いじめの犯罪化や加害生徒の強制転校に効果はあるか? 週刊プレイボーイ連載(579)

文科省の調査では、全国の小中学校を30日以上欠席した不登校の状態にある子どもが、前年から約5万4000人(率にして22%超)増えて29万9000人になり、10年連続で過去最多を更新しました。その要因としてあげられるのがいじめで、認知されたいじめ件数は小学校が約55万件、中学校が11万件となっています。

学校でのいじめが問題になっているのは、もちろん日本だけではありません。フランスでは今年5月、中学生の女の子が8カ月にわたるいじめやネットでの嫌がらせを苦に自殺する事件が起きました。これまでもいじめが原因の自殺が繰り返されており、民間団体の調査では生徒のすくなくとも41%が「反復的かつ継続的な言葉や身体的、心理的暴力の被害の経験がある」と回答し、国民教育省も全生徒の10人に1人が学校でいじめ被害にあっていると認めました。こうした事態を受けて、いじめ撲滅はマクロン政権にとって「絶対的な優先事項」になりました。

まず2022年3月の法改正で、いじめ被害者が自殺または自殺未遂をした場合、最高で懲役10年、罰金15万ユーロ(約2300万円)が科されるなど、いじめが犯罪化されました。実際、今年9月には、「いじめの加害者に強いメッセージを送る」ために、パリ郊外の中学校に通う14歳の少年を、授業中に教室で手錠をかけて逮捕しています。少年はSNSで知り合ったトランスジェンダーの高校生に、「性的指向や性自認を否定し、自殺するよう要求するメッセージ」を送っていたとされます。

さらにフランスでは9月から、学校内でのいじめ加害が確定した生徒を、校長と自治体首長の判断で強制的に転校させることが可能になりました。いじめの認定は3段階からなり、最初は学校内で生徒、保護者と話し合い、次に国の教育機関の教育心理学者や医療関係者が介入し、それでも解決せず「被害者生徒の安全に重大な脅威を与えている」と判断されると、強制転校させられるようになります。

いじめ問題は、加害生徒にいじめの認識がなかったり、自分が被害者で、正当防衛の報復を行なっただけだと考えていることも多く、解決が難しいのが実情です。そこでこれまでは、「被害生徒が転校して環境を変えるしかない」とされていたのですが、家庭の事情で転校できない生徒もいるでしょう。被害者がさらなる負担を余儀なくされるのは理不尽なので、加害生徒を強制的に転校させるという方針には説得力があります。

しかし問題は、加害生徒やその保護者が、こうした措置に容易に納得しないことでしょう。その結果、説明・説得する現場の負担が過大になり、フランスの教師の50%が5年後には転職するといいます。

ヒトはもともと、同じ年齢の子どもだけを集めて、施設で「教育」されるようには進化していません。いじめや不登校の根本的な原因は、近代以降、学校という“異常な”環境に子どもを“監禁”してきたことにあります。

そう考えれば、この問題を解決するには学校制度を解体するしかありませんが、それが現実的ではないので、いじめの「厳罰化」に突き進むことになるのでしょう。フランスの「社会実験」がどんな結果になるかは、今後の日本のいじめ対策にも大きな影響がありそうです。

参考:安部雅延「フランス、いじめ厳罰化「加害者を転校させる」背景」東洋経済オンライン2023年9月5日
「いじめ加害者の14歳、授業中に逮捕 仏政権「強いメッセージ送るため」」朝日新聞2023年9月23日

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