ダイヤモンド社と共同で行なっていた「海外投資の歩き方」のサイトが終了し、過去記事が読めなくなったので、このブログで再掲載していくことにします。
今回は2012年12月公開の記事です。(一部改変)

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ありきたりな表現だが、「百聞は一見に如かず」とはこのことだ。
「中国は不動産バブルだ」と、新聞や雑誌を含め、いろんなところに書いてある。しかし実際に自分の目で見てみると、その衝撃はすさまじい。
「合肥」とといっても、ほとんどのひとは聞いたこともないだろう。
合肥(ホーフェイ)は「ごうひ」または「がっぴ」と読み、安徽(あんき)省の省都で、曹操と孫権が攻防を繰り返した三国志の戦いで知られている。上海から長江(揚子江)の古都・南京を越え、さらに100キロほど西に位置する。高速鉄道なら3時間の距離だ。
安徽省は長江と淮河(わいが)に挟まれた平原地帯で、人口は統計上6700万人とされているが実際は8000万人にのぼるといわれ、その多くが農民だ。省都である合肥も、公式人口は450万人だが実数は600万人を超えているという。
この合肥がいま、とてつもない建設ラッシュに湧いている。
約束された発展
なぜ合肥で不動産開発の大ブームが起きたかについては、ふたつの説明がある。
ひとつは、上海や杭州で人件費が高騰し、製造業の採算がとれなくなり、メーカーが内陸部へと移転を始めたこと。上海経済圏の製造業は長江を遡るように、江蘇省の省都・南京から合肥にまで伸びようとしている。
日本企業では、早くも1990年代に合肥に進出した日立建機が、公共事業の拡大とともに油圧ショベルの販売を大きく伸ばし、代表的な中国関連株になった。冷蔵庫の美菱(メイリン)や、三洋電機と合弁で洗濯機・電子レンジなどを生産する栄事達(ロンシダ)は安徽省から生まれた家電メーカーだ。
もうひとつの説は、安徽省出身の胡錦濤(フー・チンタオ)が第6代中国国家主席になったこと。前任者で権力闘争の相手でもある江沢民(チアン・ツォーミン)が江蘇省揚州の出身で、上海市長として大きな経済利権を握ったことから、胡錦濤は自身の面子を保つためにも湯水のごとく公共投資を行なって、合肥を上海に対抗できる大都市にしようとした、というものだ。もちろん真偽のほどはわからないが、上海発の高速鉄道が合肥まで延伸されたように、この話にもかなりリアリティがある。
合肥駅を降りると、人混みと渋滞に圧倒される。
渋滞の理由は、駅前の大通りをすべて封鎖して地下鉄建設の工事をしているからだ。そのため、駅から1キロも離れていないホテルに行くのに町を大きく迂回しなくてはならない。通りに面したホテルやオフィス、商店は大打撃で、店を閉めてしまったところも目立つが、中国はすべての土地が国有だから「近代化」の大義の前に人民の迷惑など関係ないのだ。
合肥の中心は堀に囲まれた三国志時代の城跡で、淮河路歩行街には屋台が並び、夜になれば若者たちですごい熱気だ。その近くには、高級ブランドがずらりと並ぶ真新しいショッピングセンターもオープンした。
だが、合肥の中心部を歩いただけではここでなにが起きているのかはわからない。
合肥市は混雑する中心部を避けて、旧城の南西部に新都心を建設することとし、市政府が真っ先に移転した。合肥駅前をつぶして建設中の地下鉄はダウンタウンと新都心を結ぶもので、高速鉄道の駅も将来は新都心まで延長されるという。
この計画が発表されると、「約束された発展」を前提に、大規模な不動産開発が次々と始まった。そのほとんどが、高級コンドミニアム(高層マンション)とショッピングセンター、オフィスビル、ホテルを組み合わせた大規模複合施設だ。
百聞は一見に如かず
「百聞は一見に如かず」。まずは写真を見てほしい。3ベッドルーム、140平米の部屋だ。
これがリビングとダイニング。

ひとつめのベッドルーム。

ふたつめのベッドルーム。

施設の全貌がわからないので、模型も載せておこう。道路を挟んで計6棟の高層マンションが建ち、下層階はショッピングモールになり、屋外プールもある。私たちが見学したのは標準タイプで、さらに高級なメゾネットタイプもあり、こちらはすでに完売したという。

