつては国境を挟んで激しい砲撃が交わされたが、現在は地中海リゾートとして人気を集め、ギリシア側(南キプロス)はタックスヘイヴンとしても知られている。

だがモスクワやサンクトペテルブルグからならともかく、シベリアの東の果てから地中海はあまりにも遠い。日本とのカニやサケなどの取引や中古車販売などで儲けたシベリアの富裕層は、手軽な避寒地として三亜にやってくるのだ。

このような諸条件を考えれば、三亜にリゾート開発が集中する理由もわかる。中国の経済成長と15億人の人口を考えれば、国内にハワイに匹敵するリゾートができたとしてもおかしくはない。

三亜は、すくなくともビーチリゾートに関しては、中国ではライバルのいない「オンリーワン」なのだ。

バブル崩壊の足音

三亜のビーチリゾートには、三亜湾・大東海旅遊区、天涯海角風景区、亜龍湾旅遊区の3カ所がある。

このうち三亜湾は市街にもっとも近いビーチで、90年代から開発が始まり、海沿いには中国系のホテルや大型のコンドミニアムが立ち並んでいる。天涯海角風景区は市街地から西に伸びる10キロに及ぶ美しいビーチで、繁華街の喧騒から離れ、落ち着いた雰囲気の住宅街という感じだ。

龍湾旅遊区はもっとも新しく開発の始まった一角で、東の半島沿いのビーチに「東洋のハワイ」をつくろうとしている。ここにはリッツカールトン、マンダリンオリエンタル、ヒルトン、シェラトン、マリオット、MGM、セントレジスなど、外資系の高級ホテルが集まっている。宿泊料金も中国国内のホテルとしては高く、冬のオンシーズンは1泊2万5000~3万円以上する。

ところで、“常夏の楽園”三亜のコンドミニアムはいくらで買えるのだろうか? 街を歩いていたら不動産業者がチラシを配っていたので、それに基づいて計算してみよう。

三亜では内陸部でもショッピングセンターとコンドミニアムの複合開発がいくつも進んでいるのだが、ここに掲載されているのはオーシャンビューのリゾート物件ばかりだ。

たとえば三亜湾に面した高層コンドミニアムは、27階の3ベッドルーム131平米で385万元(約5000万円)、19階のワンルーム48平米で88万元(約1150万円)だ。ただし合肥の回で説明したように、これはスケルトン(コンクリートの打ちっぱなし)の値段なので、自分で住むにしても賃貸に出すにしても1平米2000~3000元の内装費がかかる。3ベッドルームの物件なら内装に400~500万円かかる計算だ。

チラシには一戸建ての別荘も掲載されており、200平米で500万元(約6500万円)、「花園」と呼ばれる豪邸になると1000万元(約1億3000万円)の価格がついている。もっともこれは、日本と同じですべて売り手の言い値だから、どこまで値引きできるかは交渉次第だ。

2008年のリーマンショックを受け、中国政府は4兆元(約52兆円)規模の景気対策を打ち出し、これが09年と10年の記録的な銀行融資につながった。この2年だけで、公式のデータでも銀行融資は2兆7000億ドル(約220兆円)の巨額に達し、これが中国全土で不動産バブルを引き起こした。

とりわけ三亜は、中国政府が国策として「世界的なリゾートをつくる」と明言したため、将来の発展が約束されているとして投機的資金が殺到した。その結果、2010年には1年で不動産価格が48%も上昇し、コンドミニアムのなかには1平米=5万元で取引されたものもあったという。

だがこのチラシの物件を見ると、売り手の言い値ベースでも、平均すれば1平米=3万元前後で、オーシャンビューの物件でも安いものは1平米あたり2万元を切っている。中国政府が不動産投機抑制の方針に変わったために資金の流れが途絶え、すでに不動産価格はかなり下落しているのだ。

天涯海角風景区のコンドミニアム街を歩いてみたのだが、不動産業者の電話番号が窓に張られた物件が目立つ。内陸部にいけば建設を放棄したと思しき空き地があちこちにある。すでにバブル崩壊の足音は近づいているようだ。

踊る中国

海南島に行く機会があったら、日が落ちる頃に三亜の町を訪ねてほしい。そこでは“踊る中国”があなたを待っている。

中国全土で、公園などに地元のひとたちが集まって、ラジカセの音楽に合わせて踊るのが流行っている。日本のラジオ体操みたいなもので、もともとは健康のために太極拳などをやっていたのだが、それがいつのまにか民謡(盆踊り)やフォークダンス、社交ダンスなどあらゆる踊りに広がっていったのだ。

“踊る中国”は北京や上海はもちろん、成都や西安などの内陸の都市でも盛んに行なわれているが、三亜の海浜公園はこれまで見たなかでも最大級の規模だった。インストラクターに合わせて本格的に太極拳を舞うものから、輪になって手足を適当に動かしているものまでさまざまだが、平日の夕方だというのにとにかくすごい熱気だ。なかにはお揃いのユニフォーム(Tシャツ)姿で一糸乱れず踊る集団もいる。

海沿いを三亜の市街に向けて歩くと、“踊る中国”の背後にSF的な光景が現われてくる。海から突き出した奇妙なかたちの建物群が、夜空に浮かぶ水族館のように、イルミネーションでさまざまな魚を映し出しているのだ。

これは鳳凰島(鳳凰島)と呼ばれる人工島で、三亜湾を埋め立ててウチワ型の5つの高層ビルと6棟の超高級コンドミニアムを建て、そこに7つ星ホテルやテーマパーク、高級ショッピングセンターを入居させ、マリーナはもちろん豪華客船が停泊できるフェリーターミナルまで併設される予定だ(完成は2014年。一部の施設はオープンしている)。人工島としてはドバイの7つ星ホテル、ブルジュ・アル・アラブが有名だが、なんでも世界一でなければ気がすまない中国人は、それをはるかに上回る規模の人工リゾートを鳳凰島につくろうとしているのだ。

鳳凰島のコンドミニアム価格は北京や上海の一等地と同じ1平米8~10万元で、平均価格も日本円で1億円を超えるが、完成前にすべて完売したという。三亜のリゾート開発の頂点に君臨するプロジェクトであることは間違いない。

もっとも、投資家や富裕層がこのコンドミニアムを購入したのは2010年の最高値の頃で、今はいくらで転売できるかはわからない。このまま不動産価格が下落すれば、融資の返済に窮することになるだろう。

三亜のバブルはこのまま膨らみ続けることができるのか。鳳凰島の施設が本格オープンする2014年になったら、この興味深い経済実験の結果を知るために、次はこのSF都市を訪ねてみたい。

註:中国の不動産バブル崩壊の煽りを受けて海南島のリゾート開発も苦境にあり、鳳凰島を「中国のドバイ」にする夢は潰え、「中国不動産バブル時代のモニュメント」と呼ばれている。

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