「解決できる問題」はとうに解決されているという不都合な現実 週刊プレイボーイ連載(547)

今年の事件といえば、世界ではロシアによるウクライナ侵攻、国内では安倍元首相銃撃事件でしょう。両者に共通するのは、その後の展開が紆余曲折を繰り返していることです。

隣国への一方的な侵略が許されないのは当然ですが、核保有国同士の戦争は人類滅亡につながってしまうので、クウェートに侵攻したイラクをアメリカ主導の多国籍軍で懲罰したようなことはロシアにはできなせん。それに代わってきびしい経済制裁を課したわけですが、中国やインドなどは同調せず、先進諸国もエネルギー価格の高騰で国内政治が動揺したため、ロシア産原油の取引を事実上黙認している状態が続いています。

より深刻なのは新興国で、ウクライナとロシア産の穀物輸入が途絶え食料価格が上がったことで、中東やアフリカからヨーロッパにふたたび難民が押し寄せています。物価を下げるにはロシアへの制裁を緩和しなければなりませんが、それはできないので、「世界の人権の守護神」であるEUは、ボートの転覆などで多くの難民が遭難・死亡する現実を放置しています。

安倍首相を銃撃した男が、旧統一教会への多額の献金で家庭が破壊されたのを恨んでいたことがわかって、カルト宗教の被害者の救済が大きな政治問題になりました。とはいえ、自由意志による献金と、強要された献金を区別する基準はなく、国家が宗教活動に安易に介入することもできないので、与野党が合意した被害者救済新法案は「言葉遊び」と批判されています。

より原理的に考えるならば、「解決できる問題」はとうに解決されているはずですから、いま残っている問題は、解決がきわめて困難か、そもそも解決が不可能な問題ばかりのはずです。ところが、利害が複雑にからまる問題は認知的にきわめて不快なので、それぞれの立場で自分が考える「正解」が主張され、双方が対立して世の中がぎすぎすしていきます。

性同一性障害の性別変更の際、生殖機能を失わせる手術を必要とする法律が合憲なのかの争いでは、「適合手術を求めるのは負担が大きすぎる」という意見と、「本人の申告だけで性別を変えていいのか」という意見が対立しています。

厚労省は「生活保護を受けながら大学に進学することは認められない」という60年前のルールを見直さないことに決めましたが、ここでは「心身の病気などで、進学したいが働けない若者もいる」と、「アルバイトしながら大学に通っている学生が生活保護申請したらどうなるのか」が対立しています。

東京高裁は、労災と認定されると保険料が上がるのに、事業主が労災認定の取り消しを求められないのは不適切だと判断しました。「不当な権力行使による損失を回復する方途がないのはおかしい」というのは正論ですが、「労災を取り消されると労働者が保険金の返金を求められる」との反論があり、議論は錯綜しています。

それ以外でも、(ほぼ)すべての「問題」が、こうしたトレードオフ(あちら立てればこちらが立たぬ)を抱えています。唯一たしかなのは、「そんなことは納得できない」というひとたちによって、来年もSNSが狂乱することでしょう。

『週刊プレイボーイ』2022年12月19日発売号 禁・無断転載