観光振興はカジノ特区ではなく大麻解禁で 週刊プレイボーイ連載(563)

コロナ後はじめての海外旅行で、香港と東南アジアを回ってきました。タイのバンコクは、悪名高い渋滞は相変わらずですが、高級ホテル、高層オフィスビル、ショッピングモールなどが続々とオープンし、中心部のコンドミニアムの販売価格は1億~5億円といいますから、もはや六本木などと変わらなくなりました。

もうひとつの大きな変化は、2022年6月に大麻が事実上解禁されたことです。法的には医療目的などに限定されているものの、違法薬物リストから除外されたことで、バンコクでは大麻ショップが乱立しました。大麻草を使った料理を出すレストランやカフェもあり、コンビニでは大麻入りのジュースが売られるなど、さながら「マリファナバブル」の様相を呈しています。

薬物使用を重罪として取り締まる「麻薬戦争」が失敗したことで、世界的に大麻の合法化・非犯罪化が進んでいます。先陣を切ったのはオランダでしたが、現在ではヨーロッパはほぼ非犯罪化され、アメリカでもカリフォルニア州など多くの州で合法化されています。

それに対してアジアでは、大麻の所持・使用の最高刑が死刑の国も多く、日本と同じ「ダメ。ゼッタイ」政策を採っています。そのなかでタイが大麻を解禁したインパクトは大きく、「タイ・バーツが高くなったのは大麻が外国人観光客を惹きつけたから」との説が広まるなど、一定の経済効果があったようです。

タイでは酒の販売・提供が午前11時から午後2時と、午後5時から午前0時までしか認められていないほか、選挙の前日と当日、仏教に関連する祝祭日は禁酒日です。アルコールを規制しつつ大麻を解禁するのは矛盾しているように思えますが、その背景には近年のタイ政治の混乱があり、政党同士の合従連衡のはずみで極端な政策が実現しやすくなっているのだと説明されました。

子どもが大麻入りのクッキーを食べて病院に搬送される事例が相次ぐなど、大麻解禁には批判も多いようですが、軍事クーデターで誕生した現政権は人気がなく、勃興しはじめた大麻ビジネスをいまさら全面禁止するのは難しそうです。

そもそも大麻については、依存性や毒性がニコチンやアルコールよりも低く、鎮痛・鎮静・催眠などの医療的効果があることもわかってきて、国家が嗜好品としての使用を禁じる根拠が揺らいでいます。大麻が「ゲートドラッグ」になって違法薬物の乱用が拡まるとの危惧もありますが、実質解禁した欧米諸国でそのような事態が起きているようには見えません。

リベラリズムの基本は、他者の権利を侵害しないかぎり、悪癖を含む自由な選択を個人に保証することです。大麻に他者危害の恐れがないのであれば、「リベラル」を掲げるメディアや識者は率先して解禁の旗を振らなければなりません。

「カジノ特区」には、ギャンブル依存症を理由とした根強い反対があります。だとしたら日本も、依存性の低い大麻によって観光振興を図ったらどうでしょう。これならば、リベラリズムに背を向ける隣国とのちがいを、世界に向けて効果的にアピールすることもできるでしょう。

バンコクのカオサン通りにあるWEED-CITY(葉っぱ村)
大麻が実質解禁されたタイでは、こういうのがふつうに売られている

『週刊プレイボーイ』2023年5月22日発売号 禁・無断転載