『不愉快なことには理由がある』が集英社文庫になりました。発売は23日(木)ですが、都内の大手書店には明日から並びはじめます。Amazonでも予約注文できます。
「選挙、生活保護、AKB48…。誰もが見て見ぬふりをする、不愉快な真実を暴く!」
はじめての選挙を迎える18歳のみなさんも是非!
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「女性は男性より競争に消極的で、出世争いで不利だ」といわれます。これは根拠のない偏見ではなく、次のような実験で確認されています。
男女2人ずつのグループに計算問題を解いてもらい、正解すると100円の報酬を支払います。5問解けば500円もらえる「出来高払い」の条件では、男女に成績の差はありませんでした。
次に4人を競争させ、もっとも多く問題を解くと賞金の全額を受け取れるという「勝者総取り」にルールを変えてみます。自分が6問解き、残りの3人が5問なら2100円もらえるのですから、みんな必死に問題に取り組みます。この競争によって全体のパフォーマンスは向上しますが、やはり結果に男女差はありませんでした。
最後に研究者は、男性と女性の参加者にどちらのルールが好ましいか訊きます。すると、勝てる確率は同じにもかかわらず、男性の7割強が「勝者総取り」を選び、女性の7割弱は「出来高払い」を望んだのです。
女性の「競争嫌い」は脳科学でも説明できます。脳の後部に位置する視覚大脳皮質は相手の表情から感情を読み取ることに関係しますが、ストレスを与えられると女性はこの領域が著しく活性化するのに、男性は逆に活動が抑制されます。これは緊急事態への対処法が男女で異なるためで、強いストレスを受けると女性は周囲のひとたちの共感を捜し求めるのに対して、男性は周囲の反応を無視して問題に集中しようとするのです。
進化の歴史を通じて、男性(オス)は「競争する性」、女性(メス)は「投資する性」として淘汰の強い圧力を受けてきました。女性を獲得できなければ子孫を残せない男にとって失うものはありませんが、女性は妊娠から授乳まで大きな投資をして子どもを産み育てます。失うものが多ければ、リスクに対して慎重になるのは当然です。
あらゆるゲームに共通するのは、「リスクをとらなければ勝利はない」ということです。男女の生理的な差を考えれば、競争社会の勝者に男性が多いのは「ガラスの天井」のせいではなく、参加者の数のちがいということになります。
しかし、競争にはもうひとつ、「負ければなにも得られない」という現実があります。リスクをとった勝者の背後には、敗者となって脱落していく膨大な数の男性がいます。彼らが社会の底辺にふきだまるようになったのが「格差社会」です。
こうして、問題はじつは無謀なリスクをとる男性の側にあるのではないか、との主張が出てきます。男性は自分の能力を過信して「勝てる」と錯覚しており、女性は自分の実力を冷静に判断して不利な競争を避けているのです。この仮説を証明するように、勝つ見込みがあると思えば、女性は男性よりも積極的にリスクをとり、勝負に執着するとの研究も現われました。
現代のような複雑な社会では、勝ち負けはスポーツのようにすっきりとは決まらず、優勢と劣勢が入れ替わりながらずっと続くのがふつうです。男性は決着のつく「有限ゲーム」は得意ですが、終わりのない「無限ゲーム」を生き延びるには、不利な競争を避けて有利なときだけリスクをとる女性の戦略の方が効果的です。
こうして先進国では、徐々に女性が社会の中核を占めるようになってきました。日本は男女平等ランキングで世界最低レベルの101位ですが、「女性が活躍できない社会に未来はない」のです。
参考:ポー・ブロンソン、アシュリー・メリーマン『競争の科学-賢く戦い、結果を出す』 実務教育出版
『週刊プレイボーイ』2016年6月13日発売号
禁・無断転載
話題のパナマ文書にはやくも「大山鳴動して鼠一匹」の雰囲気が漂いはじめている。アイスランドの首相が辞任したり、イギリスの首相が国会で窮地に立たされたあたりまでは盛り上がったものの、そのあとがまったく続かないのだ。日本ではけっきょく、政治家の名前は一人も出てこなかった。
政治家は公人として、パナマ文書に名前があれば、法的・道義的な疑惑を国民に釈明しなくてはならない。だが株式会社が説明責任を負うのは株主で、個人は自分の行為を第三者に説明する義務はない。メディアが取材しても、「すべて適法に行なっています」「プライベートなことに答える必要はありません」といわれればそれまでだ。
税務当局が調査に入れば別だが、よほど悪質でなければ公表されないし、明らかになったとしてもずっと先のことだろう。もともと尻すぼみになることはわかっていたのだ。だったら、あの大騒ぎはなんだったのか。
「租税回避」には合法なものと非合法なものがあり、非合法だと脱税、合法なら節税だが、両者のあいだには広大なグレイゾーンがある。
テレビのワイドショーをはじめとするパナマ文書の報道では、タックスヘイヴンは「悪の巣窟」として描かれるのがふつうだ。そこには、合法的な租税回避、すなわち節税は主権者としての国民の権利だという視点は完全に欠落している。
脱税は利益に対して適切な税を納めないことだから、批判されてしかるべきだ。でも世の中には、それよりはるかに悪質な行為がある。それは、他人が納めた税金を詐取することだ。
といっても、どこぞのセコい知事や、なにかと批判される生活保護の不正受給の話をしたいのではない。もちろんこれも大事なことではあるが、桁ちがいの税金詐取が日常的に行なわれていることはほとんど報じられない。
タックスイーターは農水族、建設族、厚生族、文教族、郵政族、地方族、商工族などの族議員と結びついてさまざまな恩恵にありついてきた。自由な市場でライバルと競争するより、お上の保護のもとで公金をせしめた方がずっと楽に儲かるからだ。 度重なる行政改革でかつてのような濡れ手に粟のぼろ儲けはできなくなったというものの、いまでも権力の甘い蜜があるところには無数のタックスイーターが棲息している。
タックスイーターとは何者なのか。それは税に群がる政治家であり、国益よりも省益と天下り先を優先する官僚であり、規制によって既得権を守ろうとする財界のことだ。そして究極のタックスイーターは、国債で将来世代の負担を先食いし、年金や健康保険に充てている日本国民自身だ。
その結果、日本は1000兆円という天文学的な借金を背負うことになったのだが、そんなことを大真面目に批判しても嫌われるだけだ。必要なのは誰の既得権も侵さないスケープゴートなのだから、パナマ文書がおどろおどろしく脚色されるのも当たり前なのだろう。
参考:志賀櫻『 タックス・イーター-消えていく税金』 (岩波新書)
橘玲の世界は損得勘定 Vol.59:『日経ヴェリタス』2016年6月5日号掲載
禁・無断転載