デフレから脱却して日本社会はますます貧乏になった 週刊プレイボーイ連載(550)

2022年12月の消費者物価上昇率は、生鮮食品を除く総合で前年同月比4.0%と、41年ぶりの高水準になりました。日銀の生活意識調査では、1年後の物価の予想が「9.7%上昇」と過去最高を記録しました。

2000年代に入ってから、リフレ派の経済学者は、「物価が上昇するまで金融緩和を続けると「コミットメント」して、ひとびとの「インフレ期待」を生じさせないかぎりデフレから脱却できない」として、当時の日銀総裁の消極的な金融政策を激しく批判しました。

第二次安倍政権とともに就任したのが黒田東彦総裁で、リフレ派を牽引してきた経済学者を副総裁に迎え、「トリプル2(2年間で物価目標2%を達成するためにマネタリーベースを2倍にする)を宣言しました。ところがその後もデフレ傾向に変化はなく、14年4月の消費税増税のせいだと八つ当たりしましたが、金融政策の目標をマネーの供給から金利に変えた異次元緩和でも物価は微動だにせず、日銀の国債保有額は異常な水準まで積みあがりました。

「コミットメント」とは不退転の決意のことで、約束が実現できなければ責任をとるのは当然です。リフレ派の副総裁は退任しましたが、「2年で2%」をコミットした黒田総裁は、「アベノミクス」の象徴だという理由で、目標未達のまま再任されました。ところが10年におよぶ任期の最終盤になって、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻という、金融政策とはまったく関係のない理由でとうとう物価が上がりはじめたのです。

リフレ政策の壮大な「経済実験」の結果をまとめれば、日銀がなにをしようとインフレ期待にはなんの影響もなく、資源価格の高騰などで実際に物価が上がりはじめれば、ひとびとはインフレを期待(予想)するようになるという、子どもでもわかる話になりました。

「デフレがすべての元凶」なら、どのような理由であれ、デフレから脱却すれば経済は上向くはずですが、なぜか景気のいい話はまったく聞こえてきません。

まず、物価が4%以上上がっているのに、1人あたりの賃金は0.5%しか上がらず、(物価変動の影響を考慮した)実質賃金は前年同月比3.8%減になりました(22年11月)。内訳を見ると、正社員の賃金は基本給(1.5%増)や残業代(5.2%増)などが上がったものの、ボーナスがマイナス19.2%と大幅に減ったため、全体としてはわずか0.2%増でした。それに対して1人あたり総労働時間はほとんど変わらず(0.2%減)、同じように働いても物価が上がった分だけ貧しくなる状況に陥っています。

日銀の調査では、「(暮らし向きに)ゆとりがなくなってきた」との回答が53.0%と13年ぶりの高さになり、総務省の家計調査(22年11月)では(物価変動の影響を除いた)実質の消費支出が6カ月ぶりに前年同月の水準を下回りました。

これをまとめると、「物価がどんどん上がっているのに収入が増えず、家計が苦しくなって節約するようになり、それによって市場が縮小している」になります。

岸田首相は「物価上昇率を超える賃上げの実現」を経済界に要請しましたが、生活防衛の買い控えで売り上げが減っているのに人件費を増やせば経営が行き詰ってしまいます。この「負のスパイラル」によって、日本社会はデフレ時代より貧乏になっているようです。

『週刊プレイボーイ』2023年1月23日発売号 禁・無断転載