ところで、この物件はいくらくらいで購入できるのだろうか?
合肥の新都心に建設されている高層マンションは1平米あたり8500~9500元で、この物件は価格を1平米=8500元と低めに抑えているから販売が好調なのだという。140平米の部屋なら約120万元、1元=13円として1500万円だ。
ただし中国の場合、マンションは内装もなにもないコンクリートの打ちっぱなしの状態で購入するのがふつうだ。実際に住むには高額の内装費が必要になる。
私が見学した展示用の物件は、映画スター、ジャッキー・チェンの自宅などを手がけた香港のインテリアデザイナーに依頼し、1平米あたり4000元をかけたという。内装費の総額は56万元≒730万円。もちろんここまで内装に凝ることはないだろうが、それでも憧れのマイホ-ムの総コストは2000万円くらいになるだろう。
中国の場合、土地は国有なので、正確には期間70年の借地権付き共同住宅の持分ということになる。これを安いと見るか高いと見るかは、比較の対象による。
上海と比べれば、ものすごく安いのは間違いない。
上海の繁華街・新天地の物件は、世界金融危機の前は1平米=10万元で取引されていた。いまはかなり下がったが、それでも1平米=7~8万元はする。上海から高速鉄道で3時間の合肥までくれば、その10分の1の値段で同じような豪邸が手に入るのだ。
ところで、いくら人件費が上がっていても、中国の中産階級が160万元(約2000万円)の物件をキャッシュで買えるはずもなく、当然、長期の住宅ローンを組むことになる。
頭金の20万元を親から出してもらい、残額の140万元を30年で返済するとしよう。現在の住宅ローン金利は7%程度だから、元利均等返済で毎月の返済額は9260元。これに管理費として1平米あたり1.4元かかるから、140平米で月額約200元。ローンの返済と合わせて毎月9500元(約12万3500円)を支払う計算になる。
月額9500元というのは、中国ではどのような金額なのだろうか?
人件費の高騰がつづいているとはいえ、内陸部の都市では工場労働者の月収は1200~1300元、一般の店員は1600~1800元、店長クラスで4000元で、企業の幹部クラスでも8000~1万元というところだ。
もちろん、省政府・市政府の幹部や国有企業の高級管理職なら1万元の住宅ローンなどなんの問題もなく支払えるだろうが、それ以外では、夫婦共働きで2人とも医者や弁護士か大手企業の管理職、といったかなり極端な設定にしなければとうてい返済不可能な金額なのだ。
計算上、この高級物件を買えるひとはほとんどいない
それではなぜ、合肥の高額物件は売れているのか?
それは多くのひとが、住宅ローン以外にも親兄弟や親戚、場合によっては非合法な金融業者から借金してまで不動産を手に入れようとしているからだろう。なぜそんな無理をするかというと、地方政府の青写真どおりに再開発が進めば、数年のうちに地価が2倍や3倍になって転売できると思っているからだ。
上海の地価は10年で5倍になった。だとしたら、いまの借金など不動産の売却益ですぐに返済できるはずだ……。
ところで、私が展示場で見たような物件を賃貸した場合、月額の賃料は4000元(約5万円)程度だという。賃貸物件の投資利回りは3%にしかならない。7%で資金を借りて3%で運用したのなら、早晩資金繰りが行き詰まるのは明らかだ。
みんなが確信しているように、1000万円で買ったマンションが3年後に倍で売れれば「無問題」だ。そうでなければ、想像を超える大混乱が起きる可能性がある。なぜなら、合肥ではすでに想像を超えることが起きているからだ。
私が見学した物件を開発したデベロッパーは、3年後の完成を目指して、その近くでショッピングセンターの建設用地を確保している。それ以外にも、合肥を中心に多数の不動産開発プロジェクトを手がけているという。
オーナーは弱冠39歳で、福建省で工場労働者をした後、仲間と3人でなんの伝手もない合肥にやってきて不動産王にのし上がった。だがこれは、“奇跡”とまではいえない。合肥には、彼と同じようにチャイニーズドリームをつかんだ成功者が何人もいるからだ。
その結果、合肥の新都心に驚くべき光景が現出することになった。

これは新都心のほんの一部だ。合肥には不動産開発計画が無数にあり、これと同じ光景がどこまでも延々と続いている。
そして奇妙なことに、計算上は、この高級物件を購入できるひとはこの街にほとんど存在しないのだ。
註:合肥は一時、「第二の深圳」として注目を集めたが、2020年の恒大ショックを機に不動産バブルが崩壊し、中古のコンドミニアムは30%値下げしても売れないと報じられた。
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