参院選は与党の自民・公明が過半数割れの大敗となり、反ワクチン運動から始まった参政党が大きく票を伸ばしたことで、戦後日本の政治が地殻変動を起こしたといわれています。
この選挙結果にはさまざまな要因があるでしょうが、そのなかでもっとも大きいのは「デフレから“脱却”して、日本人がどんどん貧乏になっている」ことでしょう。
安倍政権の長いデフレでは、高齢者は年金の実質価値が上がり、現役世代は賃上げがなくても定期昇給で少しずつゆたかになっていくように思えました。少子化で大学生の就職内定率は9割を超え、若者からの高い支持も獲得できました。安倍政権は「諸悪の根源」であるデフレと戦ってきましたが、皮肉なことに、デフレによって長期政権が維持できたのです。
ところがコロナ禍とロシアによるウクライナ侵攻で物価が上がりはじめると、賃上げが物価上昇に追いつかずに実質賃金は3年連続でマイナスになり、デフレで封印されていたマクロ経済スライド(物価の上昇率よりも年金の減額幅を大きくして、年金財政を健全化する仕組み)が発動されたことで、年金の実質価値も下がってしまいました。
こうして6割の世帯が「生活が苦しい」と感じるようになり、そこに主食のコメ価格が急騰したことで、多くのひとが「なにかが間違っている」「政治を変えなければならない」と考えるようになったのでしょう。
じつはこれと同じことは、すでにヨーロッパで起きています。象徴的なのはフランスで、2017年の大統領選では与党・社会党のオランド大統領が支持率低迷から立候補を断念し、「突然変異体」と呼ばれたエマニュエル・マクロンが若干39歳で大統領に当選します。さらに衝撃的なのはそれにつづいて行なわれた総選挙で、マクロンが創設した新政党・共和国前進が全573議席中306議席を獲得して圧勝する一方で、それまで与党だった社会党は得票率5.7%、30議席の壊滅的敗北を喫しました。
その後もヨーロッパでは、同様の“異変”が次々と起きます。イギリスではEUからの離脱を主導したナイジェル・ファラージのリフォームUKが、今年5月の下院補欠選挙や地方選挙で大躍進し、長くつづいた保守党・労働党の二大政党制が揺らいでいます。
ドイツでは「排外主義政党」と見なされるAfD(ドイツのための選択肢)が今年2月の連邦議会選挙で全630議席中152議席を獲得する大勝を果たし、その一方で与党だった中道左派の社会民主党ショルツ政権は議席を4割も減らしています。
さらに驚くべきはオランダで、“極右”のヘルト・ウィルデルスの“一人政党(党員はウィルデルス一人ですべての意思決定を握っている)”自由党が2023年の選挙で第一党になり、4党で連立政権が発足しましたが、そのうち3党(自由党・新しい社会契約・農民市民運動)が新興の「アウトサイダー政党」だったのです。
このようにヨーロッパでは、既成政党が失墜し、極端な政策を掲げるアウトサイダーが政権を獲得することがごくふつうになっています。だとしたら日本で同じことが起きたとしても、なんの不思議もないのでしょう。
水島治郎編『アウトサイダー・ポリティクス ポピュリズム時代の民主主義』岩波書店
『週刊プレイボーイ』2019年7月28日発売号 禁・無断転載