2025年のもっとも大きな出来事は、日本ではじめての女性首相が誕生したことでしょう。台湾有事をめぐる高市早苗首相の国会答弁に中国が強く反発し、常識では理解できないような対応(というか、いやがらせ)を行なったこともあって、高い支持率を維持しています。
日本経済はデフレから「脱却」したあと、物価の上昇に賃上げが追いつかず、実質賃金が長期にわたって下がりつづけています。とりわけ米の価格が急騰したことで家計が苦しくなり、それが衆院選での国民民主党と参政党の躍進につながりました。高市政権は「責任ある積極財政」を掲げてインフレ対策にちからを入れていますが、その結果、円安がさらに進んで輸入物価が上昇し、長期金利が上昇しています。
とはいえ、「トランプ関税」や米中対立で世界経済が破綻するようなことは起きず、逆にAI(人工知能)への期待(あるいはバブル)によって株価が上昇し、日本の株式市場は1990年代のバブル崩壊後の長い「冬の時代」からようやく抜け出しました。
北海道や東日本の各地で市街地にまで熊が出没して不安が広がる一方で、関西万博は(予想外の)成功をおさめ、大谷翔平らが所属するドジャースがワールドシリーズを連覇して日本中が歓喜に湧きました。そうやって振り返ると、いろいろ騒がれているわりには、今年は案外よい年だったのではないでしょうか。
人類は長い歴史のなかで、よいことよりも悪いことに注目するという心理的傾向を進化させてきました。SNSのアテンション・エコノミーでは、脳のこの“バグ”を利用してひとびとの不安を煽り、アクセスを集めようとします。それが社会を分断させているのは間違いありませんが、SNSやAIが生活をゆたかにするということもあるでしょうから、否定ばかりしていてもしかたありません。「技術」なのか「魔術」なのかわからなくなったテクノロジーと、なんとかうまくやっていく方法を見つけるしかないでしょう。
超高齢社会の日本では、現役世代の負担で高齢者の社会保障を支えるしかなく、世代間対立が顕在化してきました。ところが内閣府が2022年に行なった「こども・若者の意識と生活に関する調査」では、10歳~14歳で「今、自分が幸せだと思う」が62.8%、「どちらかといえば、そう思う」が31.4%で、合わせて9割を超えています。15歳~39歳でも8割以上が肯定的な回答をしており、「未来に希望がなく、社会に絶望している」という通念とは異なって、日本の若者の幸福度はきわめて高いようです。
これは「たくさんあるものは価値が低く、少ししかないものは価値が高い」という需要と供給の法則によって、少子化で子どもや若者の社会的な価値が上がっているからでしょう。世界では若者の失業が問題になっていますが、空前の人手不足の日本では、大学を出れば(最近は高卒でも)ほぼ全員が就職でき、30代前半までなら転職も簡単です。
そう考えれば、治安がよくて若者が幸せに暮らしている日本は、人類史上もっとも成功した社会のひとつかもしれません。とはいえ社会調査では、男女ともに年をとるにしたがって幸福度は下がっていくようですが。
【追記】今年最後の記事になります。みなさま、よいお年をお迎えください。
『週刊プレイボーイ』2025年12月22日発売号 禁・無断転